【特集】生徒と共につくり上げる高校の新たな「探究」授業…鶴見大附

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 鶴見大学附属中学校・高等学校(横浜市)は、来年度から高校で実施される「総合的な探究の時間」に向けて、中学から探究型授業の取り組みを続けている。昨年は、有志中高生で課題解決型学習(PBL)に取り組むプロジェクトチームを発足させ、その活動から見えてくる課題などを本番の授業に生かす試みも始まった。担当教員にその狙いなどを聞くとともに、昨年11月12日、中3特進クラスで行われた公民の探究型授業を見てきた。

「日本の領土問題」テーマに中3で探究型授業

社会科の探究型授業を進めている柳原教諭
社会科の探究型授業を進めている柳原教諭

 「あと10分で発表してもらいます。はい、スタート」。社会科の柳原一貴教諭が合図をすると、授業が行われている中3特進クラスの黒板上に映し出されたプロジェクターの数字が、残り時間のカウントダウンを始めた。この日のテーマは「日本の領土問題」で、3、4人ずつ7班に分かれた生徒たちは「なぜ解決しないのか」や「私たちにできることや提言」について話し合いを始めた。

 このクラスでは、公民の単元「国際社会」の中で「日本の領土問題」に焦点を当て、探究型授業を進めてきた。北方領土や尖閣諸島、竹島を巡り、隣国との対立が続く歴史などについて授業を重ね、6回目となるこの日はグループ討論や発表に取り組んだ。

 「領土問題は政府が努力しても解決できないシリアスなテーマ。それをあえて取り上げ、解決へのプロセスを生徒たちに考えさせたい。授業での制限時間内にまとめることは、大学受験にも役立ちます」と柳原教諭は話す。

 この探究型授業では、生徒たちが考えを整理しやすいように、ベン図や座標軸などの図表を使った「思考ツール」というシートを使っている。「順序立てる」「理由づける」「多面的に見る」など目的別に10種類のシートが用意され、生徒たちはそれらに知識や意見を書き込み、グループごとにまとめて発表していった。

 授業後に生徒から感想を聞くと、山口優菜さんは「領土問題はなじみがありませんでしたが、先生が考え方や話し合い方をアドバイスしてくれて、理解を深められました」と言い、安井春香さんは「歴史や公民は単なる暗記科目ではなくて、一つの言葉から理由などを関連付ける面白さがあることを知りました」と話した。

生徒のプロジェクトチームによる学びを新授業に取り込む

残り時間がカウントダウンされるなか、班別にグループ討論をする生徒たち
残り時間がカウントダウンされるなか、班別にグループ討論をする生徒たち

 新学習指導要領が実施される2022年度から、高校では新しい科目「総合的な探究の時間」がスタートする。同校ではそれに先駆けて16年に探究型教育研究グループを発足させ、国語、数学、社会、理科、英語の5教科の教員が新しい授業の形を試みてきた。

 柳原教諭も「総合的な探究の時間」を経験する最初の学年である現中3生が中1の時から、社会科で探究型授業を取り入れてきた。中1では地理で「SDGs(持続可能な開発目標)の優先順位」、中2の歴史では「江戸時代のエコ社会」をテーマに学びを深めた。中3を対象とするこの日の授業もその一つだ。

 現中3が大学受験を迎える3年後、入試問題でも探究的なものの見方が重視されると見られている。それを踏まえて柳原教諭は「知識を積み上げ、それを土台に思考力や表現力を伸ばしていく。常に『なぜ』『どうして』と問いかけ、いろいろな視点から見ることができる生徒を育てることが大切です」と、授業の方針を語る。

 昨年4月には「探究科」準備チームが発足し、同チーム主任で理科担当の宮川真理子教諭と柳原教諭の2人がメンバーとなった。来年度からの「総合的な探究の時間」をどう展開するべきかを巡って手探りするなか、「生徒とともに授業をつくっていく」という方針が決まり、中3と高1の有志生徒によるプロジェクトチームで、PBLに実験的に取り組んでもらうというアイデアが浮かんだ。このプロジェクトチームの活動を通して見えてくる問題点や生徒の意見を、来年度からの高校の新授業につなげていこうという狙いだ。

 昨年7月、宮川教諭が、朝礼に集まった中3と高1の生徒に、「今学んでいることを、社会に生かしたい人はいませんか」とプロジェクトへの参加を呼びかけると、約20人の生徒が手を挙げた。それぞれに企画書を出してもらい、これを基に選出した14人を4グループに分けてPBLへの取り組みが始まった。

 昨年10月、出版3社が来校して「総合的な探究の時間」の副教材に関するプレゼンテーションをした際は、プロジェクトチームの生徒たちも同席し、質疑応答をして感想をまとめた。「新しい授業のカリキュラムやテーマ設定、副教材選びにも生徒たちにかかわってもらいたいからです」と宮川教諭は話す。

仏教の教え生かし、異文化交流や孤立した児童の支援

「探究科」準備チームの主任を務める宮川教諭
「探究科」準備チームの主任を務める宮川教諭

 同校は曹洞宗大本山の総持寺(横浜市)を設立母体としている。「 (だい)(がく)(えん)(じょう)  報恩 (ぎょう)() 」という建学の精神には、感謝の念を忘れず、それを行動に移して世の役に立つという教えが込められているという。

 宮川教諭によると、探究型の学習の方針にも、この精神は反映されている。「各教科でインプットしてきた知識をつなぎ合わせ、社会に役立てる体験を通して、アウトプットする。そんな学びの場をつくりたい。地域とのつながりやグループでの学びを通して、助け合うことの大切さ、帰属意識、自己肯定感も育んでほしいのです」と宮川教諭は話す。

 実際、プロジェクトチームの中で、「異文化交流の場づくり」をテーマに学びを深めてきたグループは、地元の横浜市鶴見区には、南米やアジアなどから来日した外国人が多く住み、日本語に困っている子供も少なくないことを知った。その現状を調べながら、海外の文化に関心のある日本の児童らを集めて、互いに触れ合う場づくりに挑むという。

 また、別のグループは、コロナ禍で行動が制限されるなか、孤立した小学生が増えていることに着目した。その解決策として生徒たちは、自らが放課後、サポーターとして近隣の小学校に出向き、遊び相手や学習支援などに取り組む計画を進めている。

 プロジェクトチームの生徒たちは今、3月に予定している学習成果の発表を目指して頑張っているところだ。宮川教諭は、これらの活動を通してプロジェクトチームが出してきた成果を喜ぶ一方、「生徒たちが情報収集の際、インターネットに頼り過ぎであることが分かってきました」などの問題点も指摘する。

 新聞など他のメディアや図書館を活用する必要など、見えてきた課題を踏まえて、22年度はまず、「総合的な探究の時間」を高1のみで実施する。23年度以降は高1と高2に対象を広げ、高1では「学び方を学ぶ」を目標に、情報収集や論理的まとめ方、発表方法などを学習し、高2では「自立して学ぶ」を目標に、テーマを決めて調べ、地域とも連携して活動し、発表する予定だという。

 中1の時から社会の探究型授業を受けてきた中3の渋谷 陸公(りく) 君は、「日本の領土問題では、将来の解決策をみんなで考えたりして楽しかった。授業を通して、中国船の領海侵入などのニュースにも関心が強まりました」と話した。

 世界の課題に目を向け、学校での学びを社会に生かす、教師と生徒が手をつないで進める探究の学びは、これから大きく羽ばたいていく。

 (文・写真:武中英夫)

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2685772 0 鶴見大学附属中学校・高等学校 2022/01/25 05:01:00 2022/01/28 10:32:43 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220119-OYT8I50011-T.jpg?type=thumbnail

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