生徒たちを一変させる「未来授業デザイン」…新渡戸文化

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 新渡戸稲造を創立者とする新渡戸文化中学校・高等学校(東京都中野区)は、2027年の創立100周年に向けて、教育改革に取り組んでいる。この4月からは、気鋭の教師3人を招き、偏差値ではなく生徒の幸福値に主軸を置いた新しい授業「未来授業デザイン」を実施中だ。この授業の狙い、独特の指導方法などを実際の教室から紹介する。

理科・英語とSDGsを掛け合わせた授業をタッグで

創立100周年に向け、教育改革に挑む新渡戸文化中学校・高等学校
創立100周年に向け、教育改革に挑む新渡戸文化中学校・高等学校

 「未来授業デザイン」は毎週水曜日、中学1年生を対象に行われている。内容は、英語と理科の2教科と、2015年の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」の学びを掛け合わせたものだ。英語科の山本崇雄(たかお)教諭と、理科の山藤旅聞(さんとうりょぶん)教諭がタッグを組んでこの授業にあたっている。

 山藤教諭は、早くも16年からSDGsを専門の生物の授業に取り入れ、全国の学校で出前授業したり、企業で講演したりして精力的に普及活動をしている。山本教諭は、「『教えない授業』の始め方」(アルク)などの著作があり、SDGsをテーマとして独自の英語アクティブラーニングを実践している。「未来授業デザイン」は2人の経験や指導方法を融合させたものだ。

 「未来授業デザイン」が行われていた5月8日、取材のため教室に入ると山藤教諭が生徒たちに話しかけていた。「前の授業でチョコを二つ食べたよね。どっちが美味(おい)しかったかな。何が使われているんだっけ」

 「どっちも美味しかった!」「片方はヤシ油が使われてたよ」「チョコがしまってあるの知ってるよ。また食べようよ」。生徒たちの声が活発に返ってくる。

 ある生徒が思い出したように話し出す。「この前見た映像では、油ヤシを植えるために森が伐採されて、ゾウが住めなくなった。ゾウが殺されてかわいそう」「ゾウは森で生きているのに、チョコのために森がなくなっちゃうから、ゾウが困っちゃう」  

 そこで、山藤教諭が生態ピラミッドの図を出す。「これ、見たことあるかな」

 「ある。人間もヤシ油を食べるからゾウと同じ1次消費者なのに、人間が1次生産者(植物)を占領してる」「それ、人間の勝手だよね」「でも、誰かが犠牲にならなきゃいけないんじゃない」

 「確かに、自然選択という現象もあるよね。この問題、解決できるかな」と山藤教諭が投げかける。

 生徒の発言が、どんどん活発になる。「このピラミッド、人間が一番上だけど、下の方を壊していったら、いつかは上にいる人間も崩れちゃうんじゃない」「今の話を、世の中に広げたほうがいいよね」「動画を撮って、インターネットに上げたら、みんな見るかも」「先生、街の人に、どう思うかインタビューしてまとめるのはどう」

 山藤教諭が議論の流れを導く。「めちゃめちゃいいと思います。『SDGsアイデアブック』を見てみようか。それは12番の目標『つくる責任、つかう責任』に行きつくよね。この本には、目標に対して大人たちがどんなアクションを起こしているか書いてあるよ」

「教えない」授業が、生徒自ら学ぶ姿勢を育てる

(左から)教育改革に取り組む山本教諭、小倉教諭、山藤教諭
(左から)教育改革に取り組む山本教諭、小倉教諭、山藤教諭

 教師はヒントを出しても、決して答えを出さない。生徒が自ら学びたくなるように、会話を通して意欲を引き出していくのだ。

 ただ、すべての生徒が一様に積極的に授業に臨めるわけではない。この日の授業でも、黙ったままの生徒はいた。様子を見ていた山本教諭はその生徒の(そば)に寄っていって、励ました。「さっき言ってたこと、みんなに言ってみたらどうかな。そうか、じゃあ先生が代わりに言おうか」

 こういう場合、励ますけれども、無理強いはしないという。「〇〇君は一生懸命考えたけど、アイデアが出ないので、次の授業までに考えてくるそうです。先生はそれでいいと思います」

 山本教諭に意図を聞くと「全員発表するのが平等とは限りません。ある子は発表できる時期に達していても、ある子は達していない。それぞれのスピードを尊重して待つことが大事です。遠回りに見えても、それがその子にとって本当の学ぶべき時期なのです」と語った。

 都立高の校長などを歴任し、4月から中学教務主任に就任した小倉良之教諭は、この新しい授業のとりまとめ役だ。小倉教諭がこの授業の狙いを説明する。「今の世の中の学習は、いい大学に入るためだけのものになってしまっています。本来、いい大学に入ることは、生徒が幸せになるための手段の一つでしかないのに、手段が目的化してしまっています。基本に立ち返って、生徒の本当の幸せを考えた授業をしたいと考えました」

 山本教諭は、「そうした授業を実現するために大事なのは『教えないこと』です」という。「例えば、目的もないのに『This is a pen』を覚えろと言われても、やるのは1割か2割の生徒でしょう。教師が敷いたレールに乗ることに違和感を持たない生徒のほうが心配です。『海外の人と話をしたい』というモチベーションがあれば、自己紹介はどうしたらいいかなど、自分から進んで調べていきます。教えないで待つ。これによって、生徒の疑問や好奇心が育ちます。何を学ぶか、どう学ぶか、自分で決めるからこそ、責任を持ってやり遂げるのです」

 生徒たちの学習意欲を引き出す「未来授業デザイン」は、文字通りのアクティブラーニングと言えそうだ。

生徒たちの変化に保護者たちも驚きの声

会話を通して、生徒の学ぶ意欲を引き出す
会話を通して、生徒の学ぶ意欲を引き出す

 2週間後の5月22日、再び「未来授業デザイン」の教室を訪れた。この日は、スクリーンにスウェーデンの16歳の環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんの演説の動画が映し出されていた。

 山藤教諭が生徒たちに話しかける。「グレタさんが考えていること、みんなが言ってることと同じだよね」「グレタさん、すごいね。マララ・ユスフザイさんも知ってるかな。同じ世代が行動しているんだね。みんなもできるかもしれない。何がしたいか、考えていこう」

 すると、生徒からあふれるようにやりたいことが挙がった。「ペットの殺処分について知りたい」「途上国の給食支援について知りたい」「海外の子供の支援について取材したい」「未来を変える目標を考えたい」「世界とコミュニケーションしたい」「たくさん失敗しても立ち上がっていきたい」

 「チョコを食べようよ」とねだっていた生徒も、「私は、地球の未来についてどう考えているか大人にインタビューしてきました」と発言していた。みんな2週間前とは表情も話し方も違う。

 この授業の効果に一番驚いているのは生徒たちの保護者かもしれない。林徹校長は、「『家で授業の話をするようになった』とか『笑顔が増えた』とかいう保護者の喜びの声をたくさん聞いています」と話す。授業参観に来た保護者から、「信じられない、あの子が人前で発言するなんて」という驚きの声が上がったこともあるという。

 たった2週間で子供たちが見せた変化は、予想を大きく超えていた。「予定調和はありません」と山本教諭も話す。この新しい授業から今後どんな変化が生まれるのか、目が離せないと感じた。

 (文・写真:小山美香)

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648407 0 新渡戸文化中学校・高等学校 2019/06/24 05:22:00 2019/06/26 10:17:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190620-OYT8I50035-T.jpg?type=thumbnail

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