【特集】危機を超え「新たな一歩」を踏み出した「打越祭」…浅野
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浅野中学・高等学校(横浜市)で昨年9、10月、文化祭と体育祭からなる学園祭「打越祭」が開催された。今回は、新型コロナウイルスの感染に配慮して、一般の来場を中止とし、体育祭を中学、高校で別開催とするなど特別な体制での運営となったが、実行委員を中心に生徒たちはできる限りの工夫を施して、「新たな一歩」につながるイベントを実現した。
スローガンは「ON YOUR MARK」

「打越祭」は例年、9月上旬の土曜、日曜に第1部の文化祭、9月下旬の平日に第2部の体育祭という構成で、それぞれの実行委員を中心に、部活動や有志団体が参加して行う生徒主体の行事だ。例年1万人ほどの来場者でにぎわいを見せている。
一昨年は、学校創立100周年、「打越祭」も第40回という特別な年だったが、昨年の「打越祭」には、そこから「新たな一歩」を踏み出すという意義があり、一昨年の「打越祭」が終了した翌10月には、文化祭17人、体育祭9人の実行委員会幹部が選出された。そのほかの実行委員が合流する今年4月に向けて、幹部たちは企画づくりを進め、例年より半年近く早い一昨年11月に共通スローガンを「ON YOUR MARK」と決めた。
「新たな未来へ走り出していこうという思いを込めました。実行委員の打越祭にかける意気込みは歴代最高だったと自負しています」。体育祭実行委員長の西間立君(高2)、文化祭実行委員長の菅健吾君(高2)は、こう口をそろえた。
しかし、実行委員たちの意欲に水を差す事態が起きる。昨年2月末に安倍前首相が行った小中高校の全国一斉休校要請だ。
菅君は「4月から学校が再開する場合や、ゴールデンウィークまで休校が長引く場合も想定して対策を考えていましたが、まさか6月まで休校が延びるとは思っていませんでした」と話す。休校期間中は、政府のガイドラインや飲食店の対策などを調べ、模擬店をサイトから事前予約できるようにする、ステージ前の席などを充実させてディスタンスを確保するなどいろいろな対策を考えていたという。
しかし、コロナ禍がなかなか鎮静しない情勢を踏まえ、学校としては文化祭への来場者を在校生とその親族のみに絞り、OBを含む一般の来場は中止、さらに飲食系の模擬店は取りやめるなどの判断を下すほかなかったという。
生徒会顧問部長の近藤正治教諭は、「一般への公開中止を決定した時の実行委員たちの落胆ぶりは相当なものでした。教員としても例年通りに開催させたかったのですが、いつ学校が再開できるかの見通しも立ちませんでした」と話す。
ようやく日程が確定したのは6月下旬で、高校の体育祭は9月17日、文化祭は10月3、4日。さらに、密を避けるために中学の体育祭を初めて高校とは別開催とし、10月30日と決めた。
万全の感染防止策でイベントをやり遂げる
菅君、西間君が最も頭を悩ませたのは、夏休みにも登校できないなか、極めて短期間で準備しなければならないことだった。特に、体育祭は今年から新たに装飾部門をつくり、旗や横断幕を用意する予定でいたため、痛手は大きかった。西間君は、「できなくなったプランを捨て、計画を立て直すのは精神的につらかった」と打ち明ける。しかし、例年と違って最初のプログラムとなる高校の体育祭で、クラスター感染が発生したりすれば、続く文化祭、中学体育祭の開催も困難となるため、大きな責任を感じていたという。

「それだけは絶対に避けるため、消毒用のアルコールを48本用意してクラス席と退場門に配置したり、競技の合間にはマスクの着用を繰り返しアナウンスしたり、感染防止を徹底しました」
感染防止に万全の対策を講じて迎えた体育祭当日は、2本同時の綱引きやドッジボールといった新種目も行われ、予想以上の盛り上がりを見せた。また、可能な限り用意した校内装飾や今年初めて採用したクラスTシャツも団結力を高めることに役立ち、教員からも好評だったという。恒例の応援パフォーマンスは、動画に編集して後に、公式のYouTubeチャンネルで公開した。
文化祭の実行委員も感染対策は万全を期した。コロナ対策班を新たに組織し、消毒用アルコールや検温機器を配置したほか、接客する生徒にはクリアファイルで作ったフェースシールドを用意し、プログラムが終わるごとに椅子や机などの除菌を徹底した。
「新たにオンラインで公開したことも来年につながります」と菅君は言う。「IT系が得意な広報部門の実行委員が、校内をバーチャルで自在に歩き回れるアプリを完成させてくれました。これがあれば今後、文化祭の日程が合わない人にも見てもらうことができると思います」と声を弾ませた。

初めて高校と別日程で開催される中学体育祭は、中学生の実行委員にとって「最上級生」として臨む大きなチャレンジとなった。
実行委員長の大藪晴輝君(中3)は「世間がコロナで苦戦しているなか、自分たちで何とか体育祭をうまくやり遂げたいと思い、手を挙げました」と立候補した理由を話した。
競技内容は5月に行われる予定だったスポーツ大会をアレンジしたうえ、体育祭の花であるリレー競技をプラスしたものだ。「卒業を控えた高3生と一緒にできないのは寂しかったですが、中学生の力だけで競技を運営できたのは良かったです」
中学体育祭も準備期間が短く、「不安はありましたが、実行委員の間で話し合って進めることができました」と大藪君は話す。大声での応援は禁止とし、マスクの着用を事前に注意喚起し、当日も欠かさず声かけをしたそうだ。
当日はハンドボールやドッジボールの対抗戦で応援する生徒たちは大いに盛り上がったそうだ。「この状況でも体育祭を実施でき、みんなが楽しめたこと、そして感染者を出さずに済んだことに達成感を感じます。実行委員長として100人近い実行委員をまとめられたことも貴重な経験になりました」と大藪君は話す。
近藤教諭は「例年、中学生は高校生のお手伝いという立場だったのですが、その彼らが主体となって運営できたのは良い経験になったと思います。生徒の表情もとても生き生きとしていて、教員間でも、久しぶりに明るい笑顔を見たという声が聞かれました」と話した。
悔しさも含めて経験を今後に役立てる

菅君は今年の打越祭を振り返って「コロナ禍の影響で苦労したけれど、仲間がいてくれたからできた。先生の協力もありがたかったし、無理なお願いにも応えてくれた実行委員のみんなに感謝しています」と話す。
西間君も「友人の支えがあったから、できたことがたくさんあった」と話す。「ピンチをチャンスに変えることの大切さをあらためて学びました。オンラインで届けることはコロナ以前には考えもしなかったですが、今回全部の競技を動画で撮影し、サイトを立ち上げて保護者向けに公開したことはいい経験になりました」
大藪君は「感染症は人の生命にかかわることなので、やはり緊張しました。もし学校で感染が発生したら大きな責任になります。来年はそのことを考えずに開催できるようであってほしいです」と話した。
近藤教諭も「生徒たちが社会の状況を理解し、できることを探そうと気持ちを切り替えて取り組んだことは立派でした」と評価する。「すべては納得できていないでしょうが、その悔しさも含めて、今後に役立ててくれればと思います」と話した。
コロナの年に打越祭を開催したことで得た経験は、来年度以降にも必ず役立つだろう。生徒たちは101年目にふさわしい大きな一歩を踏み出したと言えそうだ。
(文:山口俊成 写真:中学受験サポート 一部写真提供:浅野中学・高等学校)
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