【特集】学びの「型」と生徒との「つながり」が自主性を養う…城北
完了しました
城北中学校・高等学校(東京都板橋区)は、生徒の自主性を引き出す教育を重んじている。そのために教員たちが心がけていることは学びの「型」を教えることと、生徒との「つながり」を深めることだという。夏休みの自由研究からコロナ禍への対応まで、学校生活のさまざまな場面に浸透している自主性の教育について、若手の教員3人と生徒に話を聞いた。
中1、中2で自主性を伸ばすことに注力

同校は「着実・勤勉・自主」を校訓としている。中2国語科担当の坂本
そこで生徒の「自主」を引き出すために教員たちが重要視しているのが学びの「型」だという。
「入学間もない生徒を見ていると、宿題はちゃんとやるが、それ以上のことをやらない。目先の勉強以外の領域になかなか関心を持たない。しかし、彼らは意欲がないのではなく、何をすればよいのかが分からないだけ。その『型』を教えることが必要なんです」と中1国語科担当の橘和久教諭は話す。「例えば作文を書く場合、最初から『自由に書きなさい』では混乱します。テーマの設定や文の組み立て方には、人に伝えるための『型』がある。それを身に付ければ、ゆくゆくは大学入試の自己推薦文にも対応できます」
中1担当の竹村英紀教諭も理科を教える立場から「型」の必要性を語る。「実験は危険が伴うこともあるため、やってよいこと、いけないことをしっかり教えます。実験リポートの書き方も、実験内容から、目的・原理・手法・器具など、大学でも通用する『型』を教えます。『型』が身に付けば自信が生まれ、自分なりの方法へ発展させることもできます」
「自主」を育むカギとして、教員たちが「型」と並んで重視しているものがある。それは「生徒と学校のつながり」だという。
竹村教諭は、「思ったことを実行に移すには、『やっていいんだ』と思える環境が必要です。学校の場合、教員との信頼関係がそれに当たります。日頃の雑談や面談を通して生徒の気持ちを知り、やりたいことを応援し、踏み出すためのアドバイスを与えるのです」と話す。
4年程前の文化祭で高1のある生徒たちが、VR(バーチャルリアリティー=仮想現実)による出し物を企画したという。当時はVR機材が非常に高価だったため、生徒たちは簡便な方法としてスマートフォンを利用する方法を考えた。ただ、携帯電話の校内持ち込みは校則で禁止されていたため、生徒たちは、教頭先生にプレゼンテーションを行い、開催日・会場内限定でスマートフォンを使用する特別許可を得て、無事実現にこぎつけたそうだ。
「これは『つながり』があるから実現できたことです。ハードルがあると分かっていても、まず彼らの言い分を受け止める。そして、実現のための条件やステップを整理する手助けをします。この場合、本格機材は予算的に難しい。スマホ方式なら、管理職に持ち込み許可をもらえば出来るかもしれない。やり方が分かれば、あとは生徒次第です」
橘教諭も、担当している中1のクラスのエピソードを挙げた。「7月のコロナ休校明けに、生徒が『クラス親睦のためにそうめん流しをやりたい』と言い出しました。冗談混じりだったかもしれませんが、『実施には何が必要かを話し合い、具体的に考えてみなさい』と話しました。実現はしませんでしたが、こうした小さな自主性をバックアップするのが本校教員の姿勢です」
自主的に取り組む夏休みの自由研究

中1、中2の夏休みの自由研究も、生徒の自主性を鍛える取り組みの一つだ。1人1テーマの必須課題で、休み明けには校内で発表する。内容は理科教員が審査し、優秀作は校外のコンクールにも出品される。
中2の森
学校は、夏休みに「自由研究相談会」を行って生徒たちをサポートする。理科実験室に資料本や過去の作品集をそろえ、理科教員が常駐して生徒の相談に乗る。
「相談会」に来た森君の様子について、当時担任だった竹村教諭は、「研究の動機と内容が明確だった彼には、たった一つアドバイスをするだけで十分でした。『津波を一定の勢いで起こす仕掛けが必要』と伝え、過去の研究作品から模型の例を紹介しました。あとは本人が自分で工夫しながら実験を行い、リポートにまとめてきました」
竹村教諭は、森君がプレゼンテーション資料を作成する際に「型」のアドバイスもしたという。森君は、「この指導のおかげで自分は一歩成長できました」と話す。「スライドで大勢の人に説明するので、一目で分かるように図を使うとか、短い言葉で文字を大きく使って読ませるなど、うまく伝える方法を教わりました。この方法は総合学習や物理の授業でも活用していて、発表に自信が付いて意欲も持てるようになりました」
また、森君は、日頃から先生たちとよく話をするという。「疑問があれば、休み時間などいつでも先生が答えてくれます。関連の問題も出してくれて本当に理解できるまで手伝ってくれるので、以前なら『分からないけどまあ、いいや』で済ましたようなことも分かるまで考えるようになりました」。教員たちとの「つながり」も、さまざまな場面で生徒の自主性を育んでいるのだ。
コロナ休校下でも「つながり」を工夫

同校はコロナ対策として4、5月を完全自宅学習とした。6月も分散登校にとどめ、プリント配布や授業動画の配信、オンラインによるライブ授業などを行った。その際、中1、中2では、オンライン・ホームルームで「つながり」を作ることを重視した。特に中1は全員が初対面のため、5、6人の少人数に分かれたホームルームで、緊張を解くゲームを行ったり、「自己紹介カード」を各自作らせて学級通信で紹介したりするなど、多くの工夫を行った。
また、生徒が気軽に質問できる環境を遠隔でも実現するため、同校で採用している学習支援ツール「Google Classroom」による連絡システムのほかに、日中、教員に直接相談できる連絡先も通知した。
コロナ休校の経験を通して、坂本教諭は「普段の『つながり』がいかに重要かを再認識した」と話す。「今後オンライン教育は増えていくでしょうが、個々の生徒をしっかり見て、意欲を高める取り組みが必要です。特に低学年は『この先生、この仲間だから頑張れる』という気持ちがあります。自主性につながる大事な原動力です」
竹村教諭、橘教諭はともに「学校行事や部活も、『つながり』を作り、自主性を育てる大事な機会ですが、1学期はほとんど実施できませんでした。今後、代替案を含め、対策を考えていきます」と、心構えを新たにする。
「新しい生活様式」の必要が叫ばれる今日、教育現場にも困難が続くが、教員たちの熱意と工夫があれば、生徒の自主性を伸ばす同校の教育が揺らぐことはないだろう。
(文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:城北中学校・高等学校)
城北中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら。