「パリ講和会議」再現して白熱の疑似体験…鴎友

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 鴎友学園女子中学高等学校(東京都世田谷区)で11月、中2の歴史の授業として第1次世界大戦終結のために開かれた「パリ講和会議」をシミュレーションする模擬会議が行われた。同校の社会科は、歴史だけでなく、地理、現代社会などでも「体験」を重視しており、正解のない問いに取り組んでいるという。この授業を取材し、その狙いや成果について聞いた。

多様な視点や、他者の意見を受けて考える力を

「パリ講和会議」をシミュレーションした模擬会議
「パリ講和会議」をシミュレーションした模擬会議

 同校は中学2年の歴史の授業に、歴史上の出来事を題材として調べ学習や討論、プレゼンテーションなどを行う「テーマ学習」を取り入れている。1学期は「ヤマト王権の国づくり」「関ヶ原の戦いで東西どちらにつくか」「ナポレオンの業績」についてグループや個人で発表する。2学期は第1次世界大戦後の「パリ講和会議」、3学期は太平洋戦争開戦前の「大本営政府連絡会議」を生徒がシミュレーションする模擬会議を行っている。このうち「パリ講和会議」の模擬会議が行われた11月12日、同校を訪れた。

 実際の「パリ講和会議」は、第1次世界大戦終結のため1919年にパリで開催された、イギリス、フランス、アメリカ、日本など戦勝国による講和会議。敗戦国ドイツに対する賠償要求や、国際連盟の設立、民族自決の提唱などが話し合われた世界史のターニングポイントだ。生徒たちは各国の代表を演じて、この重要会議をシミュレーションし、国際会議の駆け引きを疑似体験する。

 中2の歴史を担当する前澤桃子教諭は、「中学時代には知識は増えますが、物事を善悪や感情論で見がちです。そこから一歩進んだ多様な視点や、人の意見を受けて考えを発展させる力を育てたいと考えました。さらにチームでの役割分担の訓練や面白さも考慮し、今の形になったのは2015年度です」と説明する。

中2の歴史を担当する前澤桃子教諭
中2の歴史を担当する前澤桃子教諭

 模擬会議のやり方は、まずクラスを米・英・仏・日(各2チーム)、中華民国、英領インド(各1チーム)の10チームに分け、各チームに4人ずつ割り当てる。議題は(1)敗戦国ドイツに賠償金を課すかどうか。(2)国際連盟の設立の可否。(3)連盟を設立した場合、どの国が常任理事国を務めるかの三つとする。その上で各国のチームは前日に、会議での主張内容と戦略を検討し合い、会議当日は、各チームが公式・非公式の話し合いを行って「国益」の実現と合意を目指す、というものだ。会議の後は、実際のパリ講和会議について教諭が補足や解説を加える。

 この日の授業では、生徒たちは教壇の周りに半円状に並べた椅子にチーム別に着席し、前澤教諭を「議長」として50分間の模擬パリ講和会議を開始した。

 最初に「30秒プレゼン」があり、各国代表者が順番に立ち上がって自国の主張やその理由を述べた。

 戦争被害が少ないアメリカは、ドイツへの賠償金を「課さない」立場を表明した。英・仏は被害の大きさを理由に賠償金を求め、総額の35~40%を要求。日本チームも「アジアで最も貢献した」として15%を要求した。また、インドはイギリスから約束された独立を求め、中華民国は日本の「二十一か条要求」の取り下げを求めるなどの主張をそれぞれ展開した。国際連盟については各チームとも設立に賛成した。

 あるチームは主張の最後に「戦争被害の大きさを考え、平和のために先を見据えて行動していただきたく存じます」とアピールし、「国際会議っぽい」と教室を沸かせた。

大人も顔負けの駆け引きを繰り広げる

白熱した交渉や駆け引きが繰り広げられた「非公式会議」
白熱した交渉や駆け引きが繰り広げられた「非公式会議」

 続いて10分間の「非公式会議」タイム。全員席を立って「誰かフランスと話しに行って」「説得しないと」などの声が飛び交い、教室が一挙に騒がしくなる。日本チームがインドチームに「独立を支援するから理事国に推薦を」と持ちかけたり、フランスチームが中華民国チームを味方にしようと「二十一か条要求は退ける方向で」と約束したり、大人顔負けの駆け引きのテクニックも繰り広げられた。

 最後に「公式会議」に移り、イギリスが敗戦国の負担を考慮して賠償金総額の減額を提案したり、日本が二十一か条要求の一部を取り下げたりしたほか、アメリカが日本と中華民国の仲介を申し出るなど、「30秒プレゼン」での主張に妥協や変更を加えた方針が発表された。

 また、常任理事国には投票の結果、イギリス、フランス、中華民国が各8票、ドイツも7票で当選した。ドイツに投票したチームに前澤教諭が理由を聞くと、「世界平和のため敗戦国の意見も聞くべき」と話した。交渉で好感触を得ていたらしい日本は2票しか集まらず落選、「裏切られた」と声を上げた。

 終了後、議論の興奮冷めやらぬ生徒に話を聞いた。アメリカを担当した生徒は「白熱しました。アメリカの気持ちになり、どの国とどう関係を結ぶか考えました」と顔を紅潮させる。フランス役の生徒は、日本に常任理事国支持を約束しながら「裏切って」票を入れなかったという。「個人としては約束を守りたいが、国の利害が絡むと……」と、国際社会の現実の厳しさを感じたようだ。

 前澤教諭は「従来の見方を揺さぶられる感覚や、自ら考えて主張する楽しさを感じるようです。この授業の後は、『自分はこう思うけど、こういう見方もあるかも』『相手の国はどうなるの』など、客観的な視点を思わせる発言が多くなります」と話す。

「体験」と「調査スキル」で生きる力を身に付ける

中1の地理を担当する吉田裕幸教諭
中1の地理を担当する吉田裕幸教諭

 中1の地理を担当している吉田裕幸教諭は、「本校の社会科授業は、社会に対する視点や思考力を養うトレーニングです。中学3年間はさまざまな状況や視点の『体験』と『調査スキルの習得』を共通の狙いとしています」と語る。

 中1の地理では、最初に学校周辺を歩くフィールドワークを通して、地図の見方や風景の読み取り方を学ぶ。また1学期に行う軽井沢での山荘生活では、現地へ向かうバスから見える景色や建物、地形について社会科の教員が解説する。

 「こうして学んだ『空間の広がり』の認識に『時間の広がり』を加えるのが中2の歴史です」と前澤教諭は説明する。

 歴史の授業では、模擬会議以外の授業でも、図像や映像資料を豊富に使って疑似的な「体験」を重ねることに重きを置いている。

 中3の「現代社会」では1・2年で学んだ知識を踏まえ、「差別」「戦争」「女性問題」「生命倫理」など社会が直面するテーマについてグループ討論やリポートの作成、個人発表などを行う。

 11月の沖縄修学旅行は、3年間の社会科学習の集大成となる。地理・文化的な特色を学び、琉球王国や沖縄戦の歴史を知り、そして現在の基地問題を考えるという意味で、地理・歴史・現代社会の学びを凝縮して体験できるという。

 「現地をじかに見て話を聞き、沖縄をどう捉えるかという正解のない問いに取り組むのです」と吉田教諭と前澤教諭は口をそろえる。先生たちが常に心がけているのは、「なぜ」「あなたはどう思う」と問いかける事だという。「知識を吸収するだけでなく、自分なりの視点や姿勢で関心を持つ。それが社会を生きる力になると考えています」

 日々の授業「体験」を力に変えながら、生徒たちは現実の世界に立ち向かい、生き抜いていく力を身に付けることだろう。

 (文・写真:上田大朗 一部写真提供:鴎友学園女子中学高等学校)

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