生徒が自ら動き出す「社会につながる学び」…新渡戸文化

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 新渡戸文化中学校・高等学校(東京都中野区)は今年度、英語と理科にSDGs(持続可能な開発目標)の学びを掛け合わせた新しい授業「未来授業デザイン」をスタートさせた。「教えないこと」などの特色を持つこの授業が作られた背景や、生徒たちがどう受け止めているかを、授業を牽引(けんいん)する3人の教諭に聞いた。

生徒が幸せになるための授業

「教えないでやる気が育つのを待つ」と話す山本教諭
「教えないでやる気が育つのを待つ」と話す山本教諭

 「未来授業デザイン」は、2027年の創立100周年に向けて同校が取り組んでいる教育改革の目玉だ。この授業を実現するために今年度、同校は元・都立高校校長の小倉良之教諭、英語科の山本崇雄(たかお)教諭、理科の山藤(さんとう)旅聞(りょぶん)教諭の3人を招聘(しょうへい)した。

 山本教諭は、「『教えない授業』が学力を伸ばす」と提唱し、英語のアクティブラーニング授業を実践してきたことで、全国の教育関係者から注目を集める存在だ。

 「教えない授業のきっかけは東日本大震災です。同僚だった山藤先生と一緒に被災地に行き、ショックを受けました。被災から力強く立ち上がる子供たちを見て、ゼロから自分で学べる生徒を育てなくてはと痛感したのです」

 同時に、ケンブリッジ大学で英語教授法の研修に参加した際、自身の行った模擬授業について「あなたは教え過ぎている。それでは子供は失敗できない」と指摘された経験が被災地での思いに重なった。「教えるのではなく、生徒が自ら学びたいと思う授業にしなければならない」と確信したという。

 SDGsを理科の授業に取り入れて、今も全国で出前授業を行っている山藤教諭も、同じ思いを持っていた。10年前にJICA(国際協力機構)の研修でブータンを訪れたとき、「子供たちがとても熱心に勉強していて、『国が幸せになるために学んでいる』と言うんです。誰も『いい大学に入りたいから』なんて言わない。衝撃を受けました。日本の子供も、なぜ学ぶのか、自ら語ることができるようにしなくては、と決心したのです」

 それまで心がけてきた「分かりやすくて面白い授業」は生徒を受け身にするだけだと感じてやめ、生徒がフィールドワークで自ら学ぶ授業を始めた。フィールドは山や川から社会全体まで広がっていき、企業やNPOからも学ぶようになった。その流れで2016年からはSDGsを学びに取り入れるようになった。

 「学校の学びと社会がシームレスにつながる、地球全体や世界の人たちのために、良い社会を作ろう、と真面目に言える学びです。これこそ子供たちが求めていたものだと感じました」

 2人は当時勤務していた都立両国高等学校附属中学校で「教えない授業」「SDGsを取り入れた社会につながる授業」をそれぞれ展開し、副校長だった小倉教諭がそれを推進して、多くのメディアから取材を受けるほどに注目された。

 新渡戸文化中学校の林徹校長は、このような活動を行っていた3人に注目し、昨秋、同校へ招聘した。さらに新しい授業を生み出そうと3人と幹部職員が一緒になって議論を重ね、偏差値で測れるような学力ではなく、自分も他人も幸せにできる「ハピネスクリエイター」として生徒を養成するという基本方針を固めた。さらに3人の経験を集め、作り上げてきたのが「未来授業デザイン」だ。

ソファが並び、打ち解けた雰囲気の中で学ぶ

「ブック・フォレスト・カフェ」という教室で、リラックスしながら授業が行われる
「ブック・フォレスト・カフェ」という教室で、リラックスしながら授業が行われる

 この授業は主に「ブック・フォレスト・カフェ」という教室で行っている。大きなテーブルと椅子のほか、ソファがいくつも置かれ、棚には英語、理科、SDGsの学びのヒントになる本が並んでいる。さらにSDGsの17の目標を書いたパネルを立てるなど、生徒の興味を引き出すようにデザインされている。

 山藤教諭は「大人もデスクにいる時より、ソファでカフェを飲んでいる時のほうがいいアイデアが浮かんだりします。リラックスした中で授業をしたいと考えました」と話す。

 授業が始まるとまず、教室のスクリーンに先生と生徒との「約束」が映し出される。「困っている人がいたら助け合う」「先生も勉強する」といった、お互いへの約束が10項目ほど書かれている。

 次にクラス方針が映し出される。「みんながハッピーであること Be happy」「対等に対話を重ねること Help each other」「試行錯誤しながらより良い方向を決めること Enjoy making mistakes」。これらを授業の度に確認することで、お互いに信頼し、打ち解けた雰囲気を作る。それが、生徒自ら学び始めるためのベースになっているのだ。

アルファベットを教えなくても自分で英語を学び始める

「大人ってステキ、社会ってステキ、次は自分なんだと動き出す教育」と話す山藤教諭
「大人ってステキ、社会ってステキ、次は自分なんだと動き出す教育」と話す山藤教諭

 通常、中1の英語の授業はアルファベットを教えることから始まるものだが、この授業では教えていない。山本教諭が説明する。「生徒に何をしたいかと聞くと、『海外の人と話したい』という声が上がります。そこで『この教室にあるものは何でも使っていいよ』と声をかけると、自ら教科書や基礎英語のテキストを開き、辞書を使って、学び始めるのです」

 テストもやる気を引き出すことにウェートを置いた内容だ。「フィリピンの中学生と交流することになりました。どのような自己紹介がよいか、日本語であなたの考えと理由を書いてください」。さらに、「書いたことをふまえて、あなたのベストの自己紹介を英語で書いてください」と設問は続く。生徒は辞書を開きながら、これらの設問に答えていくのだ。答えが一つに決まる設問は一つもない。

 「ABCは教えていませんが、英検4級程度の問題も出しています。それでも、生徒は熱意に満ちた解答を書いてきます」

 山本教諭は「教師はファシリテーター、いわば船頭です」と話す。「行き先、つまり1年後、10年後にどんな自分になりたいかという目標を、毎回必ず授業の最初に確認しますが、何をやるか、どのように進めるかは生徒に任せて、強制はしません。それぞれの成長のスピードを尊重して、生徒が自分から学び始めるのを待つのです」

 山藤教諭もこう説明する。「SDGsの学びも押し付けてしまうと、生徒は『もういいよ、どうせ無理でしょ』という反応になってしまいます。あくまで生徒のやりたいこと、興味のあることをベースに、対等な会話を重ねて授業を展開していきます。本校の生徒からは、思ったよりも早く『やりたい』という気持ちが出てきています」

社会とつながる学びは大学入試でも必要な学び

生徒たちのノートには、やりたいことがびっしり書かれていた
生徒たちのノートには、やりたいことがびっしり書かれていた

 さらに、この「未来授業デザイン」では3年間で100人の大人とつながることを目標にしている。「先生はハブ空港のような役割です。子供が主役になって学び、ハブ空港を介して、その先の社会につながっていくイメージです」

 その動きもすでに始まっている。授業の中で、食品メーカー「味の素」が行っている海外の給食提供プロジェクトに興味を持った生徒が出てきて、同社の社員に話を聞こうという企画が検討されている。また、海外の子供を援助しているNPOに興味を持つ生徒もいて、取材に行く話が進んでいるという。

 山本教諭は、「今の学びは、自分のやりたいこと、自分のアイデアを実現するために大人との接点を見つけ、社会につなげることを目標にしています。しかし、授業を予定調和にするつもりはありません。やりたいこと、学びたいことが見つからなければ、来年に持ち越してもいい。試験のために勉強するのではなく、現代社会が持つ問題を解決するための学びです。大学を受験するのもその解決手段の一つでしょう。大学入試を超えた学びになるので、大学入試レベルの学力も自然に身に付きます」と話した。

 小倉教諭はこう説明する。「『未来授業デザイン』は、子供たちが幸せになるため、自分で問題解決できる人になるための学びですが、これは大学入試改革の方向性とも合致しています。暗記中心の知識を問う学力試験は減っていて、どんな活動をしてきて何を学びたいのかが問われるさまざまなタイプの入試が増加しています。本校で行っている学びは、結果として大学進学にも有効な学びになっているのです」

 山藤教諭の前任校では、生徒の手による数十ものプロジェクトが進行し、訪ねた企業は約100社に上ったという。例えば「フードウェイスト(食料廃棄)」を考える生徒はスーパーへ取材に行き、地球温暖化を考える生徒はペットボトル再使用に伴う二酸化炭素の排出を考えようと清涼飲料メーカーに取材に行くなどしていたという。

 「企業の大人が真剣に対応してくれますから、生徒は『大人ってすごい』と感動します。これは、『大人ってステキ』『社会ってステキ』と思える教育です。と同時に『次は私の番だ』と自分から動き出す教育なのです」

 「教えない授業」をきっかけに新渡戸文化の生徒たちは何に興味を持ち、どんな学びを繰り広げるのか、これからが注目される。

 (文・写真:小山美香)

 新渡戸文化中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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716071 0 新渡戸文化中学校・高等学校 2019/08/02 05:21:00 2019/08/02 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190730-OYT8I50038-T.jpg?type=thumbnail

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