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小林聖心女子学院中学校・高等学校(兵庫県宝塚市)では、卒業生の約3割が医歯薬系など理系の大学・学部に合格している。さまざまな動機から理系への進学を志望する生徒たちの学力を底上げし、夢をかなえる一つの力となっているのが、徹底的に教科書を重視した数学の授業だという。医学部や歯学部に現役合格を果たした今春の卒業生らに、同校で学んだことや、目標実現に向けての思いなどを取材した。
教師の後押し受けて志望進路を貫く


同校はカトリック校にふさわしく英語教育の充実で知られているが、大学合格状況を見ると、卒業生の約3割(既卒生を含む)が理系の大学・学部に合格しており、その半数以上を医歯薬保健系の学部が占めるという特色がある。
今春、奈良県立医科大学医学部医学科に進学した卒業生の中井理紗子さんは、高1の時に参加した10日間のフィリピン体験学習で、病気や発達障害を抱える子供たちの施設を訪問したのが受験の動機になったという。「私が子供たちにできるのは、一緒に話をしてあげることだけでした。何かもっと力になってあげることができればと、医療の世界を志すようになりました」
高3の秋までは医学部進学と歯学部進学の間で悩んでいたが、学校の進路相談などを経て、医学部受験を決心した。「医学部で学んだ方が、より多くのことが身に付くと思ったからです。心を決めかねている時に、先生が『医学部合格に向けて頑張れ』と背中を押してくれました」
同じく今春の卒業生で大阪大学歯学部に進んだ谷陽菜さんは、両親が共に同大歯学部を卒業している。「幼い頃から自分も歯科医になりたいと思っていました。大阪大学歯学部には歯学部付属病院があり、歯学の研究が進んでいます。やはり歯学を選ぶなら大阪大学へ、と考えていました」
ただ、受験勉強には苦しんだ。高3になっても模試の判定は「C」で、合格に自信が持てなかったという。「進路相談で先生に『大阪大学なんて無謀だと思ったら、私を思いとどまらせてください』と言ってしまったくらいです。でも先生は、『行きたい大学を受けるべきだ』と応援してくれました。大阪大学に強い思い入れがあることを、分かってくれていたのだと思います」
教科書の記述と問題を完璧に理解する数学授業

理系の大学・学部に進むうえで学力のカギとなるのは、やはり数学だが、中井さんも谷さんも、数学は得意科目でなかったそうだ。その2人が自らの理系志望を貫くことができた背景には、徹底的に教科書を重視した同校の数学の授業があったという。
「先生から『教科書を大切にしなさい』と教わり、教科書に書かれていることを一文一文丁寧に読むようにしました。塾では問題のパターンに応じた解法のコツを教わりますが、学校の授業では、問題に対する考え方そのものを学んだと思います」と中井さんは振り返る。
「先生は、『数学は言語だ』とおっしゃるんです。そこで、問題を読む時は『問題作成者は何を意図してこの問題を作ったのか』と考えるようになりました。数学とは解き方を暗記するものだとばかり思い込んでいたのが、すっかり意識が変わりました」と谷さんも話す。
2人を指導した数学科教諭で入試広報室長の宇津野
「教科書の奥付を見てみると、〇〇大教授といった名前がたくさん並んでいます。衆知を結集して作られているのが教科書なんです。数学を専門にする著作者全員で何度も何度も意見を戦わせ、何度も何度も書き直しをし、その結果校了した教科書は、一般の書物と比べて、最高の出来上がりになっているのです」
そこから宇津野先生は、「大学は教科書を完璧にマスターするだけで合格できる」と言い切るが、「大学入試を突破するには、量から質への転換が必要」だと付け加える。小、中、高と学年が上がっていくにつれ、反復練習を続けながらも質を重視した学習へと徐々に変えていく必要があり、そのためには「教科書に書かれている記述と問題を完璧に理解すること」が求められるという。
「基礎基本を完璧にするというのは、例題などが完璧に解けるということだけではありません。教科書の記述と、さらには行間にあることまでを正しく理解し、それらを正しく使って問題を解けるように勉強しなければ、本当の意味での基礎基本は身に付きません」
宇津野先生は2016年に卒業し、愛媛大学の医学部医学科に進学した生徒のことを思い出すという。「合格の報告に来てくれた時の話で、彼女は受験のために愛媛へたつ前日、カバンの中に数学の教科書だけを詰めていったそうです。授業時の説明で教科書に書き込んだ大切なポイント、問題から学ぶべきこと、行間に込められた記述など、その鉛筆書きを見ながら心を落ち着かせたそうです。この話を聞いて、自分の授業が間違っていなかったと確信すると同時に、とてもうれしかったのをよく覚えています」
「中井さんも谷さんも、『教科書を大切に』といっても最初はピンと来なかったと思いますが、素直に努力して勉強したことで、力を伸ばすことができました。本校の数学の授業では、『この問題はなぜそういう解き方になるのか』をディスカッションしながら一つの問題にアプローチしています。そのアプローチの仕方を理解してくれたのだと思います」
この授業を自分のものとして、中井さんは高3の夏から秋にかけて成績が安定し、合格につながったという。谷さんは大学入学共通テストで良い結果を出すことができたそうだ。
中高での学びを胸に、より大きな世界へ向かう

2人の話にもあるように、同校の進学指導は、数学力の底上げに加えて教師たちのさまざまな後押しが大きな要素になっている。1学年100人弱の小規模校である同校では、担任教師だけでなく、さまざまな教科の教師が親身に指導にあたる。
中井さんの場合、理系の教師が担任と一緒に医学部の面接対策に当たってくれたそうだ。「受験直前で睡眠不足になっている時に、化学の先生に『ひたすら努力するよりも、楽しんで勉強した方が力が伸びる』と教えていただいて、すっと肩の荷が下りたように思いました」
谷さんは、「周りの人と比べて、自分だけ力が足りないのではないか」と落ち込んだ時期があったという。「でも、先生に『周囲の人ではなく、過去の自分と今の自分を比べなさい』と言っていただいて、自信を取り戻すことができました」
本人の真剣な努力に加えて学校の親身なサポートもあって、2人は晴れて、充実した大学生活を送っている。中井さんは、高校時代に先生から言われた「毎日勉強する習慣を付けなさい」という言葉を守り、今でも毎日コツコツと勉強を続けているそうだ。「医学部の中でも、それぞれの学生が臨床医師、研究者、医系技官など自分の目標を持っていて、とても良い刺激を受けています。私自身は、将来小児科か内科の医師になりたいと考えています」
谷さんはダンスやバスケットボールのサークルに所属して交流を広げる一方、いずれはアメリカの大学に留学したいとも考えている。「小林聖心で、海外に目を向けることの大切さを学びました。歯科先進国とされるアメリカで、最先端の技術と知識を身に付けたいと考えています」
理系への進学希望者は年々増えつつあるとのことだ。これからも「数学はちょっと苦手」という女子生徒たちが夢に向かって飛び出せるよう、同校教師たちの活躍を期待する。
(文:足立恵子 写真提供:小林聖心女子学院中学校・高等学校)
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