【特集】ワクワクの林間学校で「自然を観る目」養う…都市大付
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東京都市大学付属中学校・高等学校(東京都世田谷区)は毎年夏に、中1生を対象とする林間学校で野生動物の生活痕を探す実習を行っている。霧ヶ峰を登山し、湿原を歩き、新鮮な観察をする中で、生徒たちの「自然を
自然の中でフィールドサインを見つける

同校は毎年夏に、中1生を対象に行っている林間学校で、「フィールドサイン」を探索する授業を行っている。フィールドサインとは、野生動物が残した
「動物の糞を見つけて喜ぶ中学生は日本全国を探しても数少ないと思います」。この探索を指導している生物科の久保田教諭は笑いながら話す。自然の中で野生動物が生きている証しを見つけると、中1生たちは不思議なくらい感動を覚えるそうだ。
「中学受験を経てきた生徒たちは、よく勉強していて知識が豊富です。しかし、都会育ちということもあり、人が本来持っている『生きるための感覚・感性』が発揮しきれていないと感じていました」
2009年に初めて林間学校の引率に参加した際、「せっかく自然あふれる場所に出かけるのだから、もっと有意義に活用したい」と考え、林間学校の運営に携わるようになった11年から、「自然を観る目」と「自然を大切にする気持ち」を養うことを目的に、フィールドサインの探索を野外学習に取り入れた。
動物の特徴や自然環境について事前学習

自然の中でサインを発見するためには前提となる知識が必要だ。久保田教諭によると、自然の中には「見ている」にもかかわらず「見えていない」ものが数多くあるという。「それは見ようと意識していないか、あるいは見方が分かっていないからです。見ようという気になれば、そして見方が分かれば、自然は実にたくさんのことを教えてくれます」
そのため、久保田教諭は、現地での調査に先立ち、科学実験の時間を使って事前学習を行っている。同校の科学実験は、理科の授業以外に中学の3年間で60ものテーマで実験・観察し、記述式のリポートを書くユニークな取り組みだ。中1では生物の特性を理解することも目標となっており、林間学校はその一環としても位置付けられている。
事前学習の中で「動物たちの多くは夜行性なので、日中にはなかなか姿を見せないけれど、夜に活動した痕跡が残る。それをフィールドサインと言うんだ。林間学校でこれを探そうと思うんだけどどうかな」と呼びかけると「探したい」「やるやる」と生徒たちは好奇心でいっぱいになるそうだ。

その後、生徒たちは授業を通して、野生動物の生態、行動パターン、糞や足跡の形状、サイズをはじめ、霧ヶ峰の湿原の成り立ちや、年間500万人が訪れる現地の環境問題についても学んでいく。「生物室にある糞のサンプルには輪ゴムやプラスチックが交じっているものがあります。イルカやウミガメの胃の中からプラスチック袋が見つかって話題になりましたが、人間の身勝手で、ここでも同じことが起きているということを話します」
事前学習の最後には、6、7人の班ごとに林間学校での目標を設定する。また、現地では生徒約20人に対して山岳ガイド1人が同行するが、その山岳ガイドに対する質問や要望も生徒自身に考えさせ、前もって伝えるようにしている。
林間学校の体験が進路選択にもつながる
昨年の林間学校は7月22~25日に3泊4日で行われ、中1生約250人が参加した。この年の初日はあいにくの雨で、宿舎近くの森の中で班ごとに行うオリエンテーリングは中止されたが、これはフィールドサインを探す練習も兼ねており、見つけたものを地図に書き込んでオリジナルマップを作るプログラムだ。「珍しいフィールドサインを見つけたら高得点が得られるゲーム形式にしています。最も多く得点した班は表彰されるので、仲間と力を合わせ、どうすれば高得点が狙えるかを考えて行動します」
2日目はフィールドサイン探索の本番だ。霧ヶ峰の最高峰・車山(標高1925m)に登り、さらに八島ヶ原湿原へ約5kmの道のりを、自然観察をしながら歩く。生徒たちはフィールドサインを見つけたら地図に地点を記入し、歩きながら気付いたことなども地図上に書き込んでいく。「フィールドサインを発見したら、後から来る班のために痕跡を崩さないように行動する配慮も大切なポイントです」
登山を終え、夜には宿舎で振り返りを行い、それぞれが見つけたものの情報と画像を共有する。また、現場でメモできなかったことを思い出してノートに記入する。その成果は夏休み明けに班ごとのポスターにまとめられる。
昨年、林間学校に参加した中2の生徒はこう感想を話す。「前もって動物の足跡や糞の特徴を学んだおかげで、シカの足跡を見つけることができました。ここで生き物が暮らしているんだと実感しました。以来、ニュースでクマやイノシシが街中に現れたと聞くと、彼らも懸命に生きているんだと思うようになりました」

また、林間学校の体験がその後の進路選択につながった卒業生もいる。現在、九州大学共創学部2年の小林海瑠さんは、霧ヶ峰で、外来植物を持ち込まないために登山口で靴底の泥を除去したり、入山者数をモニタリングしたりしていたことが印象に残ったという。「環境を保全している人がいるから自然が保たれていると知りました。自分もそうした人になりたいと思ったことが、経済や観光と環境保全を両立させる方法を学べるこの学部を選んだことにつながっています」
小林さんは現在、大学で環境保全について学びながら、沖縄のエコツアーの運営にも携わっているという。「ツアーの場合、フィールドサインはガイドが示すことが多いのですが、私は参加者に自分で探してもらうようにしています。それは林間学校で、動物が確かにここにいたと知った時のワクワク感を、多くの人に味わってもらいたいからです」
久保田教諭は、フィールドサインを探すというテーマを通して、生徒たちに学んでほしいことが三つあるという。
「まず、意欲をもって臨むということです。どんな学びでも、やる気にさえなれば多くを手に入れられると気付いてほしいですね。二つ目は、知識はあるだけでなく、生活の中で生かしてこそ価値があるということ。そして最後に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのテクノロジーが、ひとたび天災などでダウンしたとき、自分に何ができるのか。生き物として備わっている感性や危機を察知する力を眠らせないでほしいと思います」
久保田教諭は、「教員自身がワクワクしていなければ、学ぶことの楽しさは伝わらない」と話す。「本校には、林間学校だけでなく、授業や行事、部活動など、さまざまな体験を通じて、これだと思えるものを見つけるチャンスがたくさんあります。今後もそうした機会を一つでも多く用意していきたいと思っています」
(文・写真:山口俊成 一部写真提供:東京都市大学付属中学校・高等学校)
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