被災地福島をフィールドにスタディツアー…逗子開成

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 逗子開成中学校・高等学校(神奈川県逗子市)は2018年度から、希望者を対象として、福島県観光物産交流協会が主催するスタディツアー「ふくしま学宿」に参加している。企画と引率を受け持つ片山健介教諭にその意義と成果について聞くとともに、2回目にあたる昨年の夏、2泊3日のツアーに参加した生徒の声を紹介する。

福島の「ありのまま」を見て、「人々」と対話する

「ふくしま学宿」の意義と成果を話す片山健介教諭
「ふくしま学宿」の意義と成果を話す片山健介教諭

 「ふくしま学宿」は復興への歩みを続ける福島で、さまざまな社会の課題を学ぶ新しい教育旅行プログラムだ。「震災と原発事故を経験した福島ならではの『新しい学びの旅』」と位置付けられたこのツアーでは、福島の「ありのままの姿」を見ることと、復興に挑戦する「人々」と対話することで、福島でしかできない貴重な学びを得ることができる。

 「私自身も福島の問題に関心があり、現地を知る機会が得られることから、昨年度初めて希望者を募って参加しました」と片山健介教諭は語る。「福島は今、復興に向けて力強く進んでいますが、風評被害やいまだ故郷に帰れない人々が数多くいるなど、さまざまな困難があります。そうした震災後の福島県が抱える光と影を現地で実際に見て、聞いて、感じて、考えることが目的です」

 片山教諭は「被災地はまた、日本社会の数十年後の姿を示す場でもある」という。同校が昨年訪れた葛尾村(かつらおむら)は震災後、帰還困難区域になった。避難指示が解除された後も、戻れたのは2割に満たない200人弱であり、しかも、そのほとんどが高齢者だったという。現在は帰村者と転入者合わせて400人を超えたものの、今後、日本の多くの地域社会が直面するであろう諸問題に目を向ける場になると考えたという。

実際に見て、対話して、考える3日間

東京電力「新福島変電所」の見学
東京電力「新福島変電所」の見学

 昨年の「ふくしま学宿」は、8月3~5日の2泊3日で行われ、同校の高2生が5人、中3生が6人参加した。学校の立地が海を目の前に望んでいることから、同校の生徒は津波の被害に関心が高く、今回は、津波で壊滅的な被害を受けた浪江町請戸地区の訪問を組み込むなど、福島県の担当者と相談して独自のプランを練った。

 主眼を置いたのは、ツアーでの体験を自分たちの問題として考えること。施設や地域を見学するとともに、復興に力を尽す団体や住民から直接話を聞き、連日夕食後に振り返りを行った。

 1日目は富岡町にある東京電力の「新福島変電所」と「廃炉資料館」を見学し、「新福島変電所」で東京電力社員から廃炉の現状と復興に向けた取り組みについて説明を受けた。その後、バスで国道6号を通り、車内から帰還困難区域を視察した。宿舎では、フィールドパートナーである「AFW」の吉川彰浩代表理事との対話を通して、廃炉や復興について学んだ。

 2日目はフィールド学習としてメガソーラーや被害を受けた地域を巡り、浪江町請戸地区では小学校跡や操業再開した漁港を見学した。その後、同町地域スポーツセンターで、震災・原発事故の記憶と教訓を伝える語り部や新たなまちづくりに挑戦する「まちづくりなみえ」の菅野孝明事務局次長、同町で米を栽培する営農再開のパイオニア松本清人さん、帰還する人のためのシンボルを目指している「なみえ創成中学校」の半杭千歩校長らの話を聞いた。

「AFW」の吉川彰浩代表理事と生徒たち
「AFW」の吉川彰浩代表理事と生徒たち

 両日とも、夕食後に振り返りの時間が設けられ、3日目の最終日には、原子力規制委員会の田中俊一・前委員長と対話した後、福島市の複合施設「コラッセふくしま」でまとめのワークショップを行った。

 「ふくしま学宿」に参加した中3の西山竜介君は、「原発事故後の農業の問題に興味があり、現場で本当の状況を確かめたいと思って参加しました」と参加したきっかけを話す。「新福島変電所では東電社員の方が、住民の方へのサポートや廃炉の現状を含め、真摯(しんし)に対応していることを知りました。質問にも分かりやすく回答してくれたのですが、住民の方の声とは食い違う部分もあり、解決は難しそうだと感じました。移動中のバスから原発の煙突がとても近くに見えた時は、避難指示が解除されても帰ることをためらう気持ちがよく理解できました」

 一昨年に続き2回目の参加となった中3の根岸直規君は「去年は比較的軽い気持ちで参加したのですが、戻ることのできない故郷の話や親しい人を亡くした悲しみなど、重く受け止めることばかりで、1年後それがどう変化したか知りたいと思い、参加しました」と話す。

 今回は一昨年とは若干プログラムが異なるため、根岸君は、新しい発見があったという。「帰還困難区域を通るとき、バスから自動車のディーラーが見えました。ガラス張りの店内が8年の歳月で朽ちていることが分かり、そこだけ時間が止まっていることが印象深かったです。情報としては知っていても、自分の目で見ると異なる感情が湧いてきます。今回のツアーで福島の問題は他人事(ひとごと)ではなく自分にとってのことになりました」

 根岸君は今回の体験から「『復興したい』という思いはみな同じでも、立場によって意見や方法が違っていて、簡単には結論が出ない問題だと実感しました。私は科学に興味があるので、その観点から解決策を考えられるように学んでいきたい」と話した。西山君は「福島の農産物の価値を元通りに高めることができないか考えています。また、景色や伝統、おいしい特産物、地元で頑張っている人たちの姿も含めて福島の本来の魅力を伝えたい」と話した。

世の中の課題に対して、自分に何ができるかを考えるきっかけに

「コラッセふくしま」でまとめのワークショップを行う生徒たち
「コラッセふくしま」でまとめのワークショップを行う生徒たち

 片山教諭は参加した生徒たちの成長ぶりをこう話す。「毎日の振り返りやワークショップで、自分たちに何ができるかを考えた結果、現状を多くの人に伝えたいという使命感が芽生えたようです。根岸君の『他人事ではない』という言葉にあるように、震災と原発事故が引き起こした福島の問題は、実は自分たちの問題でもあると知ったことは大きな成果だと思っています。また、福島産の米は全量検査で安全性が確認されているにもかかわらず安値で買いたたかれていることなど、非科学的な偏見が復興の妨げになっていることを知り、科学的な知識と1次情報を得ることの大切さを感じてくれたことも収穫です」

 今年5月9日に予定している同校のオープンキャンパスでは、今回の福島学宿を展示にまとめ、プレゼンテーションも行う予定だ。

 片山教諭は「海外を体験することも大切ですが、国内の出来事に無関心でいいわけはありません。世界に目を向ける一方で、日本の地域社会の課題にも関心を抱き続けてほしいと願っています。簡単には解決しない世の中の課題に対し、自分には何ができるかを考える機会として、毎年ツアーをバージョンアップしていきたい」と意気込みを語った。

 (文・写真:山口俊成 一部写真提供:逗子開成中学校・高等学校)

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