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青山学院中等部(東京都渋谷区)は、青山学院大学も採用している教育支援システム「コースパワー(CoursePower)」を授業や日々の学校生活にフル活用している。昨年のコロナ禍対策として休校を実施した際、オンデマンド授業に活用したのがきっかけで活用の幅が一気に広がり、現在は、教育に新しい可能性が広がってきたという。その活用の実際について、同校ICT図書委員の教員と中3生に話を聞いた。
画像・音声・動画の利用が授業にスムーズに浸透

青山学院中等部の生徒の一日は、家庭での朝の検温から始まる。生徒がスマホなどから体温を入力して送信すると、学校側で自動的に管理され、日々の体調チェックのデータとなる。授業では、教員は従来の板書に加えて電子黒板を使い、自分で作成したデジタル資料や動画を展開する。生徒たちは家で動画を見直して、分かりにくかったことを一つ一つ自分で確認し、課題をインターネットで提出することもできる。これらがすべて「コースパワー」の活用で可能になっている。
「コースパワー」は、総合エレクトロニクスメーカーの富士通が提供している教育支援システムで、動画やプリントなど資料の配信、生徒の提出物受信、連絡事項の一斉送信、各生徒の学習履歴などをインターネットで一括して管理できる。同校は2016年度にこれを導入した。
「青山学院大学が導入していたことから、管理やセキュリティーの面で利用しやすいと考え、『コースパワー』を選びました。ただ、当初は試験的に課題を配信してみたり、一部の部活動で使用したりという程度で、ほとんどのことは従来通り、紙で行っていました」と、ICT図書委員長で国語科の篠原
それが大きく変わったのは、昨年3月から5月にかけて、新型コロナウイルス感染拡大のため休校せざるを得なくなった時だ。すでに全生徒に「コースパワー」に接続する環境が整っていたため、教員が作った授業動画を配信して生徒たちが自宅でそれを視聴する「オンデマンド授業」に踏み切った。「利用方法は分かっていたので、オンデマンド授業への移行はスムーズに進みました。保護者の方々のためのアカウントもあり、学校の取り組みを随時ご連絡していました」と、篠原先生は振り返る。

この時の経験から教員にも生徒にも「コースパワー」を使いこなすスキルが浸透し、6月に対面授業が再開してからも、普段の学校活動の中に自然に取り入れられることとなった。
ICT図書委員で社会科を担当する水野祐輔先生は、「授業内で見せるには時間が足りない動画を配信し、復習として見てもらっています。生徒の理解を担保しつつ、格段に時間を節約することができ、その分、ほかの授業内容を充実させることができます。また、テスト前に自習を行いたい生徒のために自習用の地名プリントを配信し、自主学習がしやすい環境を作っています」と話す。
水野先生は選択授業の「地理学」を担当し、江戸時代の地図を見ながら東京の街を歩き、当時と今の様子を比べるといった「巡検」を行っている。現地で写真を撮ってリポートを作成した生徒たちは、「コースパワー」でそれを提出している。
同じくICT図書委員で国語科の達富悠介先生は、「『コースパワー』の活用で、生徒たちの表現の幅が広がりました」と話す。「例えば『ニュース原稿を作成する』といった課題の場合、従来は文章を書いて紙で提出するだけでしたが、『コースパワー』を使えば、生徒はそれをニュースキャスターになったつもりで読み上げ、音声や動画のファイルで提出することもできます。動画であれば、身ぶり手ぶりなどプレゼンテーションのスキルを発揮することもできます。YouTubeの動画などの影響か、今はそういうことが得意な生徒が多い気がします」
同校には、パソコンやタブレットパソコンを貸し出すシステムがあり、生徒たちは授業で利用することができる。また、今年度から中1生全員がタブレットパソコンを持つようになり、授業でのICT活用はさらに進んでいく予定だ。
授業の理解促進やクラブ活動の連絡にも活用

中3の生徒たちに、昨年の休校中「コースパワー」をどのように活用したかを聞いた。
伊藤
杉山
対面授業再開後も、教員たちは授業の理解を補うための動画を配信しており、伊藤さんは自宅で好きな時にアクセスしている。「化学の先生は、授業でできなかった実験の動画をアップしてくれています。また、天気の学習では、雲の種類とその名前を動画で詳しく説明してくれて、とてもよく理解できるようになりました」
「コースパワー」にはまた、クラブ・同好会別の「掲示板」もあり、杉山君は科学部の活動で活用している。「次の活動の案内や持ってくる必要があるものを掲示し、文化祭の準備の時も部員の間で情報を共有していました」
個別の学習指導や「反転授業」が可能に
ICTを使った学習には、生徒が各自の興味関心に合わせて学習を深めることができるメリットもあるが、積極的に学習する生徒とそうでない生徒で、差が出てくる可能性がある。達富先生は、学習履歴を確認することでそれを埋めていきたいと考えているそうだ。「一人一人の生徒に適した資料を配信することで、個別最適な学びが可能になると考えています。それをこれからの課題としています」
水野先生は、ICT活用を進めるうえで、「反転授業」の実施も検討している。「授業で説明を行い、何かを書いたり作ったりという活動は宿題にするというのが、従来の手法です。これからは、自宅で動画を視聴して地理についての理論を理解し、授業では皆と話し合いながら地図を作成するといった活動が可能になります」
青山学院では初等部、高等部でもタブレットパソコンの導入が進んでおり、初等部・中等部・高等部・大学が連携してシステム管理や授業での活用方法について情報交換を行っているそうだ。「本校には、新しい可能性を自由に追求することができる環境があります。1年生全員にタブレットパソコンを導入したこともあり、今後さらに新しいことにチャレンジしていくつもりです」と、篠原先生は抱負を語った。
(文:足立恵子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:青山学院中等部)
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