【特集】AI時代に備えるハイブリッド型英語教育…四天王寺
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関西圏屈指の女子進学校である四天王寺高等学校・四天王寺中学校(大阪市)で、新しい学力観に対応する英語教育・国際理解教育への取り組みが進んでいる。これまで積み重ねてきた知識重視の教育法を根底としながら、アクティブラーニングやICT、さらにはAI(人工知能)の活用まで加味したハイブリッド型の教育法が特長だ。新しい英語教育法について教師の考えや生徒たちの声を聞いた。
「知識の持つ、人を解放してくれる力」を重んじる
「本校の英語教育は原則的に文法をベースとするオーソドックスなものです。英語の仕組みをしっかり理解させたうえで、多くのテキストを読み込ませ、表現力を磨いていく。常に変わることなく、『知識の持つ、強力で人を解放してくれるような力』を大切にし、土台となる基本的な知識の習得と、高度に応用的な問題にも対応できる学力作りを実践してきました」。同校で40年近く英語を教えてきた大向雅士教諭はこう語る。
しかしながら、大学の国際化が進む現在、英語で授業を行う大学はますます増えており、対応が必要だということは、同校も強く意識していた。大向教諭も「講義内容を理解するにはリスニング力が不可欠であり、それを高校生のうちに身に付けておくことが求められています」と認める。来年からの大学入学共通テストでも、もちろん英語4技能(聞く・話す・読む・書く)が問われる。
「四天王寺の教育スタイルを守ると同時に、時代の流れに負けないような教育を導入していく必要性を感じています。本校の生徒の能力に合っていて、かつ彼女たちに将来必要となる力を育成するような、時代にフィットする授業や研修に取り組んでいるところです」と大向教諭は話す。
ハーバード大生とのアクティブラーニングや海外研修

昨年の夏休みに始まったハーバード大生とのアクティブラーニング「SLICE(Summer Life Changing Experience)」は、そうした試みの一つだ。日本の学生に不足されているとされる二つのスキル、「掘り下げて考える力=クリティカル・シンキングスキル」と「自己の考えを英語で表現/伝える力=英語コミュニケーションスキル」を養成するプログラムとなっている。ハーバード大の学生との交流や意見交換を通して将来の指針、考え方に刺激を与えることも狙いの内だ。
昨年は、最難関医学科や東大、京大などの理科系学部への現役合格を目指す生徒を中心に30人が参加。留学支援機関「JAAC日米学術センター」の仲介で派遣を受けたハーバード大生とともに同校で3日間、プレゼンテーションの指導を受けたり、グループディスカッションを行ったりした。
過労死をテーマにプレゼンテーションを行った藤高結衣さん(高3)は「普段は新聞を読んで世界の動きを知る程度でしたが、ハーバード大の学生と交流することで移民問題など『世界の今』を身近に感じることができました。大きな収穫でした。将来は日本で開発した薬を世界に届けられるような研究者になりたいとの思いを強くしました」と話す。
医師を目指している原田莉子さん(高3)も「学校の授業では高度な英語力が身に付いたと自信を持っていましたが、SLICEを経験して、自分の考えをどのように伝えるべきかなど、表現力やコミュニケーション力の必要を痛感しました。私は救急医療に興味があります。将来はグローバルな視点を持った医師を目指したいです」と話した。


「海外語学研修」も毎年、行われている。同校の教育方針である「将来希望する世界で活躍できる学力・多様性理解力の養成」「グローバルな視野を持ち、社会をリードする女性の育成」を達成するのが目標だ。
夏休みの2週間、オーストラリアのブリスベンでホームステイしながら英語学校に通い、現地の中高生と交流を深める。対象は中3、高1、高2の希望者で、毎年80~100人が参加するという。
この研修に参加した武田菜々子さん(高2)は、「もっと英語力を磨いて異文化について知識を深めたり、いろんな国の人とコミュニケーションを取ったりしたいと思いました」と話す。折戸梨桜さん(同)は「ボーダーレスな世の中になり、互いにより深く理解し合うために、さらに英語力を磨きたいと思いました。今後の英語学習へのモチベーションアップにつながりました」と、國西杏佳さん(同)も「文化の違いに触れて視野が広がりました。人種の違いなど先入観なくフレンドリーに接してくれたので、私も将来は分け隔てなく人に接することができる大人になりたい」と、それぞれ国際理解への関心を深めていた。
研修を引率している本田泰久教諭は「本校は比較的控えめな性格の生徒が多い。海外研修を通して多様なバックグラウンドの人と触れ合い、積極的に人と関われるようになれば、将来きっと役立つことでしょう」と期待を語った。
AI時代にこそ必要な「知力と知性を鍛える教育」

ICTを活用した英語教育も今年で3年目となる。初年度は高1だけを対象としていたが、昨年度からは中3にも対象を広げ、Reallyenglish社の教材「Practical English 7」を使ったeラーニングを実施している。生徒各自のパソコンやスマートフォン、また学校のメディアルームでも学習できる。生徒一人一人の進度に合わせて、多読や文法トレーニング、音声や動画を使ったリスニングの学習ができ、効果を上げているという。
英語担当の松本真奈教諭は「eラーニングに関してはスピーキング以外の3技能の強化目的で放課後に使用していますが、生徒本人の学習進捗状況が『見える化』できますし、教師も管理できます」と、そのメリットを語る。
今年度は希望者対象に中高全学年でオンライン英会話を導入した。さらに今秋の実用化を目途にAI(人工知能)を使った英語トレーニングツールの実証授業にも取り組んでいる。「医志コース」にはすでに昨年春、試験的に導入していて、AIならではの高い精度で
ただ、同校は、教室内で教師が生徒に対面して教える授業形式を基本とし、通常の授業時間はこれまで通り確保。eラーニングやAIの活用は原則的に放課後や自宅学習で行うこととしている。新しい教育ツールを取り入れるのは、従来の教育スタイルを変えない範囲でのことだ。基本となるのはあくまで伝統の中で積み重ねてきたオーソドックスな学習法なのだ。
松本教諭は「AIといっても完璧ではない。近い将来、AIに人間の仕事が支配されてしまうのではないかという
大向教諭もあえて「21世紀型の教育が夢のような学力を実現してくれるかのような、そうした神話には惑わされません」と言い切る。
来春、難関大受験に挑むべく厳しい勉強を重ねてきた「医志コース」1期生の生徒たちと日々向き合う中、確認されてきた方針があるという。それは「従来通りの四天王寺生の強みである,
たゆまず自主的に学び続ける力、それは新しい時代を迎えても変わることのない学力であるに違いない。
(文・写真:櫨本恭子 一部写真:四天王寺中学校・高等学校提供)
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