【特集】静寂の中で自分を見つめる座禅教室…鎌倉学園

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 建長寺の僧侶養成学校「宗学林」を前身とする鎌倉学園中学校・高等学校(神奈川県鎌倉市)は例年、隣接する同寺の協力を得て「座禅教室」を行っている。寺内の静寂な空間で座禅を組み、日常を離れた時間を過ごす中で、生徒たちは新鮮な緊張感を味わったり、さまざまな気付きを得たりするという。教育に座禅を取り入れる意義を聞くとともに、12月に行われた中1の座禅教室の様子を取材した。

「張り詰めた空気」の中で身じろぎせずに座る

教育に座禅を取り入れる意義について話す石澤理事
教育に座禅を取り入れる意義について話す石澤理事

 「座禅を経験すると分かりますが、ただ黙って座っている、それだけでも難しいものです。ただ、そこに生きることの基本があり、普段の暮らしもその延長線上にあります。生徒たちには、座禅を通して考え、感じ取ったことを、日々の勉強や部活にも生かして行ってほしい」。同校卒業生で学園の会計事務を担当する石澤 (たい)(じゅ) 理事は、同校で座禅を教える意義について、こう話す。

 同校の座禅教室は、例年6月、12月の年2回、隣接する建長寺で中1から高1までの4学年を対象に行われる。ただ、コロナ禍に見舞われた昨年は中1と高1のみに絞っての実施となり、取材に訪れた昨年12月14日は、中1生にとって初めての座禅教室だった。

 例年は1学年4クラスの全員が一室にそろって行うが、今回は感染防止に配慮し、時間を分けて建長寺の本堂にあたる「龍王殿」と客殿の「得月楼」を借りて、それぞれ1クラスずつ参禅した。

中1生が初めての座禅教室を体験した本堂「龍王殿」
中1生が初めての座禅教室を体験した本堂「龍王殿」

 この日の6時限目、中1生41人は、建長寺派宗務本院の永井宗明教学部長の指導を受けて、龍王殿で座禅を組んだ。次々と本堂に入ってきた生徒たちは、座禅用の長座布団を半分に折り、その上に整然と並んで座った。

 永井部長は生徒に自己紹介を行ったあと、「皆さんに座禅に取り組んでもらう意味は二つあります。一つは、自分自身を突き詰めて見つめ、自分を磨いてもらうこと。もう一つは、日本の大切な文化の一つとして座禅を知ってもらうことです」と、生徒たちに語りかけた。

 次いで、「座禅は慣れるほど難しくなります。来年、再来年と学年が上がってもこの張り詰めた感覚を維持できるか。それだけ心が養われているか。今回のこの空気を覚えておいてください」と心構えを話し、座り方や視線の位置、手の組み方、呼吸法、さらに修行者に集中を促すため肩を打つ 警策(けいさく) の受け方などを説明した。

 説明を終えると永井部長は、座禅の開始を告げる合図として「木版」と鐘を鳴らし、「 礼拝(らいはい) 」と発声して一礼。座禅が始まった。

 生徒たちは初めての体験ということもあってか、言葉を発することはもちろん、身じろぎしたり、周囲の音に反応したりといったこともほとんど見られなかった。永井部長が初めに話したように、「張り詰めた空気」の中で10分間が過ぎ、1回目の座禅が終了した。

20分間の座禅を通してさまざまな気付き

「龍王殿」内の静寂な空間で座禅を組む中1生たち
「龍王殿」内の静寂な空間で座禅を組む中1生たち

 1回目の座禅のあと、永井部長はいったん生徒たちに足を崩させ、穏やかな口調で10分間ほどの講話を行った。「座禅にも個人差があり、楽をしようと思えばいくらでもできる。反対に、自分を偽らず励むこともできる」「座禅は自分が今どんな状況にあるかを知る一つの手段。座っている間にさまざまなことが見えてくる。自分の得意、不得意に向かい合い、自分を高めるのが禅の心」「寒さを感じるため、あえてはだしで行ってもらっている。自分が普段当たり前と思っている環境が、どれだけ恵まれているか感じるでしょう。その環境を作ってくれた親を思い、命をまっとうできるようにしてください」など、話は座禅の仕方から人としての生き方にまでわたった。

 最後に永井部長は「今、できることを精いっぱいにやる。自分の心を奮い立たせるのは自分だけです。では、もう一度頑張りましょう」と告げると、2回目の座禅の合図をした。

 やがて永井部長が警策を手に生徒の間を回り始めると、十数人の生徒が「警策を受けたい」という意思表示のために合掌した。永井部長は立ち止まり、生徒に向かって合掌、一礼すると、両腕を抱えるようにして背を丸めた生徒の両肩を2回ずつたたいた。意外なほど大きな音が響き、その度に本堂の空気が張り詰めるようだった。それ以外は、開け放たれた扉から外の風の音や鳥の声などが聞こえるのみで、静かな時間が続いた。

 2回目の座禅も10分で終了。座に戻った永井部長は簡潔に「時間です。足の痛みが取れた人から片付けを行ってください」と生徒に告げた。生徒は使った座布団を元の位置に片付け、神妙な面持ちで言葉少なく本堂を後にした。

 参禅した川手政人君は「普段自分が当たり前のように感じている幸せ」という講話に触れて、「家ではエアコンをつけっぱなしにしていることが多い。これからは注意したい」と自分の暮らしを振り返った。中尾亮祐君は「体勢を維持するのが大変だった」とこぼしながらも、「心が晴れやかになった。今回経験した感覚や、心の安定を大切にしたい」と落ち着いた様子で話した。山口 (たい)() 君は、「座禅で何を得ることができたか、まだよく分からない」としながらも、「今後の力になりそうな感じ」と話した。また、勢村康平君は、寒さや足の痛みの中で「自分を制御する」ことに思いが至ったと言う。「勉強するべき時間につい漫画を読んでしまう。これからは座禅を思い出し、制御できるようになりたい」

禅宗の学校ならではの学びの機会

建長寺の協力を得て、「けんちん汁」づくりの調理実習を行う高1生たち
建長寺の協力を得て、「けんちん汁」づくりの調理実習を行う高1生たち

 自身も建長寺派の僧侶で、横浜市の悟心寺の代表役員でもある石澤理事は、生徒たちが座禅を組み、日常を離れた静寂な時間を過ごす中で、普段とは異なる気分や感覚を覚える様子をしばしば見てきたという。

 「今回も、あるクラスの担任が『普段はなかなか言うことを聞かない生徒が、見事に座っていた』と、感慨を口にしていました。私自身も生徒が『初めて雨の音を聞いた』『カラスがこんなにうるさいとは思わなかった』などと語り合うのを聞いたことがあります。こうした言葉を聞くとうれしくなります」

 もちろん、こうした感覚がそのまま座禅の上達に通じているわけではなく、永井部長が言ったように、学年を追うごとに慣れて緊張感が薄れることも多いという。そうなると僧侶の教えも徐々に厳しくなっていく。「学年が上になると、座禅の姿勢や体のどこに力を込めるかなど指導が細かくなり、難しくなります。落ち着かないと、僧侶が『動くな!』と一喝する場面もあります」

 石澤理事によると、そうした座禅の体験もまた、思い出として強く残るという。「成長した卒業生から多く聞かれるのは、『今なら、もう少し耐えられるかな』という気持ちです。大人になると忙しくなり、厳しい状況に見舞われることもたくさんあるでしょう。そうした日常の中で、静かに自分を見つめ直す方法を知っていることは、克服にも近い場所にいるということです」

 ちなみに、寒い時期によく口にする「けんちん汁」は、建長寺の僧が料理の残り物や有り合わせの野菜を利用して作ったことから、寺名がなまって料理名となったという説がある。同校は、高1の家庭科で建長寺と連携し、精進料理としてけんちん汁づくりの調理実習をしており、建長寺の僧侶が「自分の命は他者の命の犠牲の上にある」という教えを込めて作り方を教えるそうだ。

 「こうした他校にない学びの機会を提供できるのは、ありがたいことだと思っています。授業では学べない何かをこうした行事から学び取ってほしい」と、石澤理事は穏やかに語った。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:鎌倉学園中学校・高等学校)

 鎌倉学園中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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