自分の将来と出会う「在校生・卒業生懇談会」…桐朋

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「在校生・卒業生懇談会」の目的について話す三堀教諭
「在校生・卒業生懇談会」の目的について話す三堀教諭

 桐朋中学校・桐朋高等学校(東京都国立市)はキャリア教育の一環として50年近く前から、さまざまな仕事や研究職に就いている卒業生を招いて話を聞く「在校生・卒業生懇談会」を実施している。さまざまな将来像を提示することによって、進路選択でも学校の理念である「自分で考え、判断し、行動する」ことができるようにしたい考えだ。後輩たちのために母校に駆けつけ、熱く語る卒業生たちを紹介する。

進路を自分で考え、決める後押しとして

 「在校生・卒業生懇談会」は、1970年頃に始まったという。進路指導部主任の三堀智弘教諭は、「最初は、受験を控えた高3生を先輩たちに励ましてもらう会でしたが、それだけではもったいない。本校には社会の第一線で活躍する卒業生が数多くおり、彼らの経験を話してもらうことで進路を考えるきっかけになればと、現在の形になりました」と経緯を話す。

 現在、「懇談会」は高校1年次と、高校2年次に各1回開かれている。高1では6月に、卒業後10年目の卒業生を招き、さまざまな分野の職業の話を聞く。さらに夏休み中に「私の将来」をテーマにした作文を書かせ、冊子にまとめる。生徒たちが互いの志望を知って、進路の視野を広げられるようにするのが狙いだ。さらに高2の11月には大学などで研究職に就いている卒業生を招き、専門の研究分野や大学で学べることについて語ってもらう。

 「同窓の先輩の話は、年齢的に保護者や教員の話よりも受け入れやすい面があるようです。高1での『懇談会』は、仕事の世界を大まかに理解する足がかりとし、高2ではやや具体的に進学へ目を向けて大学の学問について知ることで、大学・学部の選択や受験勉強へのモチベーションにつなげてほしい」

 三堀教諭によると、桐朋の教育の基調は「自分で考え、判断し、行動する」という理念にあるという。「進路も学校が特定の方向を勧めるのではなく、まずは自分で考え、決める後押しをしたい。そのためにさまざまな将来像を提示したいのです」

研究生活の紹介や生徒たちへのアドバイス

千葉大学大学院理学研究院で細胞生物学を研究している松浦彰博士
千葉大学大学院理学研究院で細胞生物学を研究している松浦彰博士
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院で「意思決定論」を専攻している猪原健弘博士
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院で「意思決定論」を専攻している猪原健弘博士
横浜国立大学大学院工学研究院で光エレクトロニクスの研究を行っている荒川太郎博士
横浜国立大学大学院工学研究院で光エレクトロニクスの研究を行っている荒川太郎博士

 昨年は11月17日の3、4限に高2の「懇談会」が開かれ、難関大学や研究機関で博士として研究に携わっている13人の卒業生が来校した。

 卒業生たちは、1人ずつ教壇に立って授業形式で講話を行う。その中から、生徒は自分の興味に合わせて2人を選び、1時間ずつ聴講する。

 千葉大学大学院理学研究院で細胞生物学を研究している松浦彰博士は、動画を交えたスライドショーで研究の様子を見せ、「やる気とフットワークがあれば何にでも挑戦できる」と生徒にエールを送った。

 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院で「意思決定論」を専攻している猪原健弘博士は、自身が大学で担当している講義に沿って、自分や討論相手などの意見を1枚のシートにまとめる「ディスカッションシート」を用いた模擬授業を実施した。

 横浜国立大学大学院工学研究院で光エレクトロニクスの研究を行っている荒川太郎博士は、研究内容を紹介しつつ、「工学の面白さは、自分の個性やアイデア次第で解が無数に得られること」などと話し、高校時代の準備として「基礎学力をしっかり付ける」「主体的に広く学ぶ意欲を」とアドバイスした。

 ほかにも東京大学大学院医学系研究科で研究に携わりつつ、同医学部付属病院の糖尿病・代謝内科で外来診療も担当している笹子敬洋博士、東京大学法学部法科大学院で法制史・比較法文化を研究している松原健太郎博士らが、それぞれ親身に後輩たちへ語りかけた。

 講話の内容や進め方はさまざまだが、多くの卒業生が語ったアドバイスの中身は「自分を見極めること」と要約できそうだ。

 法曹分野への進路を考える東舜一朗君は、松原博士が語った「世界に通用するのは、自分をよく理解し、一貫した考えや行動ができる人」という話に感銘を受けたといい、「自分がなぜこの分野に進みたいのか、改めてじっくり考えたいです」と話していた。医学方面を志望していて、この日2人の医学研究者の講話を聞いた佐藤理紀君は、「実験と実際の医療のつながりが理解できました。また、生活面など具体的なことも分かり、改めて目的意識が持てました」と話した。

 三堀教諭も「この日をきっかけに生徒たちは、ぼんやりしていた進路への意識が高まり、きちんと悩めるようになったと感じます」と、手応えを語った。

卒業生の愛校心が支える「懇談会」

 「この『懇談会』は、多くの卒業生の愛校心に支えられています」と三堀教諭は話す。「ほとんどの方が、よほどの用事がない限り快諾してくれます。都合がつかないからと知り合いの卒業生を紹介してくれたり、海外から『参加したい』とわざわざ連絡してくれたりすることもあります」

 「懇談会」の後、3人の卒業生に母校への思いを聞いた。3人とも、もう何年も協力してきた先輩たちだ。

 松浦博士が、特に思い出に残っているのは、各学年3学期の体育で取り組む「縄跳び」だという。「いろんな跳び方を組み合わせる学校オリジナルの規定種目が13ランクあって、みな昇級に燃えるんです。あれで、コツコツやって上達する喜びを知った気がします。桐朋は中入生・高入生や文・理でクラスを分けないので、いろんな友達ができました。歴史の知識がすごかったり、ピアノがプロ級だったりした人もいました。今も年に1度くらい集まっています」

 猪原博士の思い出は数学の授業だ。大学の学部生時代は純粋数学に取り組んだが、もともとは数学の成績がよくなかったそうだ。「得意になったのは桐朋の授業のおかげです。例えば数列の極限や収束について、普通は公式の暗記で対処しますが、先生が『大学ではこう考える』と公式を証明してみせたんです。習っていることの本質が分かり、『面白い』と意欲につながりました」

 荒川博士も、「数学の授業に助けられた」という。「桐朋の先生が執筆したオリジナルのテキストは、分かりやすくて受験に必要十分な内容です。おかげで、授業だけで受験を乗り切れました」

 荒川博士にとって特に思い出に残っているのは自由研究だそうだ。中1では国土地理院の地図を等高線に沿って切り取って重ね、地理模型を作った。中3では地域のゴミ問題に取り組み、街でさまざまな人に取材をしたという。「自由研究も行事もすべて生徒が立案、実行します。先生は『あれをやれ、これをやれ』とは一切言いません。自分たち生徒を肯定し、励ましてくれるのがうれしかった」

将来はじっくり考えて、自分で決めて挑戦しよう

学校時代の思い出話に花を咲かせていた3人の博士
学校時代の思い出話に花を咲かせていた3人の博士

 最後に、今の桐朋生に求めるものを3人の卒業生に聞いた。

 松浦博士は「私たちの頃より真面目そう」という印象を持つ。「突出したことがやりにくい時代かもしれないが、やりたいことには挑戦してほしい。大学では、何をやるかは学生次第。実行に移せば楽しい学生生活になることは間違いありません」と語る。

 猪原博士も「進路は最終的に自分で決めるもの。自分がどうしたいのか、真剣に考える時期があっていい」と主体性の大切さを強調した。

 荒川博士は「中学・高校での経験はやはり狭い。大学でじっくり進路を考えるのもありです。もっと広い世界を見てからでも遅くありません」と慎重な判断を促した。

 取材の後、3人の博士は中庭に向かい、さらに学校時代の思い出話に花を咲かせていた。あふれる笑顔に愛校心が満ちていた。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート)

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508144 0 桐朋中学校・桐朋高等学校 2019/04/01 05:21:00 2019/04/01 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190326-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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