ノーベル賞拠点「スーパーカミオカンデ」から仰ぐ宇宙…同志社

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 同志社中学校・高等学校(京都市)は昨年夏、岐阜県の山中にある東京大学の素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」で見学会を行った。この見学会は、中学生に最先端科学に触れてもらう狙いで開催し、4回目となる。2人の研究者にノーベル賞をもたらしたニュートリノの観測施設を見学するために、1000メートルの地下へ生徒たちと同行した。

地下1000メートル、夏もひんやりした観測現場

「スーパーカミオカンデ」近くの薄暗い坑道跡を歩く生徒たち
「スーパーカミオカンデ」近くの薄暗い坑道跡を歩く生徒たち

 「わっ、ひんやりする」。バスが薄暗い坑道跡のトンネル内で止まり、車を降りた生徒たちは、8月末とは思えない冷気に驚いた。ヘルメットをかぶり、持参した長袖を羽織って、ごつごつした岩肌の間を歩いて向かうのは「スーパーカミオカンデ実験区域」だ。鉄の扉を開けると、研究スタッフらが出迎えてくれた。

 夏休み中の昨年8月26日、同志社中学校の生徒49人は、岐阜県飛騨市神岡町の山中にある素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」を見学に訪れた。

 スーパーカミオカンデは、神岡鉱山の坑内にあり、真上にある山の地表面からは約1000メートルの深さにある。朝早くバスで京都を出発した生徒たちは、昼過ぎに山深い坑道入り口に到着。さらに坑道跡を奥に進んでたどり着いた。「ここは年中涼しく、気温は13度くらいです」と、見学に同行した東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設の広報担当・武長祐美子さんが話す。東京なら11月の平均気温に近い肌寒さだ。

 スーパーカミオカンデは、1987年に超新星爆発からのニュートリノを世界で初めて検出した初代「カミオカンデ」を大きく高性能化した2代目の観測装置だ。ニュートリノは宇宙や大気中などから無数に降り注いでいるが、電子などよりずっと小さく、電気も帯びていないので、ほとんど何でもすり抜ける「幽霊のような粒子」として研究者たちを悩ませてきた。地下深くに設置されているのは、岩盤を傘として、その他の粒子をさえぎり、標的のニュートリノを見分けやすくするためだという。

観測データが24時間表示されるモニター画面を見学する
観測データが24時間表示されるモニター画面を見学する

 初代カミオカンデによるニュートリノ検出は、ニュートリノ天文学の時代を切り開き、その功績で2002年に小柴昌俊・東大名誉教授がノーベル物理学賞を受賞した。また、後継のスーパーカミオカンデでも観測結果などから、従来は質量ゼロとされていたニュートリノに質量があることなどが確認され、15年に梶田隆章東大教授が同じくノーベル物理学賞を受賞している。生徒たちが目にするのは、日本が世界に誇る素粒子物理学研究の最前線なのだ。

 この「スーパーカミオカンデ見学」は、同志社中学校が放課後や夏休みなどを利用して開いている自由参加セミナ-「学びプロジェクト」の一つだ。プロジェクトのテーマは年間200近くある。

 フィールドワークや研究室訪問など生徒の好奇心を刺激するさまざまなプログラムがあるが、「スーパーカミオカンデ見学」は特に人気が高い。14年に初めて開催され、17年から毎年開催して今回で4回目。見学の後も、学校で特別ゼミを開催したり、展示コーナーを設置したりして、生徒の理解を深めるよう工夫しているという。

 生徒たちを引率した数学科の園田毅教諭は「最先端科学の現場を訪れ、わくわくするような学問の楽しさを感じてほしい。そして、人類がまだ誰も解明できていない数多くの研究テーマがあることを知り、将来の学びにも生かしてほしい」と話す。

「月で照らした懐中電灯の光」さえとらえる光センサー

お化け電球のような超高感度光センサー「光電子増倍管」
お化け電球のような超高感度光センサー「光電子増倍管」

 スーパーカミオカンデは24時間観測をしているため、装置本体であるタンクの内部は残念ながらのぞくことはできない。見学当日、生徒たちが案内されたのはスーパーカミオカンデの真上にあるドーム状の屋根がかかったフロアだった。ここには観測データが最初に集まる「エレクトロニクスハット」という小部屋や、機材などが並び、研究スタッフが(せわ)しげに行き交っている。

 そうした研究機器の(そば)に見学者コーナーがあり、パネルや実物の装置が展示されていた。生徒たちは、そこで施設の紹介ビデオを視聴したあと、東大宇宙線研究所助教の中島康博さんのガイドで、スーパーカミオカンデの仕組みやニュートリノの性質などについて説明を受けながら、観測現場を見て回った。

 直径約50センチもあるお化け電球のような超高感度光センサー「光電子増倍管」が展示台に飾ってあった。スーパーカミオカンデは直径、深さとも約40メートルの円筒形のタンクで、約5万トンの超純水で満たされている。光電子増倍管はその内壁に1万個以上びっしりと並んでいて、ニュートリノをキャッチしようと待ちかまえている。

 「月で照らした懐中電灯のかすかな明かりもとらえます。これでニュートリノを……」と、展示物をさすりながら中島さんが話すと、生徒たちが「へえっ」と驚きの表情を浮かべた。

 ニュートリノは、太陽や夜空の星などから、日々生まれている。宇宙線が大気とぶつかる時にも生じる。地球の内部や原子炉、さらには私たち人間の体内からも常に放出されているという。このため、宇宙も大気もニュートリノだらけと言ってよく、理論上は、太陽に手のひらをかざすと1秒間に兆単位のニュートリノが気付かないうちに通り抜けるというほどだが、観測となると話は別で、スーパーカミオカンデでも「観測できるニュートリノは1日30個くらい」。そう中島さんが明かすと、生徒たちは「そんなに少ないの」とまた目を丸くした。

 初代の「カミオカンデ」は現在、東北大学のニュートリノ観測装置「カムランド」になっていて、「スーパーカミオカンデ」から歩いて5分ほどの距離にある。生徒たちは今回初めてそこも見学した。カムランドでは、観測に超純水の代わりに液体シンチレーターという物質を使っているという。説明を聞いた中1の女子生徒は、「つかまえるのは同じニュートリノなのに、方法はいくつかあるんだ」と興味をそそられたようだった。

「自分も必死になれるものを見つけたい」

見学のまとめのレクチャーを聞く生徒たち
見学のまとめのレクチャーを聞く生徒たち

 見学を終えた生徒たちはバスで、スーパーカミオカンデの研究棟である神岡宇宙素粒子研究施設近くの集落へ向かい、そこで江戸後期から残る古い民家の交流施設に案内されて、まとめのレクチャーを受けた。

 「ニュートリノをとらえることで、宇宙の歴史が見えてきます」。生徒にこう語りかけた研究スタッフの池田一得さんによると、スーパーカミオカンデは今後、「超新星背景ニュートリノ」の観測に力を入れるという。

 140億年ほど前の宇宙の誕生以来、星の寿命が尽きて超新星爆発を起こすたび、大量に放出されたニュートリノが現在も宇宙を漂っていると、研究者たちは考えている。それをキャッチして宇宙の成り立ちに迫ろうという試みだ。スーパーカミオカンデを改良した3代目の「ハイパーカミオカンデ」の建設計画もスタートし、2020年代後半に観測開始を目ざしているという。

 宇宙はどのように始まり、どう成長してきたのか。星の最後はどうなるのか。全ての物はいつかなくなるというのは本当か。「まだまだ謎だらけです」と池田さんは語った。

 研究スタッフらのたゆまぬ探求心を目の当たりにして、生徒たちは心を動かされたようだった。中学2年の川端玲菜さんは「今すぐ役に立たないことでも、『世界の謎』の解明のため必死になっている人を見て、自分も必死になれるものを見つけたいと強く思いました」と話した。深い地下に向けていた目を夜空に転じ、自分の星を探し始めたような、そんな印象を受けた。

 (文・写真:武中英夫)

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1005130 0 同志社中学校・高等学校 2020/01/20 05:22:00 2020/01/20 05:22:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200117-OYT8I50009-T.jpg?type=thumbnail

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