「出会い」を通して個性を開花させる卒業研究…明星学園

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 明星学園中学校・高等学校(東京都三鷹市)は今年度、中3生の卒業研究を始めて四半世紀の区切りを迎えた。同校の探究学習の中核をなす学びであり、中3生たちは「自分が知りたいこと」をテーマに1年がかりで調査、考察し、論文にして全員がプレゼンテーションを行う。重視しているのは、学校外のさまざまな人や環境との出会いだという。昨年度の卒業研究に携わった教諭と、優秀な研究成果を上げた現高1生3人に話を聞いた。

卒業研究を支援する卒研ボランティアの存在

 昨年度の卒業研究の運営責任者を務めた社会科の小畑典子教諭は、1996年度から続いている卒業研究の目的をこう説明する。「本校にはさまざまな個性を持つ生徒が集まります。自分の好きな事を誰かに伝えたり、互いの関心事に目を向けたりすることで、自分の個性や持ち味を知り、さらに伸ばしてほしい。また、学校外のさまざまな人や物事と出会い、視野を広げる狙いもあります」

 「本物との出会い」が生徒の個性を開花させる。この考え方は、同校の教育全体を貫いている。卒業研究では、自分の興味に基づいてテーマを決め、約8000字の論文を作成する。その過程にもさまざまな出会いの機会が組み込まれている。

昨年行われた卒業研究発表会
昨年行われた卒業研究発表会

 卒業研究のスタートは、中2の1月に一つ上の学年の「卒業研究発表会」を見ることだ。上級生の多彩な研究テーマや考え方に触れ、自分のテーマを考えるヒントにする。そこから次年度にかけ、研究テーマを固めていく。その手助けをするのが、保護者などの有志による「卒研ボランティア」だ。大学の研究者を始め、デザイナーや住職、動物園の飼育担当者など、さまざまな職業の約50人が、2~3月に行われる「テーマ相談会」で生徒の相談を受ける。

 「テーマとの関係あるなしに関わらず、いろんな立場の人に意見や感想をもらい、新たな気付きにつなげるのが目的です。また、彼らが『面白いね』『この点はどうなってるの』と興味津々で聞いてくれるのが生徒にはうれしく、自信にもつながります」

 中3に進級後、3、4人のグループごとに教員と相談し、5月頃にテーマを決定する。その後は、週1度行われる「卒業研究」の授業でクラスメートと討論しながら情報集めや考察を行い、テーマ担当の教員と月1度の「定例会」で、内容の検討や進め方の指導を受け、少しずつ論文に結実させていく。

「してみる計画」で実際に人と出会う

「卒研ボランティア」(奥)に相談しながら研究テーマを探っていく
「卒研ボランティア」(奥)に相談しながら研究テーマを探っていく

 同校が、卒業研究を進める際に重視している「出会い」の機会がもう一つある。夏休みを中心に行う個人取材活動「してみる計画」だ。専門家や企業への取材、施設の見学、実験、アンケートなどを行って新たな知見や情報を入手し、考察の材料にする。取材の計画は、教員や卒研ボランティアによるアドバイスや紹介を踏まえ、生徒自身で組み立てる。

 「インターネットで調べるだけでは誰がやっても同じ結果になります。実際に会い、見聞きすることで、オリジナルの事実や発想を見いだすのが狙いです」と小畑教諭は説明する。

 テーマの決定や「してみる計画」の実行にあたり、小畑教諭が気を付けているのは、「教えない」ことだという。

 「『何を知りたいの』『ここをもう少し教えて』など、問いかけを重ね、生徒自身の関心事や考えを引き出すようにします。その上で取材対象や実験手法のアドバイスなどを行います」

 論文は11月を目標に完成させ、翌年1月の発表会のために5分程度のプレゼンテーションになるよう資料をまとめる。発表は学年の全生徒約140人が10室ほどの教室に分かれて一人一人行う。このうち自薦か教員の推薦を受けた10人ほどが、同校のイベント施設「いちょうのホール」で小中学生の後輩や保護者、卒研ボランティアたちを前に発表する。

「5分の発表でも問題意識は伝えられる」

現高1生たちが昨年発表した卒業研究
現高1生たちが昨年発表した卒業研究

 昨年「いちょうのホール」で発表を行った現高1生の3人に話を聞いた。いずれの生徒も、さまざまな人との出会いを通して目を開かれたという。

 陸上部に所属する神戸(ごうど)毅裕君は、「神戸毅裕による神戸毅裕のためのオリジナル走法」のテーマで発表した。男子400m競走の日本記録保持者である高野進氏が提唱した「二軸走法」を取り入れ、自分に合う走法を編み出そうというものだ。

 数学や理科が好きだという神戸君は「卒研ボランティアとのテーマ相談会では、数学者の方が『二軸走法の着想の基となったナンバ歩きは数式で表せる』と話してくれて興奮しました」と話す。

 論文は、自分のトレーニングの経過と考察を3か月がかりでまとめ、「してみる計画」では高野氏を訪ね、走行フォームへのアドバイスを受けた。ただ、高野氏に取材できた時期が遅かったため、フォーム改良の結果を論文に盛り込むことはできなかったが、神戸君は研究を通して人の物の見方の違いに関心を持ったという。「高野先生に自分が予想していなかったアドバイスをいただいたことで、自分の主観と全く違う考え方や視点もあると分かり、これから自分の物の見方がどう変化するかにも興味が出てきました」

 藤石奎都(けいと)さんは、「どうしたら障害者差別がなくなるのか~学校教育の視点から~」をテーマに発表した。きっかけは、相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で入所者や職員45人が殺傷された事件だ。「なぜこんな事件が起きたか」という疑問から、障害児教育に関心を持った。

 「してみる計画」では、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」の上映会と座談会に出席した。知的障害児と健常児が同じ教室で学ぶインクルーシブ教育を知り、いったんは「障害児と健常者を分ける特別支援学校はなくすべき」と考えたが、その後、近隣の学校をいくつか取材し、特別支援学校には、個別の生徒の状況に応じたケアがしやすい利点もあると知った。藤石さんは「その場に行ったからそれぞれの良さが分かりました。今後は他の県や海外の事情も調べたい」と話した。

 石原すみれさんは「ペットショップの闇とその改善策」というテーマで発表した。母親がペットの保護活動に携わっていることから、犬、猫の繁殖ビジネスが動物虐待の温床となっている問題に関心を持ち、「みんなの前で発表して問題提起したい」とテーマに選んだ。

 「してみる計画」では客としてペットショップに出向き、セールストークを取材したほか、保護された繁殖犬を自宅で引き取り、世話をしてみた。そうした体験を通して、ペットの流通過程に養子縁組で行われる面接や研修などの仕組みを組み込むことを提案した。

 「5分の発表では言いたい事を伝えきれないと思いましたが、出席者から質問がたくさん出て、割愛した部分も話せました。また『ペットは愛護団体から引き取りたい』『家族にも伝えたい』などの感想もあり、短い時間でも問題意識が伝わると分かりました」と石原さんは感激の様子で話した。

「卒業研究はプロセスを大事に取り組んでほしい」と話す小畑教諭
「卒業研究はプロセスを大事に取り組んでほしい」と話す小畑教諭

 同校での勤務12年目となる小畑教諭は、卒業研究に取り組んだ生徒が、伝える喜びに目覚める様子を何度も見てきたという。

 「結局知りたいことが分からない事もありますが、研究や取材でさまざまな理解が広がり、世の中が白黒だけでは語れないことも見えてくる。そうして深めた自分の関心事を周りに伝える行為は、自信を芽生えさせ、夢や目標にもつながります」

 「最近は、卒業研究を難しく考え過ぎる傾向も感じています。大上段に構えず『自分が好きな事ってなんだっけ』という問いに立ち返り、プロセスを大事に取り組んでほしい。教員としてはやはり、良い聞き役に徹したいと思っています」

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:明星学園中学校・高等学校)

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1389158 0 明星学園中学校・高等学校 2020/08/06 05:22:00 2020/08/06 05:22:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200805-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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