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渋谷教育学園渋谷中学高等学校(東京都渋谷区)は、授業やクラブ活動、課外活動など全ての学びをSDGs(持続可能な開発目標)に結び付け、生徒の主体的な行動を促している。気候変動を巡って開かれた課外講座の様子や、模擬国連に参加した生徒たちの話から、社会問題を自分事としてとらえ、行動に移せるようにする同校の教育を紹介する。
「専門家を軽々と超える洞察力」と教授が絶賛

取材に訪れた10月7日、放課後の同校で、京都大学大学院の宇佐美誠教授による「気候正義」をテーマとした課外講座が行われた。会場の視聴覚室には、受講を希望する中3から高2までの生徒約60人が詰めかけていた。
司会の
この日の課外講座のハイライトは後半の質疑応答だった。ある生徒は「中国は世界1位の温室効果ガス排出国ですが、国内の産業のために排出しているというより、先進国に売るためのモノを作るのに排出しています。これをどう見ますか」と質問した。
宇佐美教授は「素晴らしい質問です」とし、「今の国際社会では、中国が排出しているから中国の分と見なされていますが、実際には欧米や日本が消費するモノのための排出です。消費する国が責任を持つカウントの仕方があるのではないか、欧米や日本がもっと責任を持つべきだという議論が、今まさに出ているのです」と答えた。
別の生徒は「グレタさんが運動しても、制度改革につながらないと思います。社会構造の中に、ガスを排出する有力企業と政治家が結び付いている構造があって、イノベーションを妨げる構造になっています」と意見を述べた。
宇佐美教授は「これも素晴らしい論点を出してくれました」とし、「民主主義の潜在力に期待したいと思います。民主主義は、自分たちが良いと思う人を自分たちの代表にできる制度です。これによって変わることを期待します」と返した。
終了後、宇佐美教授は「中高生なのに、研究者がポイントだと思うところに目が行く。素人でも専門家を軽々と超えてくる洞察力、見抜く力があることに、驚かされました」と絶賛した。
SDGsの問題解決のため学びを行動に移す

宇佐美教授をうならせた生徒たちの鋭い視点や洞察力は、日頃のSDGsに関する学びで磨かれたものだという。「本校では、授業や部活動、課外活動など、全ての学びがSDGsに結び付いていると言っていいでしょう。今日の気候正義の講義も、模擬国連の活動も、SDGsの17の問題を解決するための学びです。それを生徒たちが実感し、楽しみながら自ら行動しているのです」と模擬国連部顧問の室崎摂教諭は話す。
司会を務めていた妻鹿君は、「模擬国連部で環境問題をテーマに議論をした経験から、今回の司会に立候補して、準備してきました」と話す。妻鹿君は後藤
今年5月にはニューヨークで行われる国際大会に日本代表として派遣される予定だったが、コロナ禍のため中止に。そこで、2人は一緒に派遣される予定だった他校の生徒2人と協力して、オンラインで初心者向けに「全国中高生新人模擬国連大会」(MUNR)を企画し、ネット上に集まった全国の中高生約100人と議論し合った。
「オフラインでできないなら、オンラインでやればいいと思ったのです。模擬国連は課題解決力や協調性などが得られる素晴らしい活動なので、もっと多くの中高生に知ってほしいと思い、初心者向けに企画しました」と妻鹿君は話す。
後藤君も「初心者でも議論しやすいように、『食料安全保障』を議題にしました」と話す。「中高生の間は失敗したっていい、何でも積極的に挑戦できる時期なのです。自分もみんなも、いい意味で積極的に行動できる企画だと思いました」
社会問題を自分事としてとらえる
「彼らの行動力には驚かされます。この企画も、事後報告でした」と室崎教諭は明かす。「本校の校長、田村哲夫は、常々、センス・オブ・エージェンシー、つまり主体性を育むことが何より大切だと話しています。社会問題を自分事としてとらえて、行動できるようにしていくことこそ教育なのです」
同校では、授業などで取り上げる教材や内容は全てSDGsに結びついており、学校として、生徒がSDGsを自分事としてとらえる雰囲気作りをしているという。例えば、高1の広島研修で行う平和学習を始め、留学生の受け入れや海外研修など、SDGsに結び付く世界の問題に目を向ける機会は多い。18年には世界18か国から137人の高校生を招いて、世界高校生水会議を行い、水問題について世界の高校生と話し合った。
普段の授業でもSDGsにつながる学びをしている。中2の生徒が道徳の時間に、SDGsについてグループで調べ学習を行うなど、各学年がさまざまな科目でSDGsをテーマにした学びを行っているという。

クラブ活動でも、ボランティア部は「フードドライブ」の活動で、家庭で余っている食品を集め、生活困窮者やシングルマザー家庭、DVシェルター、難民などを支援する活動を行っている。社会科研究会は、「シブヤのミライについて語ろう」をテーマに企業からゲストを招いてワークショップを続けてきた。ジェンダーの問題も議論しており、昨年12月には日本で初めて同性カップルへパートナーシップ証明の発行を開始した渋谷区の長谷部健区長や、スフィーダ世田谷に所属する女子サッカー選手の下山田志帆さんを招いてのワークショップを実現させた。
高際伊都子副校長は「渋渋生のすごいと思う点は、その行動力です」と感心する。「教員は各学年の発達段階に応じて気付きを与えるくらいで、必要以上にサポートしないのです。主体的な姿勢があれば、知識はあとからついてくるのですね。渋渋生らしさは、自由に動ける学校の風土から生まれるのでしょう」
主体的な学びだからこそ行動力が生まれる。自由な校風はその背中を押す。SDGsの問題解決に向けて、生徒たちへの期待は大きい。
(文・写真:小山美香 一部写真提供:渋谷教育学園渋谷中学高等学校)
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