【特集】オンライン授業がもたらす思わぬ学びの進化…神奈川学園
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新型コロナ感染対策としてのオンライン授業は、中学高校の教育環境を大きく変えたが、その取り組みを通して今後に役立つさまざまな発見もあった。神奈川学園中学・高等学校(横浜市)では、生徒同士の「学び合い」の中で授業動画やチャットのさまざまな活用法が工夫され、中止となった海外研修先の姉妹校とオンラインで結んでの交流会を開くなどの試みが生まれたという。情報部の中野真依教諭と入試広報を担当する島智彦教諭に話を聞いた。
コロナ休校直前、全学年で端末1人1台の態勢に

神奈川学園は昨年まで、高校生を対象に1人1台のChromebookを学習に活用してきたが、ICTスキルを磨くためにはより早い段階から情報ツールに親しむことが必要という判断で、今年度から中学生も、1人1台のChromebookで学ぶことを決めていた。まさに新型コロナ感染拡大への対策として政府の緊急事態宣言が出される矢先のことだ。
「新型コロナウイルスの影響で時期が少し早まりましたが、もともと今年の秋頃には中学生にも全員Chromebookを持たせる予定でしたので、休校期間もみんなが同じ環境で学ぶことができました」と島教諭は話す。
島教諭によると、どの学年から情報ツールを持たせるかは教員間でも意見が分かれたという。時代に対応した学力を身に付けるうえで利用する価値は大きいが、人間関係への影響やSNSの使用で陥りがちな問題などへの不安もあった。特に中学低学年での扱いは慎重に議論されてきたが、利用することを通してこそ、正しい使い方を学ぶこともできるということで結論は固まった。「ICTやAIに使われるのではなく使いこなす力、つまりスキルとリテラシーを育てることが必要だと考えての結論です」
中高全学年が1人1台の端末を持つ前提で、どう休校中の学習体制を作るか。中野教諭によると、この課題に同校の「情報部」が中心となって取り組んだという。オンライン授業に向けて動画作成の方法や時間配分、適切な文字サイズなどのガイドラインを作成し、教員からの問い合わせに応じてアドバイスを行う。「皆、何とか生徒に学びを届けたいという思いでした。ICTが得意でなかった教員も頑張ってくれて4月13日からオンライン授業を開始できました。面倒見の良さという本校の長所が発揮された結果だと思います」
オンライン学習で生徒たちが見せる課題解決力

島教諭によると、オンライン学習では基本的に、グループウェアサービス「G Suite」の中から、教師・生徒間でのファイル共有を容易にする「Classroom」やビデオ会議用の「Google Meet」といったツールを使い、学年や教科の特性に合わせて課題配信や動画配信、ライブ授業などを使い分けたという。
オンライン学習を進める中で、島教諭は「授業中、チャットを使って生徒同士で解決していることも多くありました。それは教室ではあまり見かけなかったことの一つで、自己解決力が高まったと感じます」と目を見張る。
ライブ授業は、自宅の通信環境が不安定な生徒のために録画保存もしているが、生徒によってはそれが、苦手克服や得意を伸ばすことにも役立っているという。
中野教諭も「分からなかった箇所だけ見直す生徒や1.5倍速で見て、課題に取り組む時間を作っている生徒など、自分に合った方法で使いこなしている様子を見ると、学びが進化していく可能性を感じます」と驚きを隠さない。
また、教室では授業の後に、何人もの生徒が同じような質問をすることがあるが、オンラインでは質問と回答の記録が残るため、それを参照して短時間にさまざまな疑問にたどりつける。教室ではおとなしいタイプの生徒がチャットではとても活発に発言するなどの発見もあった。

教員たちに新たな発見があった。島教諭は「教員間でも情報や良い実践例を共有してきました」と話す。例えば、ビデオ会議システムの「Zoom」にはブレイクアウトルーム機能を使ったケースがある。Zoomの参加者を小さなグループに分ける機能だ。
中野教諭は、中1理科のオンライン授業でこの機能を使い、学年191人の生徒を4人程度のグループに分けて、自宅周辺で採取した花を観察し合うグループワークを行った。すると、生徒同士で対話する中で、教え合い、助け合う姿が見られたという。この試みと同様に、ほかの教科も生徒間でコミュニケーションする時間を作るようになったそうだ。
生徒からは「Zoomは緊張感があって集中できる」「ほかの人の意見が聞けるので、自分の知識も増える」「苦手な科目でもグループワークは楽しい」と、おおむね好評だという。
島教諭と中野教諭は、以前から同校は生徒同士の「学び合い」を重視してきたという。その積み重ねがあるからこそ、オンラインでもスムーズに「学び合い」が実践できたのだろうと考えている。
ICTが結んだオーストラリア姉妹校との絆

同校は例年、中3の3月に行ってきたオーストラリア・ニュージーランドへの海外研修を中止した。また、10月に神奈川学園を訪れるはずだったオーストラリア・ブリスベンにある姉妹校オーミストンカレッジも研修を断念したという。その代わりに行われたのが6月17日のオンライン交流会だ。ビデオ会議システムで現地の生徒とつなぎ、日本語と英語で自己紹介したり、浴衣やさまざまな場所で撮影した写真を見せたりして、笑顔で文化交流を行ったという。
中野教諭は「海外研修は生徒の進路選択にも影響する貴重な体験です。その機会を奪われたのは残念ですが、生徒たちは、『外の世界とつながることはそれほど難しいことではない』という気付きを得たようです」と、予想外の成長を実感していた。
島教諭は今後のICT活用について次のように話す。「この数か月、新型コロナウイルスという外的要因で学びのスタイルは大きく変化しました。ようやく生徒が学校に戻ってきたとはいえ、以前とまったく同じ状態に戻るとは思いません。しかし、現状を進歩と捉え、これからはオンラインと教室の授業の長所を、うまく結びつけて、より良い学びを作っていきたいと思います」
中野教諭は「自分で学ぶ力を育てることが教育の本来の目標であり、ICTを活用することで、それができる生徒はどんどん自分で進んでいくことができると実感しました。教員は、学び方の選択肢が増えたことを生かし、その生徒のできること、できないことを見極めながら、最適な組み合わせを提案することが新たな仕事になるはずです」と語った。
(文・写真:山口俊成 一部写真提供:神奈川学園中学・高等学校)
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