半世紀の伝統、中3「自由研究」で発見の喜び…桜蔭

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 桜蔭中学校・高等学校(東京都文京区)は毎年、中学3年の全員に長大な「自由研究」の論文を課している。テーマは原則自由で、AI(人工知能)から宇宙、モーツァルト、イケメンまで実に多彩だ。昨年度で50周年を迎えたという伝統の学びの中で、生徒たちはひたむきに探究することの大切さや、新たな発見の喜びを味わっている。

卒業式直後のプレゼン「夢を操る」に沸く会場

「夢~人は夢を操れるか~」のテーマで発表する川上さん
「夢~人は夢を操れるか~」のテーマで発表する川上さん

 「幼稚園児の私が、友だちと鬼ごっこをしている……」。川上舞さんは、昨年、そんな幼い日の夢を見た。「でも、夢の中の自分は、なぜか足が重くてうまく走れない。変だなあと感じたとき、眠りながら『これは夢なんだ』。私は中学生」とはっと気付いたという。すると、夢の中で「背がぐんと高くなり、足も速くなって、あっという間に全員を捕まえることができました」。

 壇上でマイクを手にした川上さんの話に、会場の生徒や保護者らから、どっと笑いが起きた。

 これは今年3月末に開かれた中学3年による「自由研究」発表会でのひとこまだ。同校では中学校の卒業式後、講堂で引き続き発表会を開くのが恒例だ。代表の生徒5人が順番にステージに立ち、スクリーンに自作のスライドを映し、プレゼンテーションを行う。川上さんもその一人として、「夢~人は夢を操れるか~」というタイトルで発表した。

 人が夢を見る脳の仕組みを説明した後、川上さんは、夢であることを自覚しながら見る「明晰夢(めいせきむ)」を取り上げ、その夢の世界でストーリーを思い通りにコントロールできるようにならないかと、自らを実験台にして研究に励んだ奮闘ぶりを伝えた。

AIからイケメンまで、自由に選ぶ多彩なテーマ

「自由研究」での学びについて語る佐藤千恵子教諭
「自由研究」での学びについて語る佐藤千恵子教諭

 桜蔭は、完全中高一貫校だが、高校に進む前に中3生全員がくぐり抜けなければならない伝統の関門がある。それが自分でテーマを決め、論文の形にまとめる「自由研究」だ。

 中3の最初の始業式の日に、テーマや動機などを書いた研究計画を提出し、クラス担任と内容を詰めた後、文献調査やデータ収集、実験、観察などを進め、テーマを掘り下げていく。自分の考察を加えて、夏休み中に400字詰め原稿用紙20~40枚の論文を完成させる。

 テーマは基本的に自由だ。昨年度、中3の担任として「自由研究」を指導した佐藤千恵子教諭は「受験のない中3のこの時期だからこそ、将来の進路にとらわれずに面白いことをやりなさいと言っています」と話す。

 その言葉通り、全作品の要約を集めた昨年度の「中学三年『自由研究』抄録」には、身近な生活の話題から、歴史、文化、科学、医療、環境、国際問題、スポーツまで、あらゆる分野のタイトルが並んでいる。

 「イケメンについて」「親しき仲にはあくびあり」「爆食いの神秘」「平安貴族と陰陽師(おんみょうじ)(つな)がり」「モーツァルトは何人いるか」「AIが導き出す文豪作品の味」「青い花を作る」「世界から月が消えたなら」「進化する漢方薬」「銃大国アメリカを考える」「ダンスに関する解剖学」……。

 「論文の書き方の基本は教えますが、あとは生徒にほぼ任せています。どんなテーマが出てくるのか、私たち教師も楽しみにしています」

 完成した作品は夏休み明けに、手作りの表紙を付けて校内に展示される。文字数は1万~1万5000字に及ぶが、すべて原稿用紙に手書きだ。「パソコンで安易なコピペはしてほしくありません。手でゆっくり書きながら、立ち止まって考える。この時期はまだ、そんな手書きの良さを味わってほしいのです」と佐藤教諭は話す。

 約240人いる中3生のうち毎年10人の作品が選ばれてプレゼンテーションが行われる。5人は中学校卒業式の直後に、他の5人は「自由研究」を目前に控えた中2生向けの発表会の場に立つ。

 八田愛音(あやね)さんは、今年2月、後輩たちが見つめる講堂のステージで、鋭い蹴りや突きを繰り出す空手のパフォーマンスを演じ、会場を沸かせた。

 タイトルは「空手道~私が頭脳で強くなるには~」。小2から自宅近くの極真空手の道場に通い、現在は黒帯の八田さんは、1対1で攻防する組手でさらに強くなりたいと、このテーマの研究に取り組んだという。

 自宅の居間で床の板のラインに合わせて立ち、そこからさまざまな手技や足技を出し、どのポイントでヒットするのか、奥行きや高さ、左右の広がりを一つ一つ綿密に測定した。「クリスマスに買ってもらったミットを、父親に持ってもらいました。調べるのはとても楽しかったです」

 自分の技が届く範囲を3次元でデータ化したことで、弱点やクセも分かり、深く攻め込む後ろ蹴りや、相手との間合いを詰める動きを磨くことなど、稽古目標がより具体的に見えてきたという。

テーマの多くは日常生活の疑問

手作りの表紙を付けた手書きの「自由研究」
手作りの表紙を付けた手書きの「自由研究」

 福井志織さんは、勉強で苦手な暗記を何とか克服しようと、「記憶術~『場所法』を使った優位性の考察~」で、効果的な覚え方を探った。

 30冊近くの関連書に目を通し、その中から「場所法」という記憶術にたどり着いた。「0」はボール、「1」は鉛筆など0から9までの数字を決め、乱数表にあるランダムな 数字列に合わせて、それらを家の中に並べた後、回収しながら順番を思い出すという実験に繰り返し取り組んだ。

 その結果、普段の自分より2倍以上も数字の並びを覚えることができたという。しっかり暗記して、忘れないためには「イメージ化と関連付け」が一番の近道だと論文にまとめた。「途中であきらめず、実験を最後までやり切ってよかったなと思います。今後の学習に生かしたいです」

 研究テーマの多くは、日常生活で感じたことが出発点になっている。石原咲歩(さゆみ)さんは、コンビニで菓子を選ぶとき、見た目の印象に左右されることから「パッケージデザインについての研究」に取り組んだ。また、宮野華さんは、携帯電話のテレビCMにヒントを得て、昔話が語り継がれてきた背景を「むかしむかしあるところに~昔話の継承~」で探った。

新しい情報に「ワクワク」、広がる関心

「手書き指南書」のテーマで発表する中島さん
「手書き指南書」のテーマで発表する中島さん

 新しい発見の喜びを感じた生徒も多い。スマートフォンのロック解除などで使われる指紋・顔認証などの「生体認証」について調べた伊藤育さんは、「研究中も新しいニュースが入って、追いかけるのが大変でした。でも、初めて知る情報にワクワクしました」という。

 5歳から書道を習っている中島万賀(まか)さんは、友人らの筆跡の収集調査などを通して、くせ字も見方によっては個性的で良い字だとする「手書き指南書」をまとめた。「世界の言語の手書き文字についても、深く調べたいと思いました」という。

 関谷理香さんは、「モスキート音と耳年齢」で、高齢になるほど高周波の高音が聞こえなくなる問題を探った。篠原由梨香さんは、「スペースデブリについて」で人工衛星の破片などが宇宙ゴミとして地球を周回する危険性や衝突防災策をまとめた。「世界遺産と鎌倉」という研究は、世界文化遺産の登録が以前に却下された<武家の古都・鎌倉>の裏事情を追っている。

 それぞれが自分のテーマに向き合い、答えを見つけ出そうと、ひたむきに努力し、工夫を重ねたことがよく分かった。

 「自由研究」は昨年度で50周年を迎えた。スタートした1960年代末はグループサウンズ全盛で、10代の少女らが夢中になっていた。そんな騒がしい世相でも、中学3年という時期に、「ゆっくり時間をかけて、しっかり考えさせたい」という思いで始まったという。

 高い学力で知られる桜蔭生だが、文献の読解や実験・観察で得られた研究データを、分かりやすく文章に組み立てるのは意外と苦労するらしい。

 佐藤教諭は「ものごとをしっかり考えること、そして、考えたことを相手に分かりやすく伝えること。それがようやく、できるようになったのではないでしょうか」と、生徒たちの成長を長い目で見守る。

 中3の少女たちは、「自由研究」での貴重な体験をステップに、まだ遠い将来を見つめながら、高校生として新たな階段をまた一歩一歩のぼっていく。

 (文・写真:武中英夫 一部写真:桜蔭中学校・高等学校提供)

 桜蔭中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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716080 0 桜蔭中学校・高等学校 2019/08/01 05:21:00 2019/08/01 10:34:39 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190801-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

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