【特集】フランス語教育で広がる生徒の将来の可能性…大妻中野
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大妻中野中学校・高等学校(東京都中野区)は20年以上前から、フランス語教育を実施している。英語に仏語を加えた「複言語教育」により、複数の視点を持ち、文化の異なる人々を受け入れる資質を高めるのが目的だ。一方で、仏語の能力を高めることは大学入試を突破する武器にもなってきているという。そのカリキュラムや留学システムなどについて取材した。
世界公用語のフランス語を「総合学習」で導入

同校がフランス語教育を開始したのは1999年だ。前年の学習指導要領改訂に伴って新設された「総合的な学習の時間」を有効活用するのが目的だった。フランス語を選んだ理由について、同校のグローバル・センター長で日本外国語教育推進機構会員の水澤孝順教諭は、「フランス語は英語と並んで世界の公用語であり、複数の外国語を学ぶことで多角的な視点を持ち、文化の異なる人々を受け入れるマインドセットをより深めることができると考えたからです」と話す。
フランス語を公用語とする国や地域は、本国やカナダなどのほか、経済成長の著しいアフリカ諸国など、世界に多数存在する。国連、世界貿易機関などの国際機関でも公用語として使われている。「フランス語を学ぶことで、ヨーロッパの大学に進み、グローバル企業や国際機関で働く道も開けます。生徒の将来の可能性が大きく広がるのです」と水澤教諭は話す。
中高一貫教育を行う同校には、「アドバンストコース」と「グローバルリーダーズコース(GLC)」の二つのコースがある。フランス語を担当する外国語科の島田幸子教諭によると、「アドバンストコース」の生徒は高校1~2年で、自由選択科目として週2時間、フランス語を学ぶことができる。「グローバルリーダーズコース(GLC)」では中学1~高校1年までフランス語が必修で、高校2年は選択科目となる。授業時間は、中学校で週1時間、高校1~2年で週2時間設けられている。
島田教諭によると、授業では表現力の向上を重視しているといい、ライティングの授業では「スペルの細かいミスはあまり指摘せず、間違えてもよいので、まずは自分らしく書いてみるように促しています」という。
また、授業では文化の違いを体験的に学ぶアクティビティーも積極的に取り入れている。例えば、留学先から帰国した生徒が、フランスで購入したお菓子を振る舞い、味の違いや食文化について学んだりする。机上の学習だけではなく、フランス文化圏へさまざまな関心を呼び起こすことによって学びを深める効果があるという。
仏検でモチベーションを高め、志望校合格へ

生徒のモチベーションを高める意味で、定期試験以外に実用フランス語技能検定試験(仏検)の受検も奨励されている。GLCの生徒は中2までに、仏検5級の合格を目標として学習する。その後、中学3年までに全員4級、高校3年までに全員3級と、さらなるステップアップを目指す。
今春卒業し、フランス語力を生かして志望の大学に進んだ下條遥香さんは、英語圏からの帰国生として同校のGLCに入った。フランス語を一から学び、将来の進路の可能性を広げたかったそうだ。
下條さんは在学中に仏検3級を取得し、フランス語での受験が可能な立教大学異文化コミュニケーション学部を志望し、指定校推薦入試で合格した。入学後は、外国の文化や社会を学びながら、メディアにも強い関心を持つようになったという。
下條さんは、「フランス語の発音がきれいな友人や、私よりも早く3級に合格した友人など、フランス語が得意なクラスメートの存在が大きかったです。3級は難しかったですが、学習を続けるモチベーションになりました」と振り返る。
フランス各地やニューカレドニアへ留学

留学もまた、語学力を磨くうえで大きな効果がある。同校は世界8か国・20校以上の学校と提携しており、英語圏とフランス語圏でホームステイや現地校での寮生活を経験する「留学」も実施している。2019年度は、高1、高2合わせて約70人が「学期留学」や「1年留学」にチャレンジしている。1年間留学しても、同じ学年に復学できるという点も大きな魅力だ。
フランス語圏に関しては、同校は日仏両国の高等学校の相互交流組織「コリブリ」の加盟校であり、フランス全土やニューカレドニアにある約30校の加盟校を留学先に選ぶことができる。また、同校はユネスコスクールの加盟校でもあり、世界中の学校とネットワークを築いている。2018年度には、フランス・サンドニのサンドニ・インターナショナルスクールと独自に教育提携を結び、1人の生徒が1年留学した。また昨年度は2人の生徒が、1月から3月にかけてフランス・トゥール地方への留学を経験している。
同校は生徒の留学先について、フランスの文化や社会について学べるだけではなく、発音の比較的美しい地域を選び、確かな言語技能の習得を目指せるように配慮しているという。留学先には世界各地から留学生が集まる。その中で多様性を学びながら、フランス語の技能も磨かれる。なかにはヨーロッパ言語共通参照枠CEFRで、初学者レベルのA1から中級者レベルのB1まで向上した生徒もいるという。
留学生を送り出す一方、同校は、フランスの提携校から数週間の短期留学生を受け入れている。一緒に通常の授業を受けるほか、生徒が留学生に地元中野の街を案内するという授業もある。生徒たちは、マンガショップを案内したりする中で、学んだ言葉が通じることや、マンガ文化を共有することに喜びを感じるという。
ただ、今年度はコロナ禍というアクシデントがあった。海外でも国内でも直接的な交流は難しくなっている。そこでフランスの学校との間で「オンライン留学」を実現した。現在5人の生徒がこの新しい留学で、フランス人の教師に直接フランス語で授業を受けている。
通常のフランス語授業も休校期間への対応としてオンラインで行われ、定期試験もリポートで代用した。テーマは学年ごとに設定され、中1は世界遺産などの建築、中2はお菓子、中3はフランスゆかりの人物。生徒の多くは自分の興味や進路と関連付けてまとめてきたといい、理系志望のある3年生は、細菌学者のパスツールについて執筆したそうだ。
「生徒は想像以上に、オンライン授業に積極的で柔軟でした」と島田教諭は振り返る。6月1日からは分散登校が始まり、生徒の学びの意欲もさらに高まっているそうだ。英語以外の外国語を学ぶ同校の「複言語教育」は、今後、大学の総合型選抜入試を希望する生徒にとっても強みにもなりそうだ。
(文:三井綾子 写真提供:大妻中野中学校・高等学校)
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