【特集】グローバルな意識で、自ら行動し始める生徒たち…横浜女学院
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横浜女学院中学校高等学校(横浜市)は、多言語教育とCLIL(内容言語統合型学習)を特徴とする「国際教養クラス」を設置して3年目を迎えた。中学1年次から他文化の体験を重視する学習を積む中で、生徒たちはダイバーシティーを体感してきた。また、並行して実施されているESD(持続可能な開発のための教育)も、生徒たちに世界の諸課題へ目を向けさせ、解決のための行動を促すという。発展する同校のグローバル教育を取材した。
多言語の学習通して他文化に触れる

同校は2018年度、中学に「国際教養クラス」と「アカデミークラス」という二つのコースを導入した。中3の「国際教養クラス」では英語のほかに、CLILを4時限、第2外国語を1時限加え、計週10時限の語学授業を確保している。「アカデミークラス」も国際教育に力を入れていることに変わりはなく、中3では英語と英会話で週8時限の授業があり、さらに希望者は第2外国語を選択することが可能だ。
第2外国語の授業で特徴的なのは、中1でドイツ、スペイン、中国3か国の文化を学び、中2で三つの言語すべての基礎を学ぶ点だ。中3ではその中から一つ選択して、より学びを深めるという。
広報主任の宮下直樹教諭は「言語を通して文化を学ぶことが大切と考えています。国や文化、言語、宗教など、自分と違った背景を持つ人がたくさんいることを知ってほしいのです。ダイバーシティーという言葉を学ぶより、先に世界の人々と実際に触れて、『これがダイバーシティーか』と感じる。その体感を大事に、国際感覚を養います」と話す。
そのため、授業は体験重視の内容になっていて、いずれも横浜市内にあるドイツ人学校の「東京横浜独逸学園」や台湾系の中華学校「横浜中華学院」を訪れて同世代の生徒と交流したり、スペイン舞踊を体験したりしている。
国際教養クラスの佐々木
また、スペイン語の授業で、チョコレートやチワワなど普段使っている言葉の語源がスペイン語と知って、驚いたこともあるという。「想像していた国のイメージと実際の様子が違って、新たな発見があり、とても興味が湧きました。文化も言葉も育ちも違う、外国の人を理解して受け入れることが重要だと思いました」

こうした国際教育の成果が試されるのが、例年10月に行われる中3全員参加のニュージーランド海外研修だ。今年度はコロナ禍のため延期されたが、国際教養クラスでは1か月間、アカデミークラスでは12日間の予定が組まれている。「2人1組でホームステイをしながら提携校に通い、現地の生徒と英語で協働作業をしながら学びます」と宮下教諭は説明する。
高校1年の宮下
宮下さんは研修体験を通して、さまざまな国や地域の人とコミュニケーションする仕事に就きたいと考えるようになったといい、以前よりも積極的に英語を学んでいるそうだ。
また、CLILの授業で、英語で学ぶ面白さを知った生徒の中には、同校が提携する米国リバティー大学の授業をオンラインで受講する生徒もいるという。
ESDの学びで、世界の諸課題に目を向ける
これらの学びによって芽生えたグローバルな意識を、より実践的な社会問題の探究へと導くのが、2015年度から実施しているESDの学びだ。
ESDは、環境、貧困、人権、平和、開発といった世界のさまざまな課題を解決し、持続可能な社会をつくる担い手を育む教育だという。同校はこれまでも、各学年で年間テーマを決めて、持続可能な社会への関心・問題への気付きを深めるプログラムを実施するなどしてきた。
そのESDの学びとして今年度、1学期のコロナ禍による休校期間中は「学びプロジェクト」を実施した。中2と中3を中心に希望者約20人が、毎回変わるテーマについて、それぞれ家で調べ、オンラインで自分の考えを発表し、意見を交わし合う取り組みだ。
「日本の死刑制度は是か非か」「日本人の幸福度はなぜ低いか」「養殖マグロは天然マグロを超えられるか」「日本はサマータイムを導入すべきか」などのテーマが論じられたという。
宮下教諭は「オンラインだからこそできることをやろうと考えました。答えのない問題について、多面的に考えます。毎回とても白熱して、オンライン期間が終わった後も続いています」と話す。
ある生徒は、「日本人の幸福度はなぜ低いか」のテーマについて、フィンランドは幸福度が高いが、若者の自殺率が日本と同じくらい高いこと、日本人には、つらいことがあっても頑張るのが美徳という感覚があること、ブータンとは幸福度の指標に違いがあることを論じ、「決して日本人の幸福度が低いとは思わない、統計の取り方に問題がある」と自分の意見を述べたという。
宮下教諭は「この生徒は人前で発表するのが得意ではありませんでしたが、自信を持って発表できるようになりました。学んでいく中で、世界が見えてくる瞬間があったのだと思います。大きな成長です」と喜ぶ。
この「学びプロジェクト」は、ディベート形式にしたり、同志社中学校の生徒とオンラインで一緒に行ったりと、どんどん発展中だ。参加する生徒たちも
学校を飛び出して行動し始める生徒たち

グローバルな意識を持ち、世界の諸課題への理解を深めた生徒は、校外にも活動の場を広げるようになってくる。
2019年10月には高1の生徒たちが、横浜赤レンガ倉庫で行われた「Blue Earth Project」の「東京湾大感謝祭」に参加して、お菓子の袋をポーチにリメイクするブースを設置した。訪れた人に体験してもらいながら、プラスチックごみを取り巻く環境について知ってもらう活動だ。
これは、2000年に松蔭中学校高等学校(神戸市)から始まった環境活動で、「女子高生が世界を変える」を合言葉に、現在では全国の女子高生200人以上が参加している。
2020年5月には、新型コロナウイルス感染症と最前線で闘う医療従事者を応援する「Yell Project」を、高3生たちが全国の高校生とともに開始した。医療従事者に対する感謝のメッセージを中高生に呼びかけ、77枚のメッセージで大きな一つのハートを作って感謝を表す活動だ。
「このプロジェクトを運営した生徒は、ESDやCLILの授業を通して、大きく成長しました。出身小学校に自分で交渉して小学生と難民、移民の勉強会をし、この『Yell Project』でも他校の生徒と連携するなど、自ら行動しています。生徒たちは自らこうした活動に参加して、感じたことを形にしようと行動しています。私たち教員が伝えたいことが伝わっていると感じ、うれしく思っています」と宮下教諭は語った。
(文・写真:小山美香 一部写真提供:横浜女学院中学校高等学校)
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