失敗恐れない「実学」教育で人材育成…東京成徳深谷

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 東京成徳大学深谷中学校・高等学校(埼玉県深谷市)は失敗を恐れず、主体的に取り組む「実学」教育に力を入れている。特に理科では、多くを説明せず、生徒が進んで実験に取り組み、実物に触れる体験を重視しているという。中学2年の理科実験の取材から、同校の「実学教育」を紹介しよう。

実験は、「失敗を恐れず、自ら行う」

実験の狙いについて説明する山下教諭
実験の狙いについて説明する山下教諭

 「今日の実験は『カタラーゼ実験』、または『レバー花火実験』と名付けましょう」。理科担当の山下太郎教諭はこう切り出して、7月13日の授業を開始した。実験教室には教科書やプリントはなく、黒板に実験の手順が簡単に書かれているだけだ。

 各テーブルには試験管を6本挿した試験管立てが用意されている。生徒たちはまず、それぞれの中に、駒込ピペットを使って等量の過酸化水素水(オキシドール)を注ぐ。そこにピンセットを使って豚の肝臓(レバー)や二酸化マンガン、それぞれを熱処理したものなどの触媒を入れていくと、無反応のものもあれば、ブクブクと泡が出てくるものもあった。

 同校の中学2年生は男子3人、女子10人の計13人。1クラスだけなので、みんな仲が良く、和気あいあいと実験は進む。その中に、泡に触ってしまい、怖がっている生徒がいた。山下先生がすぐに「泡の成分は酸素と水なので大丈夫」と説明を加えた。山下先生は、安全性に関すること以外に注意や指導はしないという。「失敗を恐れず、自ら行う」をモットーとして、実験の進行は原則的に生徒に任せているからだ。

火の付いた線香から炎が上がり、出て来た気体が酸素だと確認できた
火の付いた線香から炎が上がり、出て来た気体が酸素だと確認できた

 次に試験管の口に火の付いた線香を近づけてみた。泡が出た試験管からはポッと炎が上がる。特に1本だけゴム栓で蓋をしておいた試験管は、勢いよくポンと音を立てて燃え、生徒たちを驚かせた。「わあ、火が出た」「泡が止まらない」。生徒たちは口々に驚きの声を上げる。

 生の肝臓を入れたものは炎が上がり、熱処理したものは泡の出が悪く、よく燃えなかった。一方、二酸化マンガンは熱処理のいかんにかかわらず炎が上がった。

 一通り実験が済んだところで山下先生から実験の狙いの説明があった。

 触媒によって過酸化水素水が水と酸素に分解されること、火の付いた線香によって、出て来た気体が酸素だと確認できることなどを説明したうえ、生体触媒の肝臓と無機触媒の二酸化マンガンの性質の違いについて、「たんぱく質は熱処理すると働きが弱くなる。肉は焼いて食べれば体に悪さをしませんよね」と解説。生徒たちは納得の様子でうなずいていた。

実験に触れて覚える新鮮な驚きが大切

 実験の後、生徒に話を聞いた。橋本旺花さんは「実験が普通の授業より楽しいのは、自分で動けるから。今日は私の予想と違う結果だったので驚いた」と感想を話した。もともと理科が好きで、いろいろな新しい実験ができるから中学に入るのが楽しみだったという。将来は気象予報士になりたいそうだ。

 機械いじりが好きで「将来はJAXAのエンジニアになってみたい」と言う織田恵祐君は、中学生になってから実験を通して理科が好きになったそうだ。「いつか水素ロケットの実験をしてみたい」と夢を膨らませていた。

 この日の実験は高1の教科書「生物基礎」に載っているものだというが、山下先生は細かな知識にはこだわらない。「まずは生徒たちが実験に触れて覚える新鮮な驚きが大切です。実験で証明された化学式を理解するのは高校生になってからでいい」

 「まずは実際に触れること。すると自然にアクティブラーニングが始まります。実験の時は生徒全員が主役。プリントに頼っていては得られない感動が実験室にあふれて、みんな元気いっぱいです。最初は遊びの延長でもいいと思っています」

 こうした体験重視の理科実験は中1から中3まで毎週1~3回行われている。先日も、地学を専門とする山下先生の授業で、1年生の生徒が学校付近で採取してきた複数の土をケースに入れてリアルな地層のモデルを作り、水はけや土砂崩れの実験をした。その際、地域の歴史も調べて、水はけがいいのは浅間山の噴火で降った火山灰が堆積(たいせき)しているからであり、深谷ネギが特産なのも、この土壌が栽培に適しているからだと学びを広げたという。

失敗を恐れず挑戦していく「実学」を重視

 理科の授業だけでなく、同校の教育は、受け身でインプット型の学びから主体的でアウトプット型の学びへと姿勢を変えていく取り組みが多いことが特色だ。主体的な学びの中で、失敗を恐れず何度でも挑戦し、知識を深めていく。この学びを、同校では「実学」と呼んでいる。

 文化祭で開催している研究大会もアウトプット型の学びの場だ。生徒たちは自分で決めたテーマについて研究を深め、みんなの前でプレゼンテーションを行う。

 地域史を調べて歴史新聞を作ったり、自分たちで数学の問題を作り、みんなで解いてみたり、さまざまなテーマで発表を行う。中にはポケモンのピカチュウの体重をさまざまな要素から割り出して計算し、8キログラムと推定した研究や、太宰治の小説「走れメロス」の主人公が目的地に到着するまでの距離と時間から平均時速何キロで走ったかを証明するなどのユニークな研究もある。

「プリントだけでは得られない感動が実験室にはあふれている」と話す山下教諭
「プリントだけでは得られない感動が実験室にはあふれている」と話す山下教諭

 アウトプット型の学びの必要性について山下先生はこう説明する。「以前の学力は『受容する力』が求められました。より多くを覚え、与えられた選択肢から答えを導き出す。インプット型です。しかし、そういう学習の限界に多くの人が気付き始め、今はアウトプット型の学びを模索しています。失敗を怖れ恐れず、興味のままに何でもやってみる。ミスをしても気にせず、学びの回数を増やしていく。そういうアウトプットに()けた子は表現力が豊かで、コミュニケーションが上手。海外に出てもすぐに活躍できます。これからの人材を育てるためにはアウトプット型の学びがどうしても必要です」

 「教師が一方的に教えて育てる『教育』ではなく、実学を通して生徒同士が共に育つ『共育』を目指しています。できる子だけが手を挙げて答える授業とは違い、生徒自らが提案し、工夫して、相互に学ぶ絶好の機会です。柔軟な思考力、判断力が要求されるので、2020年からの大学入試改革では大きな強みになると期待しています」と山下先生は話す。

 同校の立つ深谷は、実学重視の精神で近代国家・日本の基礎を作り、「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一が生まれた土地でもある。明治維新以後のように、予測のつかない今の時代に、「実学教育」によって生徒の可能性を広げていく同校の取り組みは、渋沢の精神にも通じるものではないだろうか。

 (文:水無瀬尚 写真:中学受験サポート)

 東京成徳大学深谷中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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