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普連土学園中学校・高等学校(東京都港区)の理科部の高校2年生チームが、6月20、21日の両日にパリで開催されたモデルロケット国際大会「IRC(The International Rocketry Challenge)」に日本代表として出場した。4人で作るこのチームに、「IRC」に出場した経緯や大会に向けて準備したこと、その経験から得たことなどをインタビューした。
2度目の挑戦で、国際大会への出場権を獲得

モデルロケット国際大会「IRC」とは、航空宇宙業界の見本市であるパリのエアショーで開催される中高生対象の競技大会。フランス、イギリス、アメリカの航空宇宙工業会が主催し、日本も2016年から招待を受けている。
大会は2日間にわたり、1日目は製作したロケットの設計方針などについて英語でプレゼンテーションを行い、審査員と質疑応答する。2日目は実際にモデルロケットを打ち上げて、その性能を競う。
打ち上げ競技では、紙や木、プラスチックで製作した自作モデルロケットに生卵3個を搭載して打ち上げ、パラシュートで回収する。定められた目標到達高度(約800フィート)と目標飛翔時間(約50秒)から遠ざかると減点され、回収した卵が一つでもひびが入ったり、割れたりしていたら失格となるルールだ。
日本代表として「IRC」に出場できるのは、毎年8月に行われる、日本モデルロケット協会主催の「ロケット甲子園」で優勝した1チームだけだ。小松崎里奈さん、沢田桃子さん、林音桜さん、細井江実理さんの4人で作るチーム「MERN(メルン)」は、一昨年初めて「ロケット甲子園」に出場したが、7校中4位という結果に終わった。そこで、昨年再チャレンジし、見事優勝して「IRC」への出場権を獲得した。
ちなみにチーム名の「MERN」は4人の名前の頭文字をとって名付けた。
ロケット製作を分担する傍ら、英語プレゼンの準備も

4人は「IRC」に向けて、まず「ロケット甲子園」で使用したモデルロケットの改良を進めた。「IRC」も「ロケット甲子園」も、製作するのは高さ約1メートルの大型モデルロケット。部品が多いため、パーツごとに分担して製作する。
小松崎さんはパラシュートを押し出す装置、沢田さんはロケット先端の「ノーズコーン」、林さんは卵を収めるための搭載部、そして細井さんはエンジン周りを、それぞれ担当した。パラシュートは放出後に見失わないよう、視認しやすい色は何かを検討した。「ノーズコーン」は空気抵抗を減らし、なるべく軽くすることを目指し、エンジン部分は軽量化しつつ、推進力があって壊れないものを追求した。卵の搭載部は、衝撃を少なくする緩衝材の材質や形状を模索した。それぞれ自分の担当パーツに責任を持つのが原則だが、誰かが悩んだり、迷ったりしたら全員でアイデアを出し合って取り組んだという。
同校では理科部に入るとまず、チョコレート菓子の紙筒を使った小型ロケットの製作を行い、次に大型ロケットの製作へと進む。理科部顧問であり、ロケット打ち上げの指導講師ライセンスを持つ松浦良知教諭や先輩の指導を受けながら、ロケット作りの基礎を習得すると、その後は、自分で資料を調べたり、日本モデルロケット協会に所属する専門家に相談したりしながら、自分のロケットを作り上げていく。
今回、「IRC」に参加するために、ロケットの製作だけでなく、英語でのプレゼンテーションの準備も必要になった。4人はネイティブの教員に協力してもらい、各自が製作を担当したパーツのことや、実験から得たデータなどを説明できるよう準備を進めた。
いよいよ「IRC」の本番を迎えた。プレゼンテーションも打ち上げも、くじで順番が決まるが、「MERN」はいずれも1番手に決まった。初日のプレゼンテーションは、引率の先生と離れて個室に入り、チーム4人と審査員だけで行われた。2日目の打ち上げは、安全上の規定から3人だけが打ち上げ場所に入り、他国チームの自信満々な様子に圧倒されつつも果敢に挑戦した。
事前準備の成果があって、プレゼンテーションは英語で立派にこなせたが、打ち上げでは、残念ながら回収したロケット内の卵にひびが入ってしまい、参加4か国中、フランスと同率の3位という成績に終わった。
苦労は多かったが楽しめた国際大会経験

帰国から2週間ほどたった7月9日、チーム「MERN」の4人に、大会の感想などを聞いた。
まず、4人が口を
もう一つ、大会を通して4人が痛感したのは、計画の重要性だという。沢田さんは、「『あのとき、もう少し早く進めていれば』と後悔したり、前日にあわてて作業することがあったりしました。事前にきちんと計画を立ててから実行すべきでした。今は何をするにも『スケジュール帳、命』です」と話した。
このほか、細井さんは「物事をやり抜く力が身に付いた」という。「自分の作る部品が、誰かの作業に影響するので、製作日数を踏まえ、予定通りにやり抜く力が付きました。今、テスト勉強などを計画的に、三日坊主にならずに続けられているのは、ロケット製作を経験したおかげです」と話した。
林さんはチームワークの大切さを感じたという。「チームで一つのロケットを作るので、自分の作業が遅れたら、みんなに迷惑がかかります。そうならないよう製作を進めることで、みんなの絆が強まったと思います」

最後に小松崎さんは、「ロケットの製作中も、大会の現場でも、ロケットのことを理解しているのは私たち4人だけで、自分たちで何とかするしかない。その状況を乗り越えたことで、精神力が鍛えられました」と話す。自身の成長を実感したようだ。
彼女たちを指導してきた松浦教諭は、「ロケットの製作中、気になったことは生徒に伝えますが、それを取り入れるかどうかは生徒次第です」と話す。「見ていて歯がゆいことも多く、このままでは失敗するだろうと思うこともありましたが、私の指導通りに作ったのでは、彼女たちのロケットになりません。失敗したとしても、それは彼女たちの選んだ結果です。迷ったり、悩んだりする過程も含めて、今回経験したことが、今後の勉強や生活に反映されればと思っています」
取材の最後に4人は「国際大会は苦労が多くて大変でしたが、すごく楽しかったです」と笑顔を見せた。松浦教諭も、「つらい思いをするからこそ、本当の楽しさが感じられる。何事も楽しいだけでは身に付きませんが、心から楽しめないと身になりません」と4人の感想にうなずいた。
この秋には、4人も理科部を引退するが、モデルロケット製作と国際大会への出場で得た経験は、それぞれの将来に生かされるに違いない。
(文:籔智子 写真:中学受験サポート)
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