人格を形成する「統合学習」と福祉教育…順天

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 順天中学校・高等学校(東京都北区)は、中学校で芸術、技術家庭、保健体育、道徳の実技4教科を横断する「統合学習」を実践している。これを、多年取り組んでいる福祉ボランティアのワークショップなどとリンクさせることで、教科の内容だけでなく、多様な人々を受け入れる姿勢や、協働することを学ぶことも可能になるという。

実技4教科の統合学習とワークショップをリンク

「統合学習」の特長を話す梅沢先生
「統合学習」の特長を話す梅沢先生

 同校は以前から、知識だけでなく感性や体力を含めた総合性を求める芸術、技術家庭、保健体育、道徳の実技4教科を重視してきた。中学校の全学年で指導体制が整った2003年を機に、それらの学びをさらに充実させようと、教科相互の関連に着目してスタートしたのが「統合学習」だという。

 中3の学年主任で芸術科の梅沢恒郎先生によると、実技科目は個人の美的感覚・表現力・技能を養うことが目標で、他者のために動くこと、あるいは社会貢献という点で共通しているという。教科相互に関連する部分も多いため、クロスカリキュラム化することで別々の授業では得られない効果が期待できるという。

 さらに、同校の「統合学習」の特長は、福祉教育や国際教育のワークショップを組み込むことで、学びの場を広げている点だ。

保育園を訪問して異世代交流を図る中1のワークショップ
保育園を訪問して異世代交流を図る中1のワークショップ

 ワークショップでは、中1で保育園と高齢者施設を訪問して異世代交流を図り、中2で手話や点字を学んで障害について理解を深める。さらに中3でそれまでの学びを総括し、外国人との交流を通して国際理解を深める。触れ合う人々を異世代、障害者、外国人と学年ごとに設定することで、多様な人々を段階的に受け入れられるよう工夫している。

 このワークショップに、技術の授業で制作した手先のトレーニング用パズルを高齢者施設に贈ったり、美術の授業で制作したレリーフ画で全盲の人に名画を伝えたりという活動を取り込むことにより、教科の知識だけでなく協働性を養うことができる。また、学びの成果が人の役に立つことによって、生徒のモチベーションも高まるという。

障害者に直接学ぶ、貴重な福祉教育

「ブラインドウォーク」を体験する中2の保健体育の授業
「ブラインドウォーク」を体験する中2の保健体育の授業

 同校の福祉教育への取り組みは早い。海外渡航が自由化された1964年に整えた海外派遣制度により、見聞を広げて帰ってきた高校生から、欧米のボランティア活動が伝えられたことがきっかけになったという。

 中2の保健体育の授業では、目隠しをして歩く「ブラインドウォーク」と伴走ボランティアを体験し、道徳で点字学習を行う。また、聴覚障害者向けの玄関の光チャイムなどの生活用品や手話などについても学び、音や光のない世界を想像し、理解を深める。「障害の有無に限らず、人はみな考え方も立場も違います。自分が当たり前だと思っていることは他の人にとっても当たり前なのかと、生徒に問いかけるようにしています」と梅沢先生は話す。

 耳の不自由な人は見た目では分からない。学校に来て、直接会って初めて、健常者と話し方が違うことを知る生徒も多い。また視覚障害者が点字をすらすら読み上げると、その難しさを知る生徒たちはみんな驚嘆する。「盲導犬には触らないでね」と言われれば、生徒はその言葉を心に刻む。

点字を学んで障害について理解を深める中2の道徳の授業
点字を学んで障害について理解を深める中2の道徳の授業

 障害者とじかに交流することによって生徒は何を身に付けるのか。梅沢先生が注目するのはコミュニケーション力の向上だ。中学から同校に通っている生徒には、相手が初対面でも外国人でも物おじせずに話せる生徒が多いという。「ワークショップでの経験が大きいと思います。交流にあたっては各自で事前に話題を考えますし、臨機応変な対応が求められることもあるので、おのずと鍛えられるのでしょう」

 86年からは、東京都の福祉協力校としてNGOの支援なども続けている。学校からボランティア活動の募集情報が毎月届けられるため、生徒は希望する活動を選んで参加を申し込んでいる。中学生は、学期中に1度の参加が努力目標となっている。

 学校独自で取り組んでいるボランティア活動もある。約10年前から始まった中1・2の「スポンサードラン」と中3・高1の「スポンサードウォーク」もその一つで、生徒全員が参加する。「スポンサードラン」はマラソン大会で6キロ・メートル完走すること、「スポンサードウォーク」は競歩大会で20キロ・メートルを歩ききることを条件に、保護者や親戚から募った寄付金を慈善団体へ提供する。

 スポンサーの数や金額は自由で、2人で500円という生徒もいれば、4人から3000円もらう生徒もいる。梅沢先生は「欧米ではよく知られている活動です。収入のない子供が経済援助を行う方法として、こういった活動があることを知るだけでも意味があります」と説明する。

周囲に気を配れる、思いやりのある大人になりたい

 中3生2人に、「統合学習」やボランティア活動について感想を聞いた。

 坂本駿樹君は、印象深かった「統合学習」の授業として、中1時のおもちゃ作りのことを振り返った。1学期に保育園を訪問して製作にあたっての注意点を聞き、2学期を中心に実際に製作にあたり、3学期に完成させて持って行く。坂本君は、家庭科の授業でままごと道具を、美術の授業でペットボトルを使ったけん玉を作ったという。「アレルギー対策のため、素材に卵パックを使うことはできない、また誤嚥(ごえん)などの事故を防ぐために小さすぎるものや角があるものはだめ、などの規定がたくさんあって驚きました」

 坂本君は今年のゴールデンウィークに、学校のボランティア募集情報の中から献血PRを選び、東京・池袋にある「献血ルーム池袋ぶらっと」を1人で訪れた。看板を持って献血を呼びかけた約3時間で20人ほどから献血があったという。「施設の人は普段より少ないと言っていましたが、他人のために自分の血を分けようという人がこんなにいるのかと驚きました。僕が持っている看板を見て、その場で決めてくれた人もいました」。献血は予約不要だということ、全血献血と成分献血があることも初めて知った。「同じボランティアにもう一度参加して、普段はどれだけ人が来るのか確かめたい」。坂本君はこのボランティア活動を通して、それまで自分でも気付かなかった関心を呼び起こされたようだ。

 糸井愛華(まなか)さんは「『統合学習』は、他の授業と違って外部の人との触れ合いが多い」と話す。特に耳の不自由な人から手話の指導が受けられたことを、貴重な経験と感じているそうだ。

 ボランティア活動では、中2の時に10人くらいで障害者施設「赤羽西福祉工房」を訪ね、歌を披露したことが忘れられない思い出だそうだ。40人ほどの障害者を前に、合唱曲「翼をください」を手話を交えて歌った。また、ポップス曲の「ありがとう」は手話通訳者が同時通訳してくれた。「歌声は聞こえていないはずなのに泣いている人もいて、気持ちが届いたことがうれしかった」

 王子駅前で同級生らと行った募金活動でも、驚きを経験した。足を止めてくれる人は少ないだろうと思っていたが、やってみると1時間で30人ほどから寄付があり、なかには募金箱に千円札を入れる人もいた。それ以降、街頭で募金活動を見かけると自分でも寄付するようになったという。「お釣りでもらった小銭程度ですが、少しでも助かる人がいるならと思えるようになりました」

 糸井さんは、中1から福祉教育を受けてきて、いろいろな人の立場で物事を考えられるようになり、障害者や高齢者にとって不便なことを想像できるようになったという。「将来は周囲に気を配ることのできる、思いやりのある大人になりたい」

 梅沢先生は「障害者についてはもちろん、核家族で育ってお年寄りや小さな子への接し方を知らない子もたくさんいます。さまざまな人と触れ合うことで、まずは世の中にはいろんな人がいることを知り、コミュニケーション能力を身に付けて、思いやりのある人間になってほしい」と話す。

 統合学習や福祉教育は、いわゆる学力や進学実績などに直結する学びではないが、生徒の人格を形成する学びとして、ますます揺るぎない存在になることだろう。

 (文・写真:佐々木志野 一部写真提供:順天中学校・高等学校)

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954291 0 順天中学校・高等学校 2019/12/18 05:21:00 2019/12/18 14:11:47 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/12/20191216-OYT8I50028-T.jpg?type=thumbnail

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