柔道家の校長が語る「自主性」育む環境…佐久長聖

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 佐久長聖中学・高等学校(長野県佐久市)は、おしゃれを楽しめる私服での登校日や、ノーチャイムの試みなど、生徒の「自主性」を育む環境作りを行っている。柔道家として五輪メダリストらを育てた経験から、「押しつけず」「本人のやる気をじっと待つ」と語る佐藤(やすし)校長に、教育への思いや、生徒と向き合う日々について聞いた。

自分流おしゃれ「カジュアルデー」、選べる楽しさ

「カジュアルデー」にお気に入りの私服で登校する生徒たち
「カジュアルデー」にお気に入りの私服で登校する生徒たち

 佐久長聖中学校の朝の通学路は、毎月1回、カラフルな服装の生徒たちでにぎわう。この日は制服ではなく、自分で選んだ私服で登校してもよい「カジュアルデー」だ。高校生は月に2回。佐藤康校長が、就任1年目の2015年9月からスタートさせた。

 中高生としてふさわしい身だしなみを考えつつ、さり気ない自分流のおしゃれを楽しめるこの日は、「子供たちにとても好評です」という。佐藤校長自身も4年前の「カジュアルデー」初日は、迷った末、ノーネクタイで紺のコットンパンツ、ピンクのボタンダウンのシャツ姿で登校した。

 「前の日に『どの色の服が似合うかな』とか『スカートの丈はどうしよう』とか考えることは、生きる活力につながります。自分で選べることの大切さ、楽しさを感じてほしいんです」

 そんな生徒の自主性を促す試みとして、期末試験中などを除いて、校内でチャイムを一切鳴らさない「ノーチャイム」制も、佐藤校長が取り入れた。「チャイムが鳴ってから動いていては、受け身で出遅れてしまう。次は何をしたらいいのかと準備し、1歩先を見る姿勢を身に付けてほしい」と期待する。

部活で受けたしごきへの反発心が教育の原点に

 「生徒の自主性を大切にする」という佐藤校長の教育の原点は、出身地・仙台の中高時代、野球や柔道に励んだ運動部でのほろ苦い思い出にさかのぼる。「先輩にバットで小突かれ、正座させられる」といったしごきを受けたり、のどが乾いても「水を飲むな」と指導者に命じられたりしたという。

 「それが当時の風潮だったとはいえ、そうした理不尽さへの反発心が、自分が教師になったとき、『押しつけず、楽しくやらせたい』という思いにつながりました」と話す。

 大学卒業後は、教員だった父母の背中を追うように開校2年目の江戸川学園取手高等学校(茨城県取手市)の新任教師に。同校の中高一貫化にもかかわり、12年勤めた後、「別の世界も見たい」といったん教育現場を去り、すし店の経営、ホテルの接客などを体験。その後、渋谷教育学園渋谷中学高等学校(東京都渋谷区)の前身の女子校で、教壇に戻るという異色の経歴を持つ。

 高校2年から長年続けてきた柔道は五段。60歳を過ぎた最近は「黒帯を締めて畳に立つことは少なくなった」というが、保健体育の教師のかたわら、中高の柔道部の指導には一貫して打ち込んできた。

メダリスト生んだ柔道の指導法が勉強にも通じる

「自主性」を育む環境づくりについて語る佐藤康校長
「自主性」を育む環境づくりについて語る佐藤康校長

 前任の渋谷教育学園渋谷中学高等学校では、柔道部の総監督として、同校を全国有数の強豪に育て上げ、のちに五輪や世界選手権のメダリストとなる中村美里、朝比奈沙羅らを鍛えた。その手腕が認められ、今年4月、全日本選手権が開催された日本武道館で、全日本柔道連盟から優秀指導者表彰を受けた。

 佐藤校長は以前から、つらくても一日も練習を休まないのが美徳とする風潮を疑問視していた。「やる気が出ない日は誰にでもあります。それでも無理にやれば、好きな柔道も嫌いになるし、けがにもつながる。そういう時は『遠慮なく休め』と言って帰しました」と語る。

 もちろん、休み過ぎれば稽古不足になり、試合には勝てない。「そこで本人が悔しくて『強くなりたい』と思う。その瞬間、きつい稽古にもへこたれなくなる。力が付いてくれば楽しくなる。好きでやるから休まない。そうなれば、しめたものです」

 本人のやる気が出るのをじっと待つ。柔道から得た教訓は、勉強の指導にも通じるという。「気が乗らない子に無理に勉強をやらせて、志望校に合格できたから結果オーライというのは、本来の教育ではありません。子供が自分から自然に机に向かう空気を作る。それが私たちの役割です」

 佐藤校長はよく生徒会のメンバーを校長室に招き入れ、悩みを聞くという。校長就任当初、夏の文化祭「聖祭」を前に受けた相談は「エレキギターを弾きたい」という要望だった。同校では長年、文化祭でのエレキ演奏は禁止というのが暗黙のルールで、学校側も首を縦に振ってこなかったという。

 「なぜダメなのか、まず調べてみよう」と佐藤校長に促され、生徒たちがベテラン教師に経緯を聞くと、「エレキはうるさいから」という理由で禁止になったことが分かった。それなら「どのくらいのボリュームなら許されるか」と、生徒たちは試験演奏をして影響を調査。近隣住民の了解も得て、ほどよい音量を提案した。その年から、文化祭のエレキ演奏にGOサインが出たという。

 「頭ごなしにノーと言えば、子供たちは反発するし、教師との関係もそこで終わってしまう」と佐藤校長。こうした相談を持ちかけられた時は、「どうしたらできるか考えて」と生徒に問いかけ、課題や解決策をまとめた企画書を作らせるという。その結果、「たとえ実現できなくても、そこまですれば子供も素直に納得する。社会の一端にも触れ、賢くなっていくのです」と話す。

 校則やルールは押しつけにもなる。「ガチガチに決まりを作ったら、文句を言われないように、適当にやり過ごす人間になってしまう。一番成長する中高生の時期を『我慢の6年間』にしたら、もったいなくて申し訳ありません」と佐藤校長。常に生徒の自主性を生かすという姿勢を貫いているのだ。

粘り強さや生きる知恵、各界の第一人者に学ぶ

生徒の自主性を生かし、盛り上がる文化祭
生徒の自主性を生かし、盛り上がる文化祭

 佐久長聖は、浅間山や八ヶ岳などの山々を望む佐久盆地にある。1964年に開校した佐久高校を前身とし、31年後の95年に佐久長聖中学校を併設して現在の姿になった。以来、長野県初の中高一貫校として歩んできた。

 全国高校駅伝で優勝2回、春夏合わせて甲子園に9回出場など、スポーツでの活躍が全国的に知られる一方、東大や京大、信州大などの国公立大、早稲田や慶応、同志社などの難関私大に毎年続々と合格者を出し、勉学の面でも着実に力を伸ばしつつある。

 「何事も自分が『好き』と思うことが出発点です。そして、将来どんな道に進みたいか。それを見つければ、おのずと目標が定まり、踏ん張れます」と佐藤校長は話す。その「やる気」のヒントにしてほしいと、特に力を入れているのが、各界の第一人者らを招いて人生経験を語ってもらう講演会だ。

 柔道の全日本男子監督の井上康生(こうせい)さん、箱根駅伝4連覇の青山学院大陸上部監督の原(すすむ)さんなど、これまで多彩な人たちを迎えた。「挫折したとき、どう乗り越えたのか。その場面を話してほしいと頼んでいます」。困難を前に諦めない粘り強さ、そして、生きる知恵を学んでほしいからだという。

 同校は、学びの柱となる教育環境の充実にも取り組んでいるという。例えば「生徒寮」は、首都圏など県外からも多くの生徒を受け入れ、自立心などを養う場となっている。

 「多くの親は、子供を思い通りに育てようとします。でも、それでは、つい先に余計な手を差し伸べてしまう。そうではなく、まず子供にヒントを与え、考えさせる。その答えをじっと待ち、それに対しアドバイスをする。『育てる』のでなく、その子が『育つ』ための環境を作るんです」

 ちょっといかつい顔つきの佐藤校長は、そう語ると顔をほころばせ、優しげなまなざしを見せた。

 (文・写真:武中英夫 一部写真:佐久長聖中学・高等学校提供)

 佐久長聖中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

無断転載禁止
765204 0 佐久長聖中学・高等学校 2019/08/28 05:21:00 2019/08/28 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190827-OYT8I50005-T.jpg?type=thumbnail

会員校一覧

東日本 共学校ページTOP

── 女子校ページTOP

西日本ページTOP

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
10000円9000円
NEW
参考画像
クーポンご提示のお客様に粗品プレゼント
NEW
参考画像
4200円3780円
NEW
参考画像
1560円1300円

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
The Japan News
発言小町
OTEKOMACHI
ささっとー
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
挑むKANSAI
読売新聞社からのお知らせ