【特集】生徒の可能性を開き、人間性を高める芸術科授業…跡見

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 跡見学園中学校高等学校(東京都文京区)は、創立者以来の伝統として芸術科教育を重視している。「目と手と心」を働かせることで、美意識を持った女性を育成するという教育方針を体現した授業であるといい、中学では必修、高校でも履修によっては高3まで選択することができる。美術と工芸を中心に、授業の特色などを聞くとともに、芸術科教育に対する生徒、卒業生の受け止め方を紹介する。

創立者以来受け継がれる芸術教育の伝統

生徒の作品を背に、芸術科教育について語る川橋教諭
生徒の作品を背に、芸術科教育について語る川橋教諭

 同校の創立者・跡見花蹊は、書道家、日本画家としても活躍した人物だ。美術科担当の成清 美朝(みさ) 教諭によると、女子教育の面でも、単なる知識の習得を超えて芸術を学ばせることを重んじたといい、「その人の趣味を高尚にし、俗気を離れしむることに最も善い」(「跡見花蹊 女子教育の先駆者」から)などと書き残している。

 「この考え方は今も、本校の『目と手と心を働かせ、思う人から考える人へ』『確かな美意識を持ち、常に自分らしくしなやかに生きる女性』という教育理念に生きています」と、成清教諭は説明する。「『目』は、本物を見抜き、選び取る判断力。『手』は、何かを人に伝えるコンテンツを創り出す力。『心』は、そうした『目』と『手』をコントロールする力。この三つの力を育てることが、美意識を持つ自立した女性への成長につながると本校では考えています」

 「目・手・心」を育てる教育方針は、理科授業の実験や家庭科授業の洋裁、また古典芸能鑑賞や裁判傍聴といった校外授業のプログラムにも生かされているが、同校の伝統である芸術科の授業では、まさにそれが実現されている。

 芸術科では美術、工芸、音楽、書道の各教科に専任教員を1人ずつ充て、非常勤講師も各教科1、2人を確保している。また、高校の教科選択に応じて高2、高3でも週2時間受講でき、希望により芸術系大学入試向けの個別指導も行う。芸術科主任で工芸科担当の川橋もえ教諭は、「私はこれまでにいくつかの中高に勤めましたが、これほど充実した教育環境は珍しいです」と言う。

多彩な制作体験を通して美意識を育む

「消費者」を意識して制作した架空の商品パッケージデザイン
「消費者」を意識して制作した架空の商品パッケージデザイン

 中学校では、音楽と美術を合わせて3単位の必修授業が設定されている。このうち美術では、さまざまなジャンルや素材の作品に一つ一つ時間をかけて取り組み、制作の手順や基本技法を学ぶ。

 中1で取り組む作品の一つに木製の鍋敷きがある。片面に幾何学模様を彫刻し、もう片面はモザイクタイルで装飾する。中2では、小型の 屏風(びょうぶ) に割り箸のペンで描く墨絵着彩画や、張り子のランプシェード制作を行う。中3の前期はパッケージデザインに取り組む。今年度は「お菓子」をテーマに架空の商品を企画し、「消費者」を意識したデザイン画を描いた。後期は寄せ木細工のペーパーナイフを制作する。さまざまな色の木材を組み合わせ、やすりで削り出していく。

 中学で最後に取り組む制作は、石こう粘土による人体塑像だ。「私の学園生活」と題し、自分の学校での一コマを捉えた像を作る。「手足が棒のようにならないよう、人体解剖図を資料とし、自分でポーズをとるなどして、躍動感のある人体を作ります」と川橋教諭は話す。

 高校では、高1で2単位、高2・高3では文系コースのみ2単位の芸術科を選択できる。内容は、音楽、美術、工芸、書道に分かれ、さらに専門的な技法を学んでいく。

 このうち「工芸」では、用と美をテーマに生活を豊かにする作品を作る中で、創造性や思考力を鍛える。高1ではシルクスクリーンで動植物の繰り返し模様を描いた手拭い作り、高2では機織り機を使って毛糸のマフラー作りに取り組む。近年は木工丸彫りによる果物入れや陶芸による日常使いの食器、樹脂流し込み成形によるソープディッシュ作りなどにも取り組んでいる。

 川橋教諭は「力を使う作業も多く、夢中で汗だくの時間です」と授業の様子を話す。「失敗しても、その都度一所懸命に取り組む。その経験が後々生きてくるはずです。生徒はいつも真剣です。休み時間になってもやめないくらいです。自分の体と専門の道具を使い、物を作ることを求めています。最後まで粘り強く向き合った作品にとても愛着を感じていることが伝わります」

 「美術」では、絵画を中心に専門技法を系統立てて学んでいく。高1では鉛筆デッサンや油絵による静物画に取り組む。また、探究的学習として、古今のクリエイターから1人取り上げ、「私が考える美」というテーマでプレゼンテーションも行う。成清教諭は「学校の理念である『美意識を持つ』を実践する学習です」と説明する。

 高2では本式の技法で日本画や銅版画に取り組むほか、粘土などの簡単な素材とiPadアプリを使ってコマ撮りアニメーションにも取り組む。高3では、5年間で学んだ内容から一つを選び、卒業制作に取り組む。現在の高3生は250人中51人が芸術科を選択しており、「工芸」選択者16人はステンドグラスのランプシェードや皮工芸のブックカバー、「美術」選択者10人は、銅版画、油絵、コマ撮りアニメーション、「音楽」選択者20人はスタジオを借りてのCD制作、書道選択者5人は跡見流で扇子や色紙に短歌などを書いた作品に取り組んでいる。

創作の中で知らなかった自分を発見する

大きな窓が特徴的な美術室
大きな窓が特徴的な美術室

 美術を選択している現高3の生徒は、芸術の授業で、中1の鍋敷き制作が一番印象深かったという。「小学校での図画・工作では身近な材料とハサミやノリなどを使って切ったり貼ったりという作業が多かったですが、この授業は彫刻刀を使って木を彫ったり、ロウを擦り込んだりする本格的なもので、『美術』を学ぶというのは、こういうことなのかと衝撃を受けました」。また、授業を通して自分が受けた変化について「小学校までは、自分が楽しめればいいと思っていましたが、自分の思いを人に見せるということを考えるようになり、どのようなコンセプトでいこうか、など作品について深く考えるようになりました」と話した。

 現在、東北芸術工科大学芸術学部美術科に通う卒業生は、跡見時代の芸術教育の特徴を、「作家の名前を暗記させるような教育を行わず、生徒にのびのび作品を作らせることに注力されています」と話す。「制作がメインの授業内容の中で、生徒が作りたいと思ったものを教師が聞き、それを否定せず、実現の手助けをしてくださいました」

 その学びは大学に進んだ今も役に立っているという。現在は、彫刻を専攻しているが、跡見で芸術教育を受けるまでは「立体作品を作ることに苦手意識がありました」と言う。「授業の中で先生方から、『いいね!』『すごい!』などポジティブな意見を私の作品に対していただいたことで、作品のことだけではなく、自分自身に自信を持つ事ができたと感じています」

 川橋教諭は、授業を通して生徒の可能性の 萌芽(ほうが) を見るのが楽しみだという。「女子は創作に関して、意外と大胆な面を持っています。こちらが提示したサンプルや当初の想定を超えようとする生徒も毎年必ずいる。そうした様子を見るのは、教師として至福です」

 成清教諭は、人格教育の側面も強調する。「取り組む課題は、誰もが得意とは限りません。でも、必ず全員完成させるのが基本。チャレンジ精神や根気を育てるだけでなく、人にはそれぞれ得意と不得意があるという自他の理解から、多様性への意識にもつながります。私たちの授業が、将来壁に突き当たった時の励みになることを願っています」

 学校説明会でも芸術科の授業は人気があり、本格的な画材や陶芸のろくろ、窯などをそろえた設備の充実ぶりを見て「やってみたい」と受験を志す小学生も多いという。同校には、そうした好奇心や期待に十分応えつつ、質の高い授業を行う環境が整っている。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート)

 跡見学園中学校高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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