コロナ禍を「奇貨」として教育をグレードアップ…海城

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 新型コロナウイルス対策の休校中、多くの学校でオンライン授業が行われた。海城中学高等学校(東京都新宿区)では、早くも3月の段階で遠隔指導の方針を固め、準備を進めて4月14日から実行に移した。それが可能だったのは、5年前から整備に取り組んできたICTインフラがあったからだという。遠隔指導の導入をリードした「ICT教育室」室長に話を聞いた。

ICTインフラの蓄積が休校期間中の指導を可能に

 「今回の休校対応では、2015年度から整備を進めてきた学校のICTインフラが、タイムリーな形で役立ちました」と、校長特別補佐である中田大成ICT教育室室長は話す。 

 中田室長によると、同校のICT教育は1991年の学校設立100周年を機にスタートした学校改革の一環だ。「新しい学力」の養成を目指す探究学習、「新しい人間力」を養成するための体験プログラムの導入、グローバル教育の推進などに続いて、2010年代に入って、特に注力してきたものだという。

授業研究や教材作りに使われる「ICT LAB」
授業研究や教材作りに使われる「ICT LAB」

 16年度に、学校のICTインフラ整備や活用法の開発などに携わる「ICT教育部」が発足し、前年度から始めた全教室への電子白板とWi-Fi設備の設置を完了する一方、全教員にiPadを配布し、教員が授業研究や教材作りを行う「ICT LAB」を設置し、学校外の専門家を支援員に招いてICT授業を実施し始めた。翌17年度には中3全生徒にiPadを配布して、e-ポートフォリオの記録練習も開始。さらに18年度には、学内情報管理や教職員間の情報共有プラットフォームとしてOffice365を導入するなど、矢継ぎ早にICT教育の環境整備が進められてきた。

 「現在、高校生全員がiPadを用いて授業や自宅学習を行っています。こうした環境がベースにあるため、休校期間の指導体制も比較的スムーズに立ち上げることができました」と中田室長は説明する。

無理のない遠隔指導のために踏んだ三つのステップ

 同校が休校措置を取ったのは3月6日だった。もともとインターネットを介した春休みの課題プリント配布を予定していたため、学年末までは、学校のHPから課題を配布して自学自習させたという。

 中田室長は、この時点で休校期間延長の可能性も高いと考え、インターネットを介した遠隔学習指導を念頭に、3月いっぱいは情報収集を行い、緊急事態宣言が出されると言われ始めた3月末に、新学期を4月14日からと定めて遠隔学習指導に踏み切ることを決めた。

 「全教員に『生徒のためを第一に考え、できることを精いっぱいやりましょう』と伝えて価値観を共有し、2週間かけて準備を行いました」

 まず、教員のICTリテラシー向上と指導手法を構築するため、Office365のTeamsの機能を使って、授業の形式や教材の作り方、配布方法などについて教員間で情報交換や教え合いを行ったという。

 その中で、遠隔指導に使用するICTプラットフォームについては、サーバーの容量やセキュリティー、また、機能の一部をすでに教員が使い慣れているということなどから、Office365を使うことになったという。

 遠隔学習を始めるにあたっては、生徒が無理なく移行できるように三つのステップを計画したという。

教員たちが熱心に作成した授業動画
教員たちが熱心に作成した授業動画
遠隔指導による学習は、オンデマンド方式を中心に進められた
遠隔指導による学習は、オンデマンド方式を中心に進められた

 第1ステップは4月14日から1週間とし、まず生徒にOffice365の操作に慣れてもらおうと、春休みでの対応と同様にWEBを介して課題や学習資料を配布した。ただし、テキストデータだけでなく音声データや授業動画も合わせて配信している。

 翌週からの第2ステップでは、生徒側からもファイルを送信させたり、Formsを使ったりして教員とやりとりする双方向配信・受信方式にステップアップした。

 5月の連休明けに始まった第3ステップでは、ライブのオンライン機能を朝のホームルームや個人面談で活用し、生徒たちの規則正しい生活の保持やメンタル面のフォローに役立てた。また、オンライン授業は、少人数の選択授業や希望者参加の質問会で試行的に実施された。

 遠隔指導は基本的に、教員が授業の動画や関連資料、小テストなどをクラウド上に上げ、生徒は都合の良い時間にそれを見て学習を進め、テストの解答や質問などを教員に返送するオンデマンド方式を中心にして行われた。

 授業動画については「何度も再生できるので分からない所を確認しやすい」「実際の授業と変わらない」、教材も「要点を太字で強調してあり、画像も多くて理解しやすい」など、生徒から好評を得たそうだ。Formsを活用した小テストも、「間違えた箇所には解答編で細かいアドバイスが書いてあり、復習に役立った」という声があったという。

 教員たちも積極的で「生徒が自習時に感じた疑問を集約し、まとめて解説する動画を作った教員もいました」と中田室長は話す。教員たちはTeamsのコメント欄を通して生徒の生活上の相談に乗ったり、動画で「オンライン学年通信」を作ってメッセージを送ったりして、生徒たちのモチベーション維持にも心を砕いたそうだ。

コロナ禍の経験から見えてきたICT教育の方向性

「整備を進めてきた学校のICTインフラが、タイムリーな形で役立ちました」と話す中田ICT教育室長
「整備を進めてきた学校のICTインフラが、タイムリーな形で役立ちました」と話す中田ICT教育室長

 同校では6月1日に入学式が行われ、翌々日から分散登校が始まった。取材に訪れた6月25日の段階では、月水金と火木土の交替で1クラス20人ずつが登校し、6時間授業を行っていた。授業の進度が通常の半分になってしまうため、教員によっては休校日用の予習課題をネットで配信し、登校日にはそれを踏まえて反転授業を行う工夫をしているという。

 中田室長は、「今回の一斉休校では、学年・教科の担当者任せになった学校も多いようですが、本校は方針を明確に打ち出し、意思統一したことで、学校全体が組織的に動くことができました」と評価する。「教員と生徒のICTリテラシーの底上げにつながったのも良かった。当初、教員たちの不安は大きく、私も正直『できるのか』という思いはありましたが、想定以上の成果が得られたと思います」

 中田室長は今回の経験を通して、同校のICT教育の方向性が見えてきたと言う。「例えば、学校授業と自宅学習のハイブリッド化です。個別の知識・技能の習得はICTデバイスとEdTechを活用した自宅学習へある程度シフトする。負担が減った分、教員は学校でのグループワークや探究学習、体験学習の充実に力を注ぎ、思考力・判断力・表現力の高次認知能力や主体性・多様性・協働性といった非認知能力の養成をより効果的に行うことができるのではないでしょうか」

 同校は4月には政府の「GIGAスクール構想」の助成申請を行い、2学期から中学生にもノートPCを1人1台配布することになったという。「より高度なICT教育に全校で取り組めるとともに、懸念されるコロナ第2波にも、より万全な形で対応できるでしょう。コロナ禍を奇貨と捉え、教育の更なるグレードアップに役立てていきます」

 (文・写真:上田大朗 一部写真提供:海城中学高等学校提供)

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1329265 0 海城中学高等学校 2020/07/10 05:21:00 2020/07/10 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200708-OYT8I50062-T.jpg?type=thumbnail

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