【入試ルポ】東京・神奈川、今年も算数が勝負どころ…駒場東邦
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首都圏の私立中学受験は1月の埼玉、千葉に続いて2月1日、東京・神奈川でも解禁となった。東京都世田谷区の中高一貫進学校、駒場東邦中学校・高等学校でも入試が行われた。この日の試験は、240人の募集に対して548人が出願。名目倍率は2.28倍だが、中身は少数激戦だ。真剣勝負に挑む受験生や、見守る大人たちの様子をリポートする。
塾の先生たちの激励を受けて入試会場へ
午前6時30分、正門へ真っすぐ続く道添いの左右に、サピックス、四谷大塚、日能研など中学受験塾の先生たちが、40~50メートルほどの列を作っていた。前夜に雪がちらついたこともあり、この日は最低気温1.3度と厳しい寒さだったが、一番乗りで正門前に陣取った早稲田アカデミーの先生たちは、朝5時から生徒を激励するために並んだという。
駒場東邦を目指す受験生たちが学ぶ早稲田アカデミーの「NN駒場東邦」クラスの責任者・後町健夫さんは、「駒場東邦中の入試問題は典型問題が少なく、見たこともないような問題にじっくり時間をかけて取り組み、試行錯誤しながら自分なりの答えを組み立てる力が試されます」と話す。
たとえば、国語は下書き用紙が配布され、社会は史料や統計データの読み取り問題がある。求められているのは、頭だけでなく、手も動かしながら論理を組み立て、他者に表現できる力なのだ。後町さんは「駒場東邦に向けて頑張ってきた力をぜひ発揮してほしい」と話した。

午前7時になると正門が開き、受験生と保護者がちらほらと到着し始めた。受験生たちは自分が通う塾の先生に「よし、頑張ってこい」「大丈夫、落ち着いてね」と声をかけられ、しっかりと握手を交わして、校内に入っていく。
ひときわ大きく手を振って、教え子を出迎える先生の姿があった。都内の多摩地区で学習塾を展開する「志學舎」の横山直大さんだ。「これをお守りにして頑張っておいで。今日は平成最後の入試だから、昭和最後の駒場東邦の入試問題を持ってきたよ」。教え子は、古色の付いた過去問集を受け取ると「先生、ありがとう」と、しっかりと抱きしめて試験会場へ向かった。
「2年間ずっと教えてきた生徒です。あの過去問は私の私物なのですが、渡せてよかった。緊張がほぐれた顔をしていたから大丈夫、きっと力を発揮できます」と横山さんは後ろ姿を見送っていた。
試験会場に向かう後ろ姿を見守る保護者たち

受験生と付き添いの保護者らは、校舎に入ると控室にあてられた講堂や食堂、体育館に次々通された。暖房の利いた控室に入ると、ほっとした表情になり、受験生たちはノートや教科書を見て、最後の確認をしていた。7時30分を過ぎた頃には、食堂は座る席がないほどたくさんの受験生、保護者で
食堂でリラックスした表情の受験生と保護者が話していた。
「(ノートや教科書など)何も見なくて大丈夫なの?」
「大丈夫。知識は全部詰め込んだから」
「じゃあ、後は気持ちの問題だ。楽しんでこい」
「うん、楽しんでくる」

7時50分になるとチャイムが鳴り、校内放送が流れた。「受験生のみなさん、保護者のみなさん、おはようございます。これから教室への移動について連絡します」
受験生たちは緊張した面持ちで説明に耳を傾ける。「受験番号1番から240番までの受験生のみなさんは、5階へ移動を開始してください」
放送が流れると、階段の下に一斉に受験生たちが集まってきた。そこで係の先生に受験票を示して確認を受けてから階段を上がる。保護者はここから先は入れない。
先ほどの保護者が階段下で息子を見送っていた。
「ファイト! 楽しんでおいで」
息子が階段を駆け上がっていくのを見届けると、「振り返らずに行ったな」とつぶやいた。
名目倍率2.28倍、少数激戦の真剣勝負
午前8時30分、チャイムとともに14の教室で一斉に試験が始まった。試験科目は国語、社会、算数、理科の4科目。午後0時35分の試験終了まで息つく暇もなく、難問に取り組み続ける。この日の試験は、募集人数240人に対し、548人が出願した。名目倍率2.28倍だが、高い学力を持つ受験生同士の真剣勝負だ。
サピックス教育事業本部本部長の広野雅明さんは、「先生方の面倒見のよさに定評のある駒場東邦は、今年も人気です。昨今は算数の平均点が高めなので、算数で得点が伸びないと苦戦します。まずは4教科の基礎をしっかり身に付け、6年生の後半からは過去問などで駒東らしさに対応する力を伸ばすことが、合格への鍵を握ります」と話す。
早稲田アカデミーの後町さんも、今年の駒場東邦の入試を振り返って、「もともと算数の点差が大きい傾向がありますが、今年は算数の受験者平均点(78.4点)と合格者平均点(89.1点)の差が昨年より大きくなりました。合格点付近に多くの受験生がいて、算数を得意とする受験生が優位になったものと思われます」と分析した。
駒場東邦の堤裕史教頭に受験生への思いをきくと、「目の前のことを一生懸命に努力する生徒、また、好奇心を持ち、自分の好きなことを大事にしている生徒に入学してほしいと思っています。入学したら勉強だけでなく、部活や趣味にも時間をしっかり使って、頭と心と体を鍛えてほしいですね。今日は持てる力を思いっきり出してほしい。今まで頑張ってきたことは、受験生たちの人生に必ずプラスになります。応援しています」と話した。
今年の受験生は、2022年度から高校で実施される新学習指導要領に沿った内容で初めて大学受験を迎える学年だ。遊びたい盛りの小学生時代に、将来を見据えてコツコツ勉強してきた。その頑張りが、人生の大きな力になることは間違いないだろう。
(文・写真:小山美香)
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