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吉祥女子中学・高等学校(東京都武蔵野市)は、「自立した女性」を育成することを目的としてクラブ活動に力を入れている。クラブの人間関係の中で、リーダーシップやフォロワーシップ、問題解決能力や協働力を身に付けさせたい考えだ。近年、人気の高い自己表現系のクラブから「英語クラブ」に焦点を当てて、新入生歓迎公演の様子などを紹介する。
自己表現するクラブ活動の人気が上昇中

「本校の建学の精神は、『社会に貢献する自立した女性の育成』です。しかし、誰でも自立した人間に突然なれるわけではありません。そのため、クラブ活動を生徒の成長の場として大切にしています」と広報部長の綾部香教諭は話す。
同校には運動系クラブが13、文化系クラブが19ある。弓道クラブはインターハイに出場し、出版部は東京都高等学校新聞コンクールで4年連続で優秀賞を受賞するなど、盛んなクラブ活動は同校の特色の一つになっている。
その中で近年、人気が上昇しているのはダンスや演劇、音楽を通して自己表現をするクラブで、わけても英語でミュージカルを行う「英語クラブ」は人気が高いという。「英語クラブ」は生徒の人気だけでなく、文化祭の来校者の評価も高く、学校開催のオープンキャンパスや、他校で行われる女子校フェスタでも、パフォーマンスを行うなど、校内外で注目が集まっている。
「ダンスも歌も演劇もあり、それを英語で行うハードルの高い活動ですが、難しいことに仲間と一緒にチャレンジして、その集大成となる舞台上のパフォーマンスで、大喝采を浴びたとき、生徒たちはこの上ない充実感や達成感を得ることができると思います」と綾部教諭は話す。「そうした経験の中で、生徒たちは、やればできるという思いを醸成していきます。この積み重ねが、生徒たちの成長を後押ししていくのです」
同校は、4月の中旬から下旬にかけて、各クラブが新入生の勧誘のため、新入生歓迎公演や新入生歓迎演奏会などを連日のように行っている。この新入生歓迎公演は、文化祭公演と並んで多くの部にとって成果を発表する大事な場となっており、英語クラブも、新歓公演に向けて、日々練習を積んできた。
50分間の英語ミュージカルで会場を魅了

取材に訪れたのは英語クラブの新入生歓迎公演が行われた4月25日。校内にある「吉祥ホール」は新入生や同級生、駆けつけた卒業生も交じって満員となり、熱気で
「楽しむ準備はできてますか」
「ハイッ」
「楽しませる準備はできてますか」
「ハイッ」
「We have passion!」
幕が上がり、会場が歓声に包まれる。英語ミュージカル「アニー」の上演スタートだ。約50分間、セリフも歌もすべて
主役のアニーを演じた杉田真彩さん(高1)は、今回のアニー役に強い思い入れを持って臨んでいた。「中1の時に入部したきっかけは、新入生歓迎公演の『アニー』を見たことでした。みんなキラキラ輝いていて、自分もいつか演じたいと思っていました」。もともとは舞台で注目を浴びたいというような性格ではなかったが、入部してから徐々にポジティブな性格に変わったという。
「ステージが始まる前までは不安でいっぱいでしたが、終わってみると、カーテンコールでたくさんの歓声をいただき、人生で二度とないような体験ができました」
部長の山崎穂乃香さん(高2)は、「この新歓公演は高1がメインのキャストを演じ、私たち高2はサポート役となって、昨年12月から練習してきました」と話す。
昨秋、先輩が引退して山崎さんが部長を引き継いだばかりの頃は、部員と気持ちのすれ違いがあって、つらいこともあったという。「部長の立場に立つまでは分からなかったことも多くあり、壁にぶつかりました。けれども、みんなで話し合いを重ね、ときには泣いて思いをぶつけ合う中で、乗り越えることができました」と振り返る。
今回の公演でエキストラグループのリーダーを務めた副部長の福田有里さん(高2)も、「部員全員の心を一つにすることが大変でした。一つにまとまらないと、歌も演技もよいものにはならないのです」と苦心を話した。
この日、最後のカーテンコールではグループのみんなと抱き合って喜んだという。「グループリーダーとして自信がなかったのですが、やってよかったと思いました。苦しいこと、楽しいこと、いろいろなことがありましたが、私の青春は英語クラブがなければ灰色だったと思うくらい、大切な思い出になりました」
自分の頭で考え、責任を持って行動する経験の重要性

顧問の清水敬子教諭によると、顧問に就任した2007年当時は10人くらいのクラブだったという。それが、歴代の部員たちの頑張りで上演作品が評判を呼び、徐々に部員が増えて現在では50人を超える人気クラブになった。
「英語クラブの上演作品は、ダンスの構成から演出まですべて生徒によるものです。私が口出ししたのは下校時刻くらいですね」と清水教諭は
清水教諭は、生徒たちがクラブ活動を通して成長してきたことを実感している。「叱られることが多かった子がみんなから頼られるような生徒になったり、おとなしくて受け身だった子が目をキラキラさせて熱意を伝えてくれるようになったり、みんな大きく成長しました。また、先輩として、なるべく多くの後輩が出演できるようにエキストラを多く設定するなど、突っ走るのではなく、全体を見てリーダーシップを取れるようにもなっています。頼もしいですね」
クラブ活動の意義について綾部教諭はこう考える。「本校には『言葉と行動に責任を持ちましょう』という校是があります。感受性の鋭い10代のうちに、自分の頭で考え、自分で責任を持って行動する経験を積み重ねることが大切です。生徒たちはクラブ活動の中で、たくさんの失敗と、その失敗の乗り越え方を経験するでしょう。また、他者への配慮がなければ物事はうまく進まないことも経験し、感謝の気持ちが自然に芽生えます。それらの経験の中で身に付けたリーダーシップやフォロワーシップ、さらに問題解決能力や協働力こそ、社会に出たときに必要な力になると考えています」
机上では学べないものがある。10代でなければ身に付かないものがある。クラブ活動を含めた、吉祥女子でのすべての経験が、彼女たちを自立した人間に育てる栄養になる。
(文・写真:小山美香)
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