「プロジェクトアドベンチャー」で非認知スキル高めよう…海城

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 東京の「男子新御三家」に数えられる海城中学高等学校(東京都新宿区)は、社会で活躍する力のベースとなる「非認知スキル」の向上を図るため、さまざまな体験学習を導入している。その中でも野外でのアクティビティーを活用した「プロジェクトアドベンチャー」はユニークな取り組みだ。その狙いや生徒に与える効果をリポートする。

非認知スキルの向上目指し中1、2で実施

「TPシャッフル」に挑戦する生徒たち
「TPシャッフル」に挑戦する生徒たち

 「プロジェクトアドベンチャー(以下PA)」は、野外活動を教えるイギリスの短期スクール「アウトワード・バウンド・スクール」の厳しい冒険教育プログラムを、アメリカで普通の学校教育の場にも適するようアレンジした教育プログラムだ。

 海城中学高等学校はこのPAの教育効果に注目し、日本でPAの普及に努めている民間会社「プロジェクトアドベンチャージャパン(PAJ)」の協力を得て、2005年から課外授業に取り入れている。

 PAの運営を担当する「体験学習推進委員会」委員長の中村陽一教諭は、導入の理由をこう語る。「価値観が多様化した現代社会においては、前提を共有しない他者と対話するコミュニケーション能力や、価値観の異なる他者と協働し、新しい課題や決まった答えがないような課題の解決を図る能力が、ますます重要になっています。そのような力、いわゆる『非認知スキル』の向上のために、PAを導入しました」

 現在、中1生と中2生を対象とし、それぞれ1学期にPAを実施しており、中1では、公園の遊具のようなアスレチック設備を使った日帰りのプログラムを、中2では命綱を付けて高所に登るなど難度の高いプログラムを1泊2日で行う。

 同行取材した中1生3クラスのPAは4月23日、東京都八王子市にある都の社会教育施設「高尾の森わくわくビレッジ」で行われた。プログラムは朝10時からの2時間と、昼食を挟んだ午後1時からの2時間だ。

 「今日は、チームで楽しみながらいろいろなことにトライします。これは、大人になった時にトライを行う環境を、自分の力で作ることを学ぶためです」。プログラムを開始する前に、PAJ社から派遣されたファシリテーターがあいさつに立ち、この日の活動目的を説明した。続いて、「自立する=チャレンジしてみよう」「想像する=仲間のチャレンジを大事にしよう」「共生する=自分も仲間も大事にしよう」という三つの目標を生徒たちと確認した。これらの目標は、今年の中1生に対して「学年の約束」として提示されたものであり、この日のプログラムは、この教育方針を踏まえてカスタマイズされているという。

 本格的なアクティビティーに入る前に、まず30分ほどクラス単位で簡単なゲームを行った。入学間もない生徒同士、自然に話せる関係ができるよう緊張をほぐすためだ。

 2人組で鬼ごっこなどをした後、互いの協力がポイントとなるゲームに移った。つま先を付け合った状態で体育座りをし、つないだ両手を引っ張り合って立ち上がる。互いのタイミングを合わせ、力の加減をしないと成功しない。指示しなくても生徒たちから自然と「せーの」などの掛け声が上がる。

 2人組で成功すると、今度は4人組、8人組で挑戦する。人数が増えるとタイミングがずっと難しくなり、誰と手をつなぐかの工夫も必要だ。うまくいって、拍手や歓声が上がるチームも現れた。

目標を達成するために話し合い、工夫し合う

協力し合ってワイヤー上を渡る「モホークウォーク」
協力し合ってワイヤー上を渡る「モホークウォーク」

 ここで準備段階は終了し、プログラムは本番に入る。各クラスを14人前後の3チームに分け、1チームに1人ずつファシリテーターが付いて、さまざまなアスレチック施設がある「PA」エリアでアクティビティーがスタートした。アクティビティーは十数種類。ファシリテーターが取り組む種目を決めてルールの説明を行い、後は各チームのペースで進められる。

 「TP(telegraph pole=電信柱)シャッフル」というアクティビティーでは、電柱ほどの太さの丸太の上に全員が並んだ後、「誕生日順」「名字の五十音順」などの規則に従って、地面に落ちないように並び直す。落ちたらやり直しだ。成功するには並び順を確認したり、隣り合う2人が落ちずに入れ替わる方法を考えたりする必要があり、見かけよりずっと難しい。ついにいったん全員がおりて、話し合いを始める場面もあった。

 「モホークウォーク」というアクティビティーは、数メートル間隔で立つ丸太の間に、地面から50センチほどの高さで渡したワイヤー上を落ちないように渡るもの。全員が落ちずに渡り切ったら成功だ。全員が渡り切るには、苦手な生徒をサポートするチームワークが必要だ。生徒たちは試行錯誤して、互いに肩を組んだり、先に渡った生徒が手を伸ばして支えたりして奮闘していた。

 アクティビティーの区切りごとに振り返りのミーティングも行われた。一人一人に「良いチームのイメージ」や、「そんなチームになるために自分がすべきこと」を考えさせ、取るべき行動を意識化するのが目的だ。

「蜘蛛の巣くぐり」など、さらに高難度にも挑戦した
「蜘蛛の巣くぐり」など、さらに高難度にも挑戦した

 午後は、丸太の間に張り巡らせたロープの網の目に触れないように全員がくぐり抜ける「蜘蛛(くも)の巣くぐり」など、さらに難度の高いアクティビティーにも挑戦。うまくくぐれない生徒もいて、振り返りでの「チームプレイの満足度」は、各チーム満点とはいかなかったが、ファシリテーターは「成功できず悔しいと思うけど、今日やったのは練習。大事なのは、今日の失敗を次に生かすこと」とし、プログラムを締めくくった。

 プログラムを終えた菅野良将君は「協力して一つのことをやる体験は初めて。声を掛け合うことの大切さを学びました」と達成感の表情。中嶋正浩君は、「丸太の上で位置を替わるのが難しく、あきらめの雰囲気になったけど、工夫して時間内にできそうだと思ったら空気が変わりました」と楽しげに話した。また、伊藤遼祐君は、「モホークウォークが成功しなかったのが残念。でも、話し合いを通して自分たちのアイデアが生かされ、やり方をグレードアップできました」と自分たちなりの収穫を感じたようだ。

演劇的手法を組み合わせて人格形成を図る

中3生は修学旅行の体験を題材として演劇を作り、発表する
中3生は修学旅行の体験を題材として演劇を作り、発表する

 「PAを体験した直後に、行動や考え方に変化が見られる生徒もいますが、一度の体験だけで、すべての生徒に対してすぐに効果が表れるというわけではありません。PAは課題を成功させることが目的なのではなく、課題を乗り越えようとする過程で、生徒が互いにどう力を合わせていくことができるのかということを大切にした活動です。そうした体験をPAだけで終わらせず、価値観の異なる者同士が力を合わせて課題を解決する機会を、学校生活においてたびたび用意することが重要だと感じています」と中村教諭は話す。

 同校は、PA以外の取り組みとしてプロの役者や演出家を講師に招いての演劇ワークショップも行っている。中1で行う「安全ワークショップ」では、「みんなの安心や快適への配慮が、自分の安全を作る」という考えを体感する。

 中2では、初めて出会う大人にインタビューをして、その人の話をもとに演劇を作るワークショップ、中3では修学旅行の体験を題材として、演劇を作り、発表する。

 これらの取り組みについて中村教諭は「非認知スキルは、学力の3要素における『主体性・多様性・協働性・学びに向かう力・人間性』にあてはまると考えられますが、可視化が難しく、どのように育成し、どのように評価すれば良いのか、学校現場においても大きな課題となってきました。PAや演劇ワークショップはその育成方法として有効であると考えています。今後はその評価手法を研究することが、より良いプログラムを実施する上で重要になります」と語る。

 中・高教育では、学力向上に劣らず、人格教育も重要だ。PAへの着眼は、その意味で示唆に富んだ取り組みであり、今後が注目される。

 (文・写真:上田大朗 一部写真:海城中学高等学校提供)

 海城中学高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

無断転載禁止
780736 0 海城中学高等学校 2019/09/09 05:21:00 2019/09/10 09:39:41 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/09/20190905-OYT8I50007-T.jpg?type=thumbnail

会員校一覧

東日本 共学校ページTOP

── 女子校ページTOP

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

 


東京オリンピックパラリンピックオフィシャル新聞パートナー

ラグビーワールドカップ

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
The Japan News
発言小町
OTEKOMACHI
ささっとー
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ