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【特集】世界の見え方が変わるものづくり教育…駒場東邦

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 駒場東邦中学校・高等学校(東京都世田谷区)は、設備の充実した技術室を活用し、中1、中2生にものづくりの基本と「つくる視点」を学ばせている。課外活動で技術室を活用し、ものづくりに挑戦している生徒もおり、今年9月に開かれた外部のロボット大会に、自作ロボットで参加して予選通過を果たしたチームもある。生徒たちの世界を広げる同校のものづくり教育を取材した。

今年は3Dプリンターで身の周りのもの作り

タブレット版の「CADソフト」を使用し、図面を作成する
タブレット版の「CADソフト」を使用し、図面を作成する

 同校の技術室には、のこぎりやかんなといった基本的な工具から、NC旋盤、レーザー加工機や3Dプリンターなどの高度な加工機械までが完備され、生活や社会を支える技術の基礎を体験的に学ぶことができる。

 技術の授業ではクラスを半分の20人ずつに分け、「ものづくり」と「コンピューター」を前後期で交互に学ぶ。

 中1の「ものづくり」では、まず木材加工を体験する。生徒たちはペン立てなどの製作を通して、日本の伝統的な工具の扱い方や材料の加工方法を学ぶ。技術科担当の石塚千鶴教諭は授業の狙いについてこう説明する。「中学受験を経てきた生徒たちは、作りたい欲求が満たされていないと感じます。また、ものづくりに苦手意識を持っている生徒も多い。それは正しい工具の使い方や材料の観察の仕方を学んでいないせいでもあります。のこぎり引き、くぎ打ち、直角出し、工具の手入れの方法などを木材加工で体験してもらいます」

 大きな製作物の場合には電動ドライバーやジグソーなどの電動工具も使う。「工具は使い方を誤れば、けがをする危険もあります。その点、本校の生徒は落ち着きがあり、危険意識を共有できるため、挑戦させられます」と石塚教諭は言う。「何より、本校の生徒は教員がストップをかけたら、すぐに止められる。その信頼感があるからできる授業なんです」

3Dプリンターに自作のデータを送信する
3Dプリンターに自作のデータを送信する

 中2では、金属加工に取り組む。ここ数年は、ミニ蒸気機関車を製作していた。この機関車は、ただ組み立てただけではスムーズに走らず、細部の調整が必要となる。カギとなるのはネジを締める感覚だという。「ネジで対象物を留めることは機械工作の基本なので、機関車が走るまで延々とその調整を続けます。必要以上に締めすぎるとネジが切れることもありますが、それも貴重な経験と考えています。失敗を推奨しているわけではありませんが、予備のパーツはふんだんに用意しています」

 今年度は、コロナ禍対策の休校期間があったため授業時間数が足りず、今年の中2は機関車の代わりに初めて、タブレット版の「CADソフト」と「3Dプリンター」を使って、身の周りのものを作るという課題に挑戦した。

 取材に訪れた10月30日は、その授業の2回目だった。授業開始とともに生徒たちは思い思いにタブレットに図面を表示させ、立体図を回転させながら、構造を検討したり、デザインを練ったりしていた。

 授業時間が半ばを過ぎた頃、数人の生徒が作品のデータ作成を完了した。作品はペン立てやタブレットスタンド、腕時計のディスプレー台などさまざまだ。これらのデータを全部で5台ある3Dプリンターに送信する。データを保存するファイル形式を間違えて、送信エラーになる生徒もいたが、石塚教諭がすぐに修正を指示していた。

 「一度何かを作ったことがある人は、世界の見え方が変わるはずです。世の中にあふれる『もの』がどんな材料で作られ、どんな過程を経て生まれてきたか、使いやすさのポイントは何か、と思いめぐらすようになります」と石塚教諭は言う。「そういう『つくる視点』がなければ、将来、設計者や開発者になったとしても、製作を依頼することさえ難しい。生徒たちが将来、変化し続ける社会に主体的にかかわっていくためには、そうした思考方法や姿勢を身に付けることが大切なんです」

ロボットの大会に有志で初出場し予選突破

有志の生徒たちがゼロからの挑戦で製作したロボット
有志の生徒たちがゼロからの挑戦で製作したロボット

 同校では、有志の生徒が技術室の充実した設備を活用して、燃費を競うエコラン大会などに挑戦している。今年はさまざまな大会の中止が相次ぐなか、リモートで開催されることとなった「第21回ROBO-ONE Light」への参加を決めた。この大会は、二足歩行ロボットによる格闘技大会で、2月と9月の年2回開催される。

 きっかけは昨年の2月、吉田開君(当時中2)が技術室のドアをたたいたことだ。「ロボットに挑戦してみたいと思い、技術室を使わせてほしいと石塚先生に相談したところ、ちょうど大会が東京で開催されているとのことで、一緒に見学に行きました」。その時は「いずれ参加できたら」という気持ちだったそうだが、同級生の大島敬君、佐藤晃生君に話したところ、一緒に取り組もうということになり、9月の大会への出場を決めたという。

 大会は予選と決勝があり、予選は5ミリの段差をいかに速く上るかを競う。バランスを崩さずに上るためには、プログラミングと操縦者の技術の双方が必要だという。

 主にプログラミングを担当した大島君は、「ゼロからの挑戦だったので、自分たちで考え、人間のように重心を移動しながら上る動作にしました」と話す。「ところが、本番でほかのロボットの動きを見るとすり足のような感じで、考え方がだいぶ違っていました。僕たちのやり方は少数派でスピードも劣るのですが、審査員からは、『まず、そこからスタートするのが基本』と評価されました」

 予選落ちも覚悟していた3人だったが、蓋を開けてみると大学生チームよりも上位に食い込む健闘を見せ、決勝トーナメントへの進出を果たした。決勝では仮想敵となるペットボトルを倒すというミッションに挑んだ。

 佐藤君はCADソフトと3Dプリンターを使うのが得意だったため、ロボットの頭部作製を担当したが、プログラミングの際にその重量を計算に入れていなかったため、いざ頭部を載せてみるとロボットが全く動かなくなってしまった。そこで仕方なく頭部を仮想敵のペットボトルに装着したという。「1か月近くかかった力作だったのに、悪役になってしまいました」と佐藤君は苦笑した。

「一度何かを作ったことがある人は、世界の見え方が変わるはずです」と話す石塚教諭
「一度何かを作ったことがある人は、世界の見え方が変わるはずです」と話す石塚教諭

 決勝では、対戦相手が前回2位の実力者だったこともあって、1回戦敗退となったが、3人は強敵と戦えたことを光栄に感じているという。操縦を受け持った吉田君は「学ぶこともたくさんありました。今回はリモートでの参戦だったので、次は実際に動く相手と戦いたい」とし、大島君も「操縦者の負担を軽くするプログラミングを組めるようもっと勉強して、会場を沸かせたい」と次の大会へ意欲を見せた。

 石塚教諭は、「会場で他のチームと交流できなかったのが残念でしたが、今後は活動を記録しながらSNSで情報を発信し、経験豊富なチームからアドバイスを得て、ゆくゆくは情報を提供する側になりたいと考えています」と抱負を語った。

 大会への出場も含め、外の世界を知ることは生徒の興味関心を一層刺激すると石塚教諭は考えている。生徒たちの将来の可能性も、こうしてものづくりを通して広がっていくのだろう。

 (文:山口俊成 写真:中学受験サポート)

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1682711 0 駒場東邦中学校・高等学校 2020/12/09 07:00:00 2020/12/09 07:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201207-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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