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【特集】コロナ危機に教員、生徒を結束させた「心」の哲学…東洋大京北

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 東洋大学京北中学高等学校(東京都文京区)は、コロナ禍に伴う休校期間中のオンライン授業体制作りを、結束したスピーディーな対応で乗り切った。その対応を可能にしたのは石坂康倫(やすとも)校長が、東洋大学の創立者・井上円了の哲学を生かして取り組んだ学校改革の成果だという。当時の対応や今後のICT環境整備の見通しなどを取材した。

教員たちが「一枚岩」の動きで対応

石坂校長(左)と井出広報部長
石坂校長(左)と井出広報部長

 「ここまで一枚岩となって動けるとは思っていませんでした」。石坂校長が感慨とともに語ったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて急きょ進めたオンライン授業の体制整備のことだ。

 同校のICT環境は、他校と比べて特に進んでいるわけではなかった。家庭との連絡用に教育用プラットフォーム「Classi」を導入し、オンライン学習サービス「スタディサプリ」を活用しているが、生徒へのタブレット端末の配布までは行っていない。その状況で昨年3月から臨時休校を余儀なくされ、備品のパソコンや教員が所有する機材、生徒の家庭の機材を応急的に活用して対応することになったという。

 「ICT導入の流れは従来から認識しており、2014年から『ICT教育研究委員会』を設置して、本校に合った教育の形を討論していましたが、コロナの到来により、予定を大幅に前倒しすることになりました」

 コロナ対応の中心スタッフの一人である井出秀己広報部長も、「ICTの導入について、全ての教員が高い意識を持っていたわけではありませんでした」と当時の状況を話す。「ただ、デジタル分野に関心がある一部の教員は、タブレット端末による授業を試験的に始めており、臨時休校に入った3月には新高3生の担当教員がZoomを活用して数学と英語の春休み講習を実施したり、有志の教員で研修を行ったりしていました」

 「こうした現場の教員による積極的な提言が、コロナ禍への対応に大きく寄与しました」と石坂校長は話す。「4月以降の休校延長が決まった後の職員会議で、オンライン講習を行った教員が『Zoomでの授業を全学年で行うべき』と強く提言してくれました。そこからの動きは速かった」

 各クラスの担任は、速やかに生徒の家庭に連絡を取ってオンライン授業への理解を得るとともに、機材準備について相談を進めた。学校では教務部長を中心とした「オンライン検討委員会」を設け、昨年4月22日の職員会議で授業と個人面談をZoomで行うことを全教員に通達した。その日に研修を行ってZoom活用の基本スキルを共有し、ゴールデンウィーク明けまでに各教科で準備を進めて、オンライン授業に間に合わせることができたという。

他者を幸せにする行動をとることが本当の教養

七夕の笹飾りには人を思いやる言葉が目立った
七夕の笹飾りには人を思いやる言葉が目立った

 石坂校長は、こうしたスピード感と一体感のある教師たちの対応を、自らが「哲学」を柱に進めてきた学校改革の結実と見ている。

 東洋大学の設置校である同校は、我が国の哲学普及に尽力した明治期の仏教哲学者井上円了によって1899年に設立された。その井上は著書「奮闘哲学」の中で、「究めた真理を人々の幸福と社会の改善に役立てるのが学問の目的」と説いたという。ここから東洋大学では、「他者のために自己を磨く」ことと「活動の中で奮闘する」ことを「東洋大学の心」と定めている。石坂校長は10年前に東洋大京北の校長に就任した際、井上の理念に深く共鳴したという。

 「井上先生の教えを踏まえ、私は本校の教育目標を『より良く生きる』としました。『より良く』とは、他者を幸せにする行動をとること。知識を身に付けるだけでなく、他者を理解、尊重し、行動に反映できることを『本当の教養』と捉え、授業やホームルーム、行事など、折に触れて話をしています。もちろん、生徒を導くためには、教員自身もそうした力を持たなければなりません。人を思いやり、自ら考え、発言し、実行する習慣が各教員にも育っており、それが今回の緊急対応で発揮されたと考えています」

 コロナ休校明けの生徒の態度や振る舞いにも、こうした指導の成果は表れていると石坂校長は見る。

 「中1、高1は初対面の生徒が多いのに、最初から打ち解けていました。この数年で本校の校風が知られるようになり、素養のある生徒が集まるようになったという背景もありますが、リモートによる授業や面談でも、各教員を通して本校の指針が伝わったのだと思います」

 さまざまな学校行事も中止せざるを得なかったが、生徒たちが話し合って学校生活を盛り上げる動きも見られたという。

 「今年度は6月の運動会を中止しましたが、高3生が『高校生活の思い出を作りたい』と自ら行動し、9月末に有志による運動会を開催しました。七夕やハロウィーンの時には、生徒たちが発案、行動して学校内の装飾を行いました。ちょうど学校説明会のタイミングでもあり、参観者に喜んでもらおうという思いもあったようです」

 なかでも、七夕の笹飾りに()るされた短冊の文言に石坂校長は感じ入ったという。「『父母、祖父母が健康でいられますように』『受験生の皆さん入試頑張って』など、人を思いやる願いがとても多かった。我々の教えが浸透していることを実感しました」

ICT化が可能にする豊かな授業

オンラインで行われた古典の授業
オンラインで行われた古典の授業

 石坂校長は、「約1か月のオンライン授業を通して、本校のICT教育の方向性を見極めることもできた」と言う。「ICTの活用には、対面授業ができない場合の補充的なメリットに、プラスαの面がある。生徒と1対1に近いコミュニケーションができる点です。ICTを活用すれば、生徒が書いたカードに先生が直接コメントやメッセージを書ける。生徒にとっては、『自分だけに送られたメッセージ』であり、『自分をちゃんと見てくれている』と強く感じるはずです」

 井出広報部長も、授業の新しい展望を語る。「私が担当する歴史の授業では、史実に対して『なぜこのことが起きたか』と問いかける授業をよく行います。また、哲学の授業でも『男子と女子では、けんかの仕方がどう違うか』など、さまざまな問いを立てて意見を出し合います。その答えをタブレットに書き込むことで、声を上げるのが苦手な生徒も平等に意見を表明できる。また、教員は授業後に生徒の意見をじっくりと見て、次の時間に『こんな良い意見があった』と紹介することもできる。発言する生徒を中心に進める授業ではなく、みんなを拾い上げる豊かな授業につながるでしょう」

 「休校対応を通して、私を含め、多くの教員が『ICT機器は意外と簡単に使える』と実感し、これまで見えなかったものが見えるような感覚を得ました」と井出教諭は話す。

 石坂校長は、「ここから一気に整備に向けて進めたいと思っています。すでにWi-Fi環境の整備を終え、来年度はタブレット配布を行う算段もつけています。さらに、東洋大学のオンライン教育担当者に出向してもらい、機材や授業のノウハウなど具体的な検討を進めています」と話す。

 さらに、「細かい導入スケジュールはこれからですが、コロナ対応の時のようにスピード感を持って進めたい」とし、「この1、2年で、学習のあり方が大きく変わるはずです」とICTによる教育の進化に自信を見せた。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:東洋大学京北中学高等学校)

 東洋大学京北中学高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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1751340 0 東洋大学京北中学高等学校 2021/01/13 05:01:00 2021/01/13 15:17:58 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210106-OYT8I50021-T.jpg?type=thumbnail

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