「勉強しなさい!」を言ってはいけない…開成・柳沢校長の教育論

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 東大合格者数日本一で知られる開成中学校・高等学校の柳沢幸雄校長が10月、中央公論新社から「子どもに勉強は教えるな」という著書を出版した。タイトルは、50年近く教育界に身を置き、小学生から大学院生まで幅広く教えてきた柳沢校長が、経験から確信したことだという。この著書で展開されている教育論の一端を、3回連載で紹介する。

「勉強しなさい」は親からの刷り込み

「子供の意欲を育てるか、芽を摘むのか。その7割ぐらいは親の育て方にかかっている」と語る柳沢校長
「子供の意欲を育てるか、芽を摘むのか。その7割ぐらいは親の育て方にかかっている」と語る柳沢校長

 この記事をご覧の皆さんに質問です。

 「あなたは子供時代、親から勉強しろと言われて育ちましたか」

 「あなたは子供時代、親から勉強しろと一度も言われずに育ちましたか」

 では、「勉強しなさい」と言われて育った方は、そう言われたとき、どんな気持ちになったのか思い出してください。素直に勉強しようと思いましたか。やる気が湧いたでしょうか。たぶん、「うるさいな」「かえってやる気がなくなる」のように、煩わしさの方が大きかったのではないでしょうか。

 つまり、「勉強しなさい」と言われて、著しく成果が上がったという人は少ないと思うのです。それなのに、なぜ、子供に同じことを言ってしまうのでしょう。シンプルに考えて、成果も出ない上に、子供を嫌な気持ちにさせるなら、言わない方がいいと思いませんか。

 昨今、教育に悩む親御さんが増えています。ほとんどの方が、「我が子と勉強」について、何かしらの悩みを抱えています。実は、始めの質問「勉強しなさい」は、これらの悩みの根っこを理解するのに、重要なキーワードとなるのです。

教育は保守的なものである

 私は教育というものを、非常に保守的だと考えています。なぜなら、自分が経験してきたこと、または、自分が育った環境の中で見聞きしたことを土台に次の世代を育てていくからです。

 たとえば、動物を例に考えてみましょう。野生動物というのは、当たり前に子供を産み、育てます。しかし、動物園で生まれ育った動物の中には、子育てを放棄したり、うまく育てられないものもいます。群れの中に暮らし、見よう見まねで子育てができないことが理由の一つです。

 実は、人間社会にも、これと似たようなことが起きています。一昔前は、何世代もが同居し、子育ての方法が当たり前に伝えられましたし、ご近所さんの育児方法が自然に目に入ってきました。しかし、核家族化が進んだ現在。知恵を授けてくれる上の世代や、見本となる対象が周囲にいないため、親と子だけの関係、密室の子育てになってしまいます。

 そうなると、親は自分が受けた教育だけをベースに子育てをするので、「勉強しなさい」と言われて育った人は、子供にも同じように「勉強しなさい」と言ってしまうのです。

勉強を義務と考えたら、それは苦行になる

 「どうして勉強しなきゃいけないの」と、子供が尋ねることがあります。そんなとき、あなたはなんと答えますか。

 もし、「勉強するのが子供の義務だからよ」と答えたとしたら、かなりの高確率で勉強嫌いな子供になります。なぜなら、勉強を「義務」と考えたとたん、苦行になってしまうからです。

 大人だって、義務だから働けと言われたら、労働意欲が低下するでしょう。「家計を赤字にしないために、働くのがあなたの義務だ」と断言されたら、会社に向かう足取りは重くなってしまいます。それなのに、平気で「勉強は子供の義務」と言ってしまうのも、やはり、親からの刷り込みが原因なのです。

 最近、子供の虐待に関する、心が痛くなるニュースをよく目にしますが、親から殴られて育った人は我が子を殴る傾向があります。もちろんすべてではありませんが、親から一度も殴られたことのない人が、しつけのために我が子を殴るケースを、私は(いま)だかつて聞いたことがありません。

 つまり、良きにつけ悪しきにつけ、親は自分が受けた教育を原体験とし、子育ての際、そのまま踏襲してしまいます。これが、教育が保守的であるというゆえんです。子育てに悩んでいる親御さんは、まずは、そのことに気付くのがとても重要なのです。

勉強は本来楽しいもの

 子供は好奇心のかたまりです。好奇心というのは知的欲求です。たとえば、サッカーや野球のルール。興味のない人にとって、それを理解するのは決してたやすくありません。また、ポケモンのキャラクターの名前。興味のない人にはまるで頭に入ってこないのに、子供たちはあっという間に覚え、また、一つ一つのキャラクターの特徴など、事細かに覚えており、その記憶力には舌を巻きます。

 つまり、子供たちは、興味さえあれば、難しいことであろうがなかろうが、驚くべきスピードで理解し、覚えてしまうのです。「そんなことより、単語の一つも覚えてほしい」などと言わないでください。なぜなら、楽しみながら理解し、覚えていくことこそが、子供を大きく成長させるからです。

 勉強というのは、新しいことを知り、自分の世界をどんどん広げていくこと全般を指しているのです。国語、算数、英語といった「学校の授業に出てくる勉強」だけを別枠にして、「やらねばならない」という義務感に持っていってはいけません。「とにかく、学校で習う勉強を」と持っていきがちなのは、親の中に「勉強はたとえ嫌でも、やらなくてはらない」という思い込みがあるからです。これもまた、自分の親からの刷り込みだと気付きましょう。

 そして、不思議なことに、勉強に関する期待度だけはどの親も高い傾向があります。たとえば、我が子をピアニストや野球選手にしたくても、よほどずば抜けた才能がなければ、「うちの子では難しいだろうな」と諦めます。6年生で100メートルを11秒台で走ってほしいと願っても「まあ、無理だろう」と思います。そうしたことは簡単にあきらめるのに、なぜか勉強だけは別枠と考え、「勉強しなさい」「勉強しないと将来困るよ」などと、脅したりするのです。

 スポーツだって、キャラクターを覚えることだって、楽しいから夢中になり、上達します。勉強だって同じです。新しいことを知るのが楽しい、分からなかったことが分かるようになるからうれしいのです。そして、楽しいことは強制されなくてもやるのです。

 子供は親の鏡です。子供の教育に対して悩みを持っている人はまず、「勉強=義務」という考え方を捨ててください。そして、「勉強は楽しい」「新しいことを知るのは楽しい」という感覚を、親自身が自分の中で探して見つけていきましょう。たくさんの可能性を持っている子供の意欲を育てるか、芽を摘むのか。その7割ぐらいは親の育て方にかかっているのです。

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911364 0 トピックス 2019/11/22 05:23:00 2019/11/22 09:44:01 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/11/20191121-OYT8I50028-T.jpg?type=thumbnail

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