フレキシブルな教育空間が柔軟な知性を養う…追手門学院

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 追手門学院中学校・高等学校(大阪府茨木市)の新校舎が今春、完成した。多様な学びに対応するフレキシブルな学習空間が特長だ。フロア全体を一続きの大空間のように使うこともでき、学年やクラスの枠を超えた教育活動にも適しているという。高1生453人全員が参加する「探究授業」の様子から、新校舎が可能にした新しい授業風景を紹介する。

一続きの大空間を思わせる新校舎

大型客船のような新校舎を背に立つ木内校長
大型客船のような新校舎を背に立つ木内校長
壁がなくオープンなティーチャーステーション
壁がなくオープンなティーチャーステーション

 「いつでも、どこでも学べる」空間。社会科担当の浅野真一郎教諭によると、これが完成した新校舎のコンセプトだ。近年、座席を固定せず、働く席を自由に選べる「フリーアドレス」の会社が増えている。新校舎の設計構想が持ち上がった時に目指したのは、まさしくそのように、さまざまな学びの形がデザインできる空間だったという。

 大型客船のような外観を持つ4階建ての校舎は、大きく分けて三つに分かれる。北と南にそれぞれ、「Canal(キャナル)」と呼ばれるオープンスペースと教室を合わせた学習スペースがある。「Canal」と教室の区切り及び教室間の区切りは可動式の間仕切りなので、簡単に一体利用が可能だ。

 中央部分には「Port(ポート)」と呼ばれる空間がある。1階の「エントランス(玄関)」には「SDGs(持続可能な開発目標)」などテーマ性のある本が並び、まるで大型書店のように見える。壁にはめ込まれたディスプレーには、ニュースや同校の歴史、生徒たちのプレゼンテーションの様子などが常に流れている。2階から上には本や映像、AV・ICT機器が整備されており、探究学習の拠点になっている。また、「Port」には職員室とは別に「Teacher Station(ティーチャーステーション)」があり、先生たちは生徒たちの学習を常に見守り、サポートしている。

 これら三つの空間は、各階でフロア続きとなっており、一つの大きな空間のように自由に行き来することができる。

 「教室移動用の廊下など、昔から当たり前のようにあったものを一度取っ払い、新たな学習スタイルに必要な環境を一から模索しました。先進的な取り組みを学ぶため関東の学校・施設を見学し、教師間でも未来の教育、そのための校舎設計について議論を重ねました」と浅野教諭は振り返る。「フレキシブルな空間を活用した新たな学びを経験する中で、生徒たちは主体性と順応性が養われます。これからの世の中がどのように変わっても社会で柔軟に対応していけるのではないかと思います」

探究授業で生涯にわたって学び続ける姿勢を育成

学年全員で取り組む「探究授業」
学年全員で取り組む「探究授業」

 この新しいコンセプトの校舎で実際にどのような学習が行われているのか。同校を4月27日に訪れ、高1の授業風景を取材した。学年の453人全員が参加する課題解決型プログラム「探究授業」だ。

 「探究授業」は生徒同士の協働的な学びから得られる知識や視点をアウトプットに結びつけるという実践的な取り組みで、同校ではこの「探究学習」を教育の核にすることを構想している。この授業では大きく1年間のテーマを設定する。今年のテーマは「パワー」だ。生徒たちは自分たちが「パワー」を感じる題材を探し、調べ学習を進め、作品化して発表する。

 この日、生徒たちはクラスをまたいで作った4、5人のグループに分かれて作業を進めていた。テーマはロケット作りやドキュメンタリー映画の製作などさまざまだ。

 「野菜が人に与えるパワーについて探りたい」を題材としているグループは、学校近くの農家から畑を借りて、ミニトマトなど糖度の高い作物を育てている。収穫した作物は11月の文化祭で学内販売する予定だ。同時に一般消費者向けにインターネットで販売するサイトを立ち上げるにはどうするかなど、起業の可能性についても調べていた。

 「人にパワーと癒やしを与える音楽」を題材に取り上げたグループは、文化祭で音楽フェスを開催することを目標に、「楽しませる」チームと企画・運営チームとに分かれて作業していた。「楽しませる」チームは、自分たちで作曲したり、既存の曲をアレンジしたりして、音楽活動に集中。企画・運営チームは外部からゲストを招くなど、フェス全体をどうコーディネートしたらいいかを研究していた。

 先生たちは時折、「Canal」に設置したホワイトボードを使い、各グループのリーダーに指示を与え、活動をサポートする。リーダーたちは各々のグループに戻って指示を伝達し、互いに共有しては作業を進める。先生も生徒も授業中は常に、教室と「Canal」からなるオープンスペースを動き回っていた。

 浅野教諭は「本校では各教科でのリフレクション(振り返り)によって学習過程や理解度を自己点検しています。そして探究授業では、主体性や協働して考える力、課題発見解決力を養います。この学びはもちろん新しい大学入試に対応していますが、未来を生きる子供たちに、生涯にわたって学び続ける姿勢を身に付けさせることも大きな狙いです」と語る。

20年、30年先にもフィットした教育環境

共有スペースのいたるところに貸し出しできる書籍が置かれている
共有スペースのいたるところに貸し出しできる書籍が置かれている

 高1の生徒たち3人に新校舎の感想を聞いた。眞鍋(まなべ)聡良(あきら)君は「未来的なデザインでありながらも、床が木製なので温かみを感じます」という。角野(すみの)遥音(はるね)さんは「学校全体に壁が少なくて、先生や友人はもちろん、学びも含めていろんな垣根が低いように感じます」と話した。野々下(ののした)拓斗(たくと)君も「独立している図書室には入りづらい雰囲気がありますが、ここでは通りすがりに手に取って読めるので、本への親しみがさらに高まります」と言い、3人とも好印象を受けているようだ。

 「探究授業」を担当する英語科の池谷陽平教諭は、「新校舎では中学生から高校生まで学年の垣根を越えたグループを作って学ぶことも可能です。個性を尊重しながら多様性を受け入れるダイバーシティーを校内で実現することで、生徒一人一人に自尊心と自信を持たせたい。そして、人生をよりよく生きてほしい。これが私たち教員の大きな願いであり、教育目標です」と熱っぽく語った。

 この日の午後、同校は小学生の保護者を対象としたオープンキャンパスを実施した。来場した保護者たちは昨年の2.5倍に当たる120組320人に上った。

 校内を見学した茨木市の小学6年生の父親は「従来の学校には見られない開放感が印象的ですね。勉強の合間にリラックスできる空間があちこちにあるのも、多感な時期を過ごす子供たちにとって良い環境だと思います」と笑顔を見せる。母親も「これだけ空間がオープンになっているといろんな人たちが交流しやすいですね。教室の扉も可動式で、空間を効率的に利用していると思います」と高い評価だった。

 木内淳詞校長はオープンキャンパスの学校説明に先立つあいさつの中で、「今まで長い間行われていた知識注入型の教育は、早いスピードで変化しつつある現代社会に対応できません。抽象的な知識を、社会で活用できる知恵や未来を生きていく力に変えていくことが今、求められています。本校の新校舎は、そうした視点でデザインされており、時代にフィットした教育が実現できると確信しています。20年後、30年後の世の中にも、きっと柔軟に対応できると思います」と語った。

 開放的でフレキシブルな教育空間は、子供たちの知性や感受性にどんな影響を与えるのだろう。これからが楽しみだ。

 (文・写真:櫨本恭子)

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633668 0 追手門学院中学校・高等学校 2019/06/17 05:21:00 2019/06/17 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190612-OYT8I50054-T.jpg?type=thumbnail

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