多彩なテーマ、将来につなぐ高1「課題研究」…東京女学館

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 東京女学館中学校・高等学校(東京都渋谷区)では、高校1年の生徒全員が「課題研究」に取り組んでいる。生徒たちは1年間かけて関心のあるテーマを掘り下げ、3000字以上の小論文にまとめる。最先端科学やグローバルな課題から身近なファッションまでテーマは多彩だ。自分や社会を見つめ直し、将来の進路を考えるきっかけにもなっているという。

羽を観察し、チョウへの地球温暖化の影響調べる

標高が低く気温が高い採集地(上)ほど、羽の黒い模様が小さかった
標高が低く気温が高い採集地(上)ほど、羽の黒い模様が小さかった

 高校2年のある生徒は、東京都心では珍しく森が広がる世田谷区の一角で育った。「家の裏にはクヌギなどの木立があり、カブトムシもいます。小さいころから網を手に虫を追いかけていました」。昆虫好きなこの生徒は、最近、本来は温暖な地方に生息するチョウを、東京で見る機会が多くなったという話が気になっていた。

 文献を調べると、戦前の1940年ごろまで九州以南に生息していたナガサキアゲハが、冬の気温上昇に伴い生息域を北上させ、2003年には東京都千代田区の北の丸公園で初めて確認され、今では普通に見かけるチョウの一種になったことなどを知った。

 「地球温暖化の影響がチョウにも及んでいるに違いない」。そこで理科の教師にも手伝ってもらい、独自の観察に取り組んだ。高校1年だった昨年5月、母親の車で山梨県の山奥に分け入り、標高680メートル、900メートル、1040メートルの3地点で、アゲハチョウの一種ウスバシロチョウを採集。持ち帰って調べると、標高が低く気温が高い採集地ほど、羽の黒い模様の部分が少ないことが確認できた。

 「このまま日本の気温が上がり続けたら、チョウの姿形も変わってしまう。便利な生活を求める人間の身勝手さのために、生き物たちが苦しんでいる様子が目に浮かびます」。この研究成果は「人間の活動によるチョウの形態変化」のタイトルで小論文にまとめられた。

最先端科学からファッションまで3000字超の論文に

今年3月に開かれた「高1課題研究 優秀作品発表会」
今年3月に開かれた「高1課題研究 優秀作品発表会」
課題研究の成果などを語る浦田延子教諭
課題研究の成果などを語る浦田延子教諭

 東京女学館では、高校1年の生徒全員が1年間かけて、自分の興味あるテーマについて調べ、3000字以上の小論文にまとめる「課題研究」に取り組んでいる。

 生徒の関心や発想の広がりを示すように、「課題研究」のテーマは多彩だ。人工知能(AI)やゲノム編集などの最先端科学。東京五輪、子供の虐待、高齢化など現代日本の話題。また、世界の水問題やイスラム過激派などグローバルな課題。さらには、手軽な価格で人気のファストファッション、手の甲を覆うほど袖口が長い「()え袖」など女子高生らしい最新流行のテーマも目立つ。

 「将来の職業と結びつけたり、自分の悩みや性格について考えたり、学術的にも社会問題としてもテーマは多岐にわたっています」と、高1学年主任を昨年度務めた浦田延子教諭は話す。

 高1の「課題研究」は、実は中学3年から準備学習をスタートする。「プレ課題研究」として中3の2~3学期に、テーマの設定、情報の収集・取捨選択、小論文の構成・執筆という一連の流れを事前におさらいするのだ。チョウの研究をした生徒が中3のときは、「学校給食」が共通テーマとして与えられ、1000字前後のミニ小論文を全員が作成する練習をした。

 そして高1になると、自分の具体的なテーマ候補を考え、絞り込んでいく。中高の教諭全員がアドバイザーとして、テーマ内容に沿って社会や理科、音楽など教科ごとに生徒3、4人に1人ずつ担当に付く手厚さだ。参考文献、実験・観察の予定、文章構成などをまとめた研究計画表を6月に提出し、夏休みに下書きを作成。さらに担当教諭らと見直し、冬休みに小論文を完成させる。

 「1年がかりでテーマを掘り下げ、論文にまとめる作業を通して、自ら問題を解決する力が育っていきます。本校が掲げる『高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成』という教育目標にも、しっかりと結びついています」と浦田教諭は話す。

「ブラック企業」テーマに立ち向かう戦略も提示

 チョウの小論文は昨年度、高1の生徒約230人の中で、最も評価の高い優秀作品2編に選ばれ、3学期終わりの今年3月、校内で開かれた「高1課題研究 優秀作品発表会」で、研究した生徒自身がスクリーンを使って発表した。

発表会でブラック企業への対抗策を説明する生徒(左奥)
発表会でブラック企業への対抗策を説明する生徒(左奥)

 この発表会では、優秀作品2編のほかに、奨励作品3編も紹介された。その一つ「ブラック企業に負けないために」の題名で小論文をまとめた現在高校2年の生徒は、「自分の将来を意識し、仕事とは何だろうと考える中で、ブラック企業で働く若者の問題に突き当たりました」と話す。

 残業代不払いやパワハラなどが横行するブラック企業だと気づいても、なぜ辞めずに、心身がボロボロになるまで働くのだろうか――。そんな素朴な疑問から出発し、文献を調べ、ブラック企業の巧妙な手口や法制度の問題点などを浮き彫りにした。そのうえで「会社の言うことは疑う」「専門家を活用する」など、ブラック企業に若者が立ち向かうための戦略も提案した。

 「私たち高校生にとって就職は遠い将来の話ではなく、ブラックバイトという言葉もあります。過労自殺などから身を守るためにも、私の研究を役立ててもらえたら」と話した。

「課題研究」は「私の原点」、進学進路につなげる卒業生ら

 高校1年の生徒たちは毎年5月、2泊3日の箱根研修旅行に出かけ、そこで全員が自分の「将来の夢」について3分間スピーチをするのが恒例だ。そのタイミングとも重なり、「課題研究」の取り組みは、卒業後の進学や進路と結びつくケースも少なくないという。

 浦田教諭によると、ある卒業生は「日本の少子化」について「課題研究」に取り組んだことがきっかけで、助産師になる夢を抱き、昨年、慶応大学看護医療学部に進学した。また、国立の研究機関で医療倫理学の研究を続けている30代の卒業生は、「脳死・臓器移植」をテーマに選んだ高1の「課題研究」が「自分の原点になっている」と振り返ったという。

 チョウをテーマに「課題研究」を行った生徒は、「大好きな昆虫の勉強はずっと続けていきたいと思います」と話す。その一方、ケガのため6歳から続けている競泳の練習を休まなければならなくなったとき、リハビリのトレーニング法などを教えて励ましてくれた医師の存在が忘れられないという。「今は医師になることを夢見ています」

 「『課題研究』を通して、生徒たちは自分自身や社会を見つめ直し、自分の将来についてもより深く考えるようになります」と浦田教諭は話す。書き上げた小論文やその作文技術は、実際にAO入試などで大学進学にも大いに役立っているという。

 10代半ばの多感な時期の少女たちが、自分のテーマを大切に温めながら過ごした日々は、きっと将来どこかで生きてくるに違いない。

 (文・写真:武中英夫 一部写真:東京女学館中学校・高等学校提供)

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631493 0 東京女学館中学校・高等学校 2019/06/11 16:42:00 2019/06/12 16:29:03 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190611-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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