【特集】壁新聞作りで社会に目を向け、思考力を磨け…昭和秀英
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昭和学院秀英中学校・高等学校(千葉市)は、生徒が社会の動きを知り、自分の意見を持つことを狙いとした「総合学習」を行っている。中学1、2年生では、各社の新聞を教材に活用し、一人一人が壁新聞作りに取り組む授業を行い、論理的な意見の述べ方や、問題提起の方法が身に付くなどの効果が挙がっているという。
データと論理に基づく新聞の伝え方を学ぶ

「本校では、質の高い授業やきめ細かい進路指導など『あたりまえ』のことを高いレベルで着実に実践し、国公立や難関校への進学実績を伸ばしてきました。しかし、今後はさまざまな変化や変革に対応する力も必要です。2020年度からは新しく大学入学共通テストが導入され、今の中2生が受験する24年度入試はさらに大きく変わると言われています。そうしたことを念頭に総合学習を進めているのです」
中心となって中3までの総合学習プランを策定し、中2の総合学習を担当している国語科の佐々木雅章教諭はこう話す。
佐々木教諭が、中1から中2にかけての総合学習の資料として使っているのは新聞だ。同校は、新聞協会が指定するNIE(Newspaper in Education)の実践指定校であり、8社の新聞を活用している。「現在、ネット上には根拠や責任の伴わない匿名の情報が多く、受け手が振り回される弊害も出かねません。本校では主要紙を含む各紙を購読しており、図書館や校内のラウンジに置いていつでも目を通せるようにしてあるので、それを資料として活用することにしました」
中1では、興味を持った新聞記事をスクラップして1枚にまとめたり、新聞記事を通して社会が直面する課題を発見、考察したりする学習を行った。「小学校ではクラス全体で一つの意見にまとまるという教育が多かったと思うので、まずは『自分の意見を持つ』ことに重点を置きました」
中2ではさらに、客観的なものの見方を身に付けることを学習の狙いとした。「自分の意見を持つと、それを補強するような情報や意見を集めて『正しい』と思い込みたくなるものです。その点、新聞は『~と思う』『~と感じる』などの主観的な言葉を使わず、データと論理に基づいて情報や考え方を伝えます。また、複数の新聞を読み比べることによって、同じ出来事について多面的な見方を知ることもできます」と佐々木教諭は狙いを説明する。
中2では今年、1学期の授業の導入として、話題になったコンビニエンスストアの24時間営業への賛否をテーマに設定した。まず自分の考えを仮に決めた上で新聞記事を調べ、改めて自分の意見を述べる学習を4回にわたって行った。
学期の後半には壁新聞作りに取り組んだ。それぞれ興味を持ったテーマの新聞記事を集めて参考としながら自分で記事を作成し、模造紙大の用紙で1人1枚、壁新聞を作る。作業は類似のテーマを選んだ生徒が5~8人程度のグループを作り、意見交換を行いながら進めた。
テーマを調べる際には、大学や企業でも意見交換に使われる「リフレクションペーパー」の手法を活用した。1枚の紙を左右の欄に分け、左の欄にその日の新聞記事を調べて分かった事実や考えたこと、右の欄には今後調べたいことを記入する。これを生徒同士のディスカッションに活用したり、教員が確認してアドバイスをしたりした。
7月の学期終了前に、1人3分ほどで壁新聞のプレゼンテーションを行い、9月に開催された文化祭「雄飛祭」でも展示を行った。
壁新聞作りを通して社会の問題に関心を深める
生徒たちの壁新聞のテーマは、プラスチックゴミ問題や裁判員制度、高齢者ドライバーによる交通事故などの社会問題から、宇宙開発や日本固有種の生き物、米プロバスケットボールリーグでドラフト指名された八村塁選手まで、さまざまだ。
2年生の明星利奈さんは、最近国内で話題となった理系のトピックをまとめ、「すごいぞ日本!新聞」を作成した。iPS細胞に関する最新動向や問題点を始め、AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」、ゲームによる脳の活性化の可能性などを取り上げた。 「家族に医療関係者が多いので、もともと生命科学に関心がありました。最新のニュースを調べるのは楽しかったけれど、新聞の形にまとめるのは難しく、苦労しました」と、感想を話した。「今までより問題意識を持って新聞を読みたい。iPS細胞のことも、もっと深く知りたいです」
2年生の山本啓竣君は「税・年金新聞」を作成した。テレビで消費税に関するニュースを度々目にし、関心を持ったという。壁新聞では消費税引き上げの経緯のほか、野党などによる増税反対の論調にも触れ、「身近な税」の一例としてビールにかかる酒税についても論じている。「レイアウトは新聞を参考にして、遠くから見ても内容が分かるように見出しの大きさなどを工夫しました。授業を通して社会のことに目が向くようになり、自然災害や天皇即位の儀式にも興味を持ちました」
佐々木教諭は1学期の総合学習を振り返って、「普段の授業でも、論理的な意見の述べ方や、問題提起の仕方がうまい生徒が増えてきた」と評価する。
授業を超えたチャレンジのきっかけ作りも
2学期の総合学習では、主にプレゼンテーションの練習に力点を置いたプログラムを進めている。社会貢献や企業との「共創」をテーマとする課題を教員が提示し、生徒は6人ほどのグループでアイデアをまとめ、発表を行う。「人工衛星を利用した新しいサービス」「本の電子化が進む中で、あえて紙の本をプロモーションするアイデア」「プラネタリウムの新しいアイデア」「外国人に対する千葉の魅力のプレゼンテーション」など六つの課題があり、生徒たちは一つを選んで取り組んでいる。
中2の3学期から中3の1学期では、中3の5月に行われる京都・奈良修学旅行を題材に、欧米人、アジア人など特定の外国人のニーズを踏まえた架空ツアーの作成を行う予定。中3年の2~3学期には、実際の企業から出された商品開発やコンテンツ開発などのミッションに取り組む探究プログラム「クエストエデュケーション」も予定している。
こうした一連の総合学習の狙いは、「本質を考え抜く力を育むこと」と「やりたいことの選択肢をたくさん提示すること」と、佐々木教諭は話す。「思考力の鍛錬には開校時から力を入れており、高2までの各学年の期末試験に800字の作文試験を課しています。中学2、3年では『自由』や『異文化理解』など大きなテーマの評論文を読ませ、自分の考えを書かせる。優秀作は毎年発行する『
生徒の積極性を引き出す工夫もしている。「学校の課題を『やらされている』と感じる場合もあるでしょうし、もっと多様なチャレンジの機会を知ってほしい。そこで数学オリンピックをはじめとした外部のコンクールやプログラムの案内も随時配布しています。自分の関心事につながるものがあれば、楽しみながら自分で自分を磨いていけるはず。もちろん今後の大学入試に導入されるe-ポートフォリオにも役立ちます」
同校には「明朗謙虚」「勤勉向上」という二つの校訓がある。このうち「勤勉向上」について佐々木教諭は、「『向上』という言葉を本校では、『現状に満足することなく、新しい可能性を持つ自己を創造していくこと』と捉えています」と説明する。「特にこれからの時代はそうした『向上』が必要でしょう。その手助けをしたいと、私たちも日々情報を集め、アイデアを考えています」
生徒の可能性を開くため、教科や授業の枠を超えた教員たちの努力が続いている。
(文・写真:上田大朗 一部写真提供:昭和学院秀英中学校・高等学校)
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