社会に触れ、生き方に気付く体験プロジェクト…神奈川学園

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 神奈川学園中学・高等学校(横浜市)は、社会に触れ、世界を知るために中1から高2まで各学年で設定したテーマに基づき、問題意識を深める探究学習「Kanagawaプロジェクト」を展開している。「日本の課題」をテーマに、沖縄、水俣など国内5方面を訪ねてフィールドワークを行い、平和や人権などの問題を考察する高1の活動を中心に、このプロジェクトの特色を紹介する。

教室を出て、生きる目標や夢を見つける

水俣を訪れ、現地で話を聞く生徒たち
水俣を訪れ、現地で話を聞く生徒たち

 「Kanagawaプロジェクト」は、生徒が、将来自分たちもその一員となる社会、さらには国際社会の抱えるさまざまな課題について、段階的に問題意識を深めていくプロジェクトだという。それぞれのテーマは中1で「平和」、中2で「環境」、中3で「多文化共生」、高1で「日本の課題」、高2で「探究」と設定されている。

 いずれの学年でも、社会の課題を背負った人の話を聞いたり、自然に触れたりと体験を重視した学びを重ねるが、大きな柱となるのは、学年全員がホームステイを含む海外研修を体験する中3での「多文化共生」と、その学びで身に付けたグローバルな視点から、日本の今を振り返り、国内フィールドワークを行う高1の「日本の課題」だ。高2の「探求」では、それまでの学びの総決算として、自分でテーマを選んで研究し、「卒業論文」にまとめる。

 「Kanagawaプロジェクト」が生まれた背景について及川正俊教頭は「プログラムの原型は2000年に遡ります。神奈川学園は、創立以来『自立した女性』の育成を教育理念に掲げてきました。その理念を現代的に読み替えたのが当時構想した『21世紀教育プラン』です。その中心に総合学習と国際教育、情報教育の三つを置きました。教室の外に出て、社会や国際舞台と接しながら、生きる目標や夢を見つけることを目指したことから、実践の柱の一つに国内フィールドワークを取り上げました」と話す。

 「国内フィールドワーク」は例年、高1の11月に行われる。訪問地は沖縄、水俣、四万十川、奈良・京都、岩手・宮城の五つの方面があり、生徒は自分の希望に合わせて選択することができる。

 担当の小川輝光教諭は、「それぞれの土地に、『平和と基地』『人権』『環境と過疎』『文化財の保護』『震災からの復興』といった、答えが簡単には出ない問題があります。現地の第一線で活躍している方や語り部の方などから話を聞き、リポートにまとめることで、自分の生き方を見いだすきっかけにしてもらうのが目的です」と話す。

現地での体験をもとに自分のできることを考える

水俣方面を担当している小川輝光教諭
水俣方面を担当している小川輝光教諭

 小川教諭は2006年から毎年、水俣方面を担当している。現地では水俣病の患者や関係者らに話を聞くが、08年に亡くなった水俣病の語り部、杉本栄子さんの言葉が特に印象に残っているという。「杉本さんは『水俣病は“のさり”だ』と言っていました。のさりとは、その集落の言葉で、幸運に限らず病も不運もすべて天からの授かりものという意味です。なぜ、そのように前向きな捉え方ができるようになったのかを聞くことは、人として生きるための勉強になりました」

 高2の鈴木悠那さんは、昨年のフィールドワークで水俣方面を選んだ。「水俣病については表面的な知識しかありませんでしたが、事前学習で学んでいくうちに興味が深まりました。現地の4日間で最も印象的だったのは、水俣病センター相思社の理事で、患者相談や運営をする水俣病歴史考証館で解説をしている永野三智さんのお話でした」

 永野さん自身は患者ではないが、父親が水俣病支援の第一人者であり、永野さんは大きな影響を受けた。「30分程度のお話でしたが、行政の対応や社会の無関心への怒りは今も強く、『水俣病の当事者は誰か』という言葉が重く感じられました。後日、校内で体験を保護者に語る場があったのですが、水俣の歴史と現在について何も知らない人は、私の言葉が第一印象になってしまうと思うと責任を感じ、『私が語っても良いのか』『当事者とは何か』という大きな問いに直面しました」

 水俣から帰った後も、鈴木さんは都内の大学で行われた公害資料館連携フォーラムや国立ハンセン病資料館にも足を運ぶなど、引き続き関心の幅を広げているという。

岩手・宮城の震災関連施設を見学する生徒たち
岩手・宮城の震災関連施設を見学する生徒たち

 岩手・宮城方面を選んだ高2の瀬口和音さんは「東日本大震災の2年後に陸前高田に行ったことがありました。当時はまだ小学校の低学年で、景色の印象しかなく、あれから現地はどう変わったかを知りたいと思いました」と話す。

 瀬口さんは事前のグループ学習で『震災遺構を残すべきか』を討論した。被害を風化させないために残す、思い出したくないから残さない、意見は分かれた。「地域によっては今も決着がつかないケースもあり、すでに解体された地域もあります。現地では、話し合いで解体を決めたが人々の対立は深まったと聞き、あらためて難しい問題だと思いました」

 宿泊先の南三陸ホテル観洋(宮城県南三陸町)では、避難所として600人近い避難者を受け入れた女将(おかみ)の阿部憲子さんの話も聞いた。「阿部さんは避難所のリーダーとして、避難者の心のケアまで考え、スタッフとともに館内でコンサートや映画などのイベントを行ったそうです。それを聞いて、誰かがリーダーとして立つことで人は救われると思いました」

 また、瀬口さんは、震災当時、誰かが「逃げろ」と声を上げていれば、もっと多くの人が助かった可能性もあると考え、自らリーダーになって行動することの大切さも感じたという。「地震だけでなく台風など災害大国の日本で、身を守るために何が必要かを伝えられる範囲で伝えていこうと思っています」

体験を共有し、語り合うことで深まる学び

フィールドワークが生徒に及ぼす影響について話す高橋文恵教頭代行
フィールドワークが生徒に及ぼす影響について話す高橋文恵教頭代行

 一昨年の国内フィールドワークの後、生徒たちから新しい動きが生まれた。高橋文恵教頭代行によると、同校では以前から、国内フィールドワークの方面選択の参考として、上級生による説明会が行われてきたが、一昨年度は、鈴木さんたちからフィールドワークの後も、同じ体験をした先輩と現地で学んだことや感じたことを話し合いたいと提案があり、初めてフィールドワーク後の話し合いの場が実現したという。

 「同じ方面を訪問して経験した生徒同士が、質問や感想を出し合って交流し、一層学びが深まったようです」

 フィールドワークを体験した生徒は著しい成長を見せるという。「どの訪問地でも生き方の根本に関わる気付きがあるからでしょう。現実と向き合い、社会の課題を肌で感じることを通して、自らの進路についても真剣に考え、なぜその道を選ぶのかをはっきりと言えるようになってほしい」と、小川教諭は期待を込めた。

 (文・写真:山口俊成 一部写真提供:神奈川学園中学・高等学校)

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1000003 0 神奈川学園中学・高等学校 2020/01/15 05:21:00 2020/01/15 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200114-OYT8I50044-T.jpg?type=thumbnail

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