中学からの「哲学教育」で生き方を学ぶ…東洋大京北

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 哲学者井上円了を創立者とする東洋大学京北中学高等学校(東京都文京区)は、「諸学の基礎は哲学にあり」という建学の精神に基づき、2015年度から中学の必修科目に「哲学」を導入している。さまざまな価値観を見つめ直し、論理的思考力を磨くこの授業は、生き方を考えさせるキャリア教育にもなっているという。「哲学エッセーコンテスト」や「哲学ゼミ」など多彩な取り組みについて、石坂康倫校長に聞いた。

対話形式で他者の考えを知り、自分の世界を広げる

哲学教育の多彩な取り組みについて話す石坂康倫校長
哲学教育の多彩な取り組みについて話す石坂康倫校長

 「創立者の井上円了先生は生涯学習の先駆者でもあり、哲学を実践的な学問と考えていました。より良く生きるには、社会に貢献し、他者や自分を幸せにすること。そのために哲学は欠かせません」と石坂校長は話す。

 哲学教育を「生き方教育」と位置付けている同校は、身近な疑問や違和感を探究する力を「哲学する力」とし、常に自問自答し続ける姿勢を大切にしている。「友達は多いほど良いのか」「頭が良いとはどういうことか」など、生徒自らが問いを立て、本質を探って論じ合う。世間の常識や自分の価値観を見つめ直すことで、多角的な視点や論理的思考力を養うのが狙いだ。こうした力は全教科の学びを支える基礎的な力であり、大学入試のスタイルがさまざまに変わっても変わることなく求められる学力である。

 中学では「哲学」と「国語で論理」が哲学教育の柱となる。どちらも必修科目だ。中学生全員が3年間にわたり、対話形式が中心の「哲学」を週1時間、プレゼンテーションや小論文作成を行う「国語で論理」を週2時間学ぶ。

哲学教育の柱となる必修の「哲学」の授業
哲学教育の柱となる必修の「哲学」の授業

 「哲学」は、さまざまな教科の教員が2人1組で担当する。対象は中学の全学年・全クラスだ。生徒たちで話し合ってテーマを決め、対話し、表現する。この対話は、他者の考えを尊重することで自分の世界を広げることを目的とする。自説の正しさを主張して相手を説得するディベートとは異なるという。そのため「友達の発言をちゃかさない」「人を感心させる意見を言わなくてもいい」などのルールが設けられている。

 「国語で論理」は、国語科教員を中心とした2人1組で指導する。国際教育の必修科目としても位置付けられており、中学全学年の全生徒を対象に週2回行われている。言葉を使って論理的な分析、考察、表現する力を養うのが目的で、インタビューをして文章に起こしたり、テレビ番組を見て概要をまとめたりするなどの取り組みをしている。石坂校長は「哲学とは考えるトレーニングである」とも言う。実際、この授業によって記述式の大学入試問題にも強くなるそうだ。

 高校では1年次に「倫理」が必修科目で、古今東西の思想家の人生観を通して、思索を深める術などを学ぶ。また、全員参加のプログラムとして、課題図書を通して生きることの意味を考える「名著精読」、各界で活躍する人の話を聞いて生き方を考える「生き方講演会」がある。

 「生徒たちは哲学を通して人の役に立つ喜びを知り、どうすれば社会に貢献できるかを模索していきます。自然と、自分の強みや適性についても真剣に考えるようになります」と石坂校長は説明する。生き方を見つめる哲学教育は、キャリア教育にもつながるようだ。

教室を飛び出し、現場で体験し考えるプログラムも

「哲学の日」に開催する「哲学エッセーコンテスト」
「哲学の日」に開催する「哲学エッセーコンテスト」

 同校は毎年、井上円了が生誕した3月18日前後に「哲学の日」を設け、1年間の学びを全校生徒で共有する。また、「哲学エッセーコンテスト」を開催し、中学生全員と高1、2年生全員が参加する。中学生は800字以上、高校生は1200字以上、各自が問いを立てて執筆する。独創性、論理的一貫性、説得力などを基準に、教員と生徒審査員が選考し、入賞者は「哲学の日」に発表する。

 中には「なぜ人の指は5本でなければいけないのか」などのユニークな論考もある。広報部長の井出秀己先生は「哲学エッセーに関しては、作文としての体裁より、発想をどう展開するかなど考察の跡を重視します。一人一人の生徒が考えていることを大切にしたいので、口を出し過ぎないようにしています」と話す。

 全員参加の学び以外に、希望制のプログラムも用意されている。その一つが「刑事裁判傍聴学習会」。今年度で15年目を迎えるこのプログラムは、高校生を対象に年2回実施され、刑事裁判の傍聴や刑務所訪問などを行う。昨年度は25人が参加し、外国人による詐欺事件、不法就労事件、ひき逃げ事件、傷害事件などさまざまな事件を傍聴した。事前、事後に弁護士や新聞記者を招いて開いた学習会では、「罪と罰」「償い」「(ゆる)し」などをテーマに活発な意見交換がなされた。

 もう一つのプログラムが「哲学ゼミ」。対象は中3生と高校生。「生き方」「異文化理解」「命の大切さ」などのテーマに沿って対象地区を定め、事前学習して実際に訪れ、体験を積む3泊4日のプログラムだ。毎年20人程度が夏休みを利用して参加している。体験を通して考えたことはリポートにまとめ、後日、「哲学の日」などで発表する。

 これまで、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町を訪れたり、沖縄県各地をまわって沖縄戦と基地問題について考えたりしてきた。また、「赤ちゃんポスト」の問題を通して予期せぬ妊娠や命の尊厳について考えた年には、多くの生徒から「お母さんは一体どんな気持ちだったんだろう」という声が上がったという。今年度はアイヌ民族を訪ね、その歴史と文化、誇り、差別の苦しみなどについて学んだ。

 「貴重な体験と哲学的な思索を通して、生徒たちは自分自身の生き方を見つめることになります。そこで『より良く生きるためには』という大テーマに自らたどり着いてくれればと思います」と石坂校長は話す。

根本を疑うことで先入観を遠ざける

夏休みを利用して「哲学ゼミ」に参加する生徒たち
夏休みを利用して「哲学ゼミ」に参加する生徒たち

 高1の宮田青葉さんは昨年度、新潟県佐渡市で行われた「哲学ゼミ」に参加した。テーマは棚田の保全活動と自然体験を通して人間と自然の関係を捉え直す「自然との邂逅(かいこう)」だ。毎日対話の時間が1時間ほどあり、その日感じたことを参加者同士で話す。便利だがせわしない東京と、自然には恵まれているが不便な佐渡。一体どちらが本当に豊かなのか、という話が一番盛り上がったという。

 宮田さんが参加した理由は、「中学で『哲学』の授業を受けて楽しかったから」だという。クラスメートとの対話の中で「そんなふうに考えていたのか」という発見や驚きがあり、刺激的だったそうだ。最初の「哲学」の授業で先生に「根本を疑いなさい。『そもそも』という言葉を使って考えるといいよ」と言われ、常に意識してきた。授業を通じて宮田さんは「思い込みや先入観に気を付けるようになりました」と言う。テレビでニュースを見ていても「これは本当に悪いことなのか」「事件を起こした人にも事情があったんじゃないか」などと考えるようになったそうだ。

 同校が哲学教育に取り組み始めて今年で5年目になる。生徒たちの中の「哲学する力」は、さまざまな疑問への取り組みを通して真価を発揮してくるだろう。

 (文:佐々木志野 一部写真提供:東洋大学京北中学高等学校)

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793749 0 東洋大学京北中学高等学校 2019/09/17 05:21:00 2019/09/17 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/09/20190913-OYT8I50001-T.jpg?type=thumbnail

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