【特集】国際化の時代に「有為な人」を目指して…淑徳与野
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尼僧の手によって創立された淑徳与野中学・高等学校(さいたま市)は、仏教精神に裏付けされた「人間教育」と自ら学ぶ姿勢を重んじる「進学指導」を教育の柱としている。僧侶でもある里見裕輔校長による講話の授業を取材するとともに、グローバル時代に対応した国際教育に関する考えなどを聞いた。
人間教育として校長が座禅を教える

淑徳与野中学・高等学校は、1892年に尼僧の輪島
「本校は校祖・輪島聞声先生の『進みゆく時代のなかで、有為な人になれ』という教えに基づき、『進学指導』と『人間教育』を教育の両輪としています。両者は密接に関連しており、進学もその後の学問も、しっかりした心構えがなければ成果は出ません。また仏教校として、生きとし生けるものの命を尊ぶ心も身に付けてほしい。そのサポートを行うのが人間教育です。さらに現代に適応する国際教育を加え、さまざまな取り組みを行っています」と、里見校長は語る。
同校の「人間教育」の特色は、創立以来の仏教の精神を授業や学校生活の中に生かしている点にある。その中心となるのは、週に1コマ行われる同校独自の授業「淑徳の時間」だ。里見校長を含め、僧籍にある5人の講師が担当し、生徒にさまざまな講話を行う。
「狙いは、生徒によりよく生きるためのヒントを与えること。カリキュラムや内容は各講師に任せています。僧侶ですから『一期一会』『不動心』など仏教由来のテーマも多いですが、宗教の話は決して押し付けにならぬよう、紹介にとどめています」

取材に訪れた6月18日は、里見校長による「淑徳の時間」の授業が中学1年生に対して行われた。この日のテーマは座禅。38人の生徒がジャージー姿で30畳ほどの和室に集合していた。
里見校長は、前任校時代に曹洞宗大本山の永平寺(福井県)で行った体験合宿の話を紹介しながら、座禅について語った。よく通る太い声で、合宿に参加した生徒やいかめしい僧侶の様子、未明から始まる修行の一日などについて語り始めると、生徒たちはおしゃべりを止め、すぐに興味津々の様子。時には冗談や物まねも交え、教室を爆笑させる語り口は講談や落語のようだ。最後に校長は「心を律し、集中する時間は現代人にも必要」とまとめ、「もう時間がないけど」と言いながら各生徒に座禅用の
「後日、試験前や悩みがある時など、『ちゃんと座禅をやってみたい』と自主的に教わりにくる生徒もいます。他にも、心を律する方法として写経なども紹介しています」

学校行事の中にも4月の花まつり、7月のみ
「平和教育の入り口でもありますが、基本的には上質な作品を楽しむ時間にしたい。豊かな感性を持って明るく生きることが、命や平和を大切にする心の育成につながると思っています」
自立的な学習のためにPDCAサイクルを採用
同校が重んじているもう一つの教育「進学指導」について見てみよう。同校は40年ほど前から、進路希望別にクラス編成する「類型制」を高校に導入し、英・数・国の授業数のウェートを高めるなど、進学校としての仕組みを整えてきた。現在は教科によっては中2で中学の内容を終える先取り学習や、試験後の指名制サポート授業なども行っている。
こうした制度の充実とともに力を入れているのが生徒の自主的な学びだ。里見校長は「ただ『教員が教える』だけでは向上に限界があります。早いうちに『自ら学ぶ』姿勢に切り替えることが重要です」と強調する。
「自ら学ぶ」姿勢を作るために同校が取り入れたのは、企業が生産管理に用いる「PDCAサイクル」の考え方だ。1年間を定期試験ごとに五つのステージに区切り、ステージごとに学習目標(Plan)を立て、行動し(Do)、結果を振り返り(Check)、うまく行かなかった部分の改善(Action)を行う。それらを同校オリジナルの個人用ダイアリー「MY PLAN」の専用ページに書き込み、確認しながら学習を進める。ダイアリーは毎週担任が目を通し、夏休みの前には3者面談で休み中のPDCAについて話し合うという。自分で決めた目標を逐一確認することで、自律的に学習する力を付けさせようという考えだ。
「自ら学ぶ」姿勢をさらに後押しするのが、中学で行う「創作・研究」。各生徒が自分の好きなテーマを設定し、研究方法などについて担当教員のアドバイスを受けながら1年間かけてまとめ、2月の「芸術研究発表会」で全校生徒の前で発表する。
「自分の関心事なので、調べ学習の域を超えた面白い作品が出てきます。例えば、歴史に詳しい生徒による『淑与野に城を建てたなら』という発表では、学校敷地の地理を踏まえて、どの棟を天守閣にし、堀はどう通すなど細かく考察した設計図を披露して、皆を驚かせました。他にも、好きなアイドルをマーケティング的に分析してもっと売れる方法を提案したり、空気抵抗の理論に基づいて模型飛行機を製作したりするなど、レベルが高い。毎年楽しみです」
国際教育で語学を磨き、精神的に成長する

最後に、時代に適応した国際教育の取り組みはどうだろう。里見校長は「海外に身を置いて文化や伝統、習慣、言語などを自ら体験し、他の価値観に出合って良いところは吸収する。また自分や日本を見つめ直す契機にもなるはずです」と話す。
中2で行う台湾研修旅行では現地の姉妹校を訪ね、中1の土曜講座で学んだ中国語を使って会話に挑戦する。高2で行う約1週間のアメリカ修学旅行では、3泊4日のホームステイを通して現地の暮らしに触れる。また、国際教育に力点を置いた「インターナショナルコース」で高1から高2にかけて実施する約3か月間の海外語学研修では、一人一人別の家庭に宿泊し、自主的な交流を促す。「1人ずつアメリカの家庭に入るインパクトは特に大きいようで、保護者からも『精神的にタフになった』『何でも自分でやるようになった』との声をいただいています」
高校では、世界7か国の姉妹校・提携校と連携した希望制の国際交流プログラムが多数用意されている。1週間から3週間の語学研修や、半年あるいは1年間の留学など多彩なプログラムに、毎年40~50人の生徒が参加している。また、海外姉妹校から約1週間の短期語学研修で来日する生徒も毎年10~20人受け入れており、同年代の外国人と対話・交流を行う機会は多い。
こうした多くの交流の機会を生かす、実践的な英語教育にも力を入れている。2年前から授業にオンライン英会話を導入した。中学各学年で週に15分受講し、4技能に磨きをかけている。英検対策にも力を入れ、中3で全員準2級、高1で2級の取得を目指しているという。
淑徳与野の生徒たちは、海外研修を通して精神的にたくましく成長し、国際交流の中で実践的な英語力を磨いている。「国際教育は、人間教育であるとともに進学教育でもあります」という里見校長の言葉にうなずかされた。
(文・写真:上田大朗 一部写真:淑徳与野中学・高等学校提供)
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