【特集】デジタル音楽の作曲で「五感」を磨く探究授業…追手門学院

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 追手門学院中・高等学校(大阪府茨木市)は今年度、2学期の中1の「探究」授業で、ドイツの音楽ソフトウェアメーカー「Ableton(エイブルトン)」社のシステムを活用した作曲・演奏に取り組んだ。同校の探究授業では、「五感」を使った学びを通じ、生徒が自分を認識することを重んじており、デジタル音楽の制作もその一環だという。昨年12月22日、生徒たちが3か月がかりで制作した楽曲の発表を取材した。

自作のデジタル音楽を映像とともに発表

音楽制作ソフトの専用コントローラーを使いこなす生徒たち
音楽制作ソフトの専用コントローラーを使いこなす生徒たち

 この日、中1生全員57人は、校内のスタジオ「アトリエ ゼロ」に集い、3、4人でつくる18グループに分かれて、自分たちの制作した楽曲の演奏発表を行った。演奏に用いられたのは、「Ableton Live」という音楽制作ソフトをインストールしたパソコンと、「Ableton Push」という、このソフトの専用コントローラーだ。

 生徒たちは1グループずつ前に出て、設置されているブース内のスピーカーなどの機材に、それぞれのパソコンを接続すると、「Ableton Push」上の64個のパッドや周辺のスイッチ類を指で操作しながら、次々と自作の曲を演奏。さらに、自分たちの曲のイメージに合わせて制作した映像も同時にスクリーンに映し出した。

 曲の音源に使われているのは、コップに水を注ぐ音、ドアを開閉する音、包丁で野菜を切る音など、生徒たちの身の回りの音だ。それをマイクで拾ってオーディオインターフェースを介してパソコンに取り込み、「Ableton Live」で楽曲に編集したという。なかには、自らの叫び声を取り込んで、不安な内面を表現する大胆な試みもあった。

演奏発表では、曲調に合わせて自作した映像も映し出された
演奏発表では、曲調に合わせて自作した映像も映し出された

 宇宙や海をイメージした曲や、人生をテーマにした曲、ハッピーな気分になる曲などさまざまな曲が流れる一方、曲調に合わせて、宇宙人やオーロラ、泡が消えていく様などの映像が映し出される。映像は、生徒たちがWEB上で探したフリー写真素材や、プレゼンテーションソフトを使って制作したアニメーションなどだという。

 この授業を担当した探究科の池谷陽平教諭は、「こちらが想像していた10倍以上の出来栄えでした。前日までとは見違えるほど、楽曲を仕上げていました」と目を見張った。

 生徒たち自身も他のグループの発表を聞いて、「独特な雰囲気をそのまま生かして、しっかり表現していた」「音が重なっているのが格好良かった」「バラバラだった音が曲になると、こんなに心地いいものになるんだ」など、興奮気味の感想を言い合っていた。

 池谷教諭は「本校ではiPadを1人1台配布しています。最初に使い方を教えただけで、後は生徒自身でどんどん活用していきます。授業でも『これをします』と言うと、生徒は言われたことしか取り組みませんが、リミットを外すと可能性は無限に広がります。今回の授業でも、自由にやらせた結果、個性を発揮し、すばらしい作品をつくってくれました」と話した。

「自分について知る」というプロセスを重要視

「自己肯定感を高めるため、まずは『自分について知る』というプロセスが重要」と話す池谷教諭
「自己肯定感を高めるため、まずは『自分について知る』というプロセスが重要」と話す池谷教諭

 この授業は、池谷教諭がかつて、探究授業に特化したアメリカの私立中学「ミレニアムスクール」を視察した際、現地でコーディネーターを務めてもらったサルディ佐藤比奈子さんと、2020年に再会したのがきっかけだ。

 追手門学院はこの年、「ミレニアムスクール」と教育連携協定を結び、探究科を設立した。中1の1学期は「視覚」をテーマに、写真や動画、絵などの対話型鑑賞などに取り組んだ。2学期は「聴覚」をテーマに据えたが、インプットはできてもアウトプット、つまり発表する機会が少ないという課題が出てきたという。

 ちょうどその年の秋、サルディ佐藤さんもアメリカから日本に移住し、Ableton社のマーケティングリードを務めていた。そこで、池谷教諭は再会を機縁として、同社の教育プログラムを活用することにしたという。

 同校の探究科では、「DRIVE」と呼ぶ五つのマインドセット(物事の見方や考え方)を形成することを目指している。「DRIVE」は、Design(自分の人生を自ら設計する)、Reflection(振り返る)、Inquiry(知ろうとする)、Vision(未来を考える)、Empathy(自分だけじゃないと思う)という五つの言葉の頭文字からなっている。「DRIVEには、『自分の人生のハンドルは自分で握ろう』という思いも込めています。生徒には『とりあえず、やってみる』というマインドセットを身に付けてほしい」と池谷教諭は話す。

 さらに池谷教諭は、「探究科の最も大きな目標は、生徒たちの自己肯定感を高めること。そのため、まずは『自分について知る』というプロセスが重要だと考えています」と言う。「中1生はまだ自分で課題を見つける目を持っていません。自分を知るための『五感』を使い切れていないのです。『五感』を使って、自分をしっかり認識するために、Ableton社のプログラムは、大いに役に立つと思います」

 今回の授業の振り返りでは、「十人十色とは、まさにこのようなことだと思った」「みんなが楽しんでいるのを見て自分もうれしくなった」といった生徒の声が聞かれたという。「今回、生徒たちはグループでそれぞれの意見を取り入れて、一つの楽曲を作りました。自分の作品であると同時に、チームの作品でもあることを体感している様子が見受けられました。大きな成長だと思います」と池谷教諭は目を細めた。

探究授業「楽しい」「満足している」が100%

 同校の探究科では、どの学年でも学期末に、生徒にアンケートを取っている。池谷教諭によると、中1では、「探究の授業は楽しい?」と「探究の授業に満足している?」という設問に対し、それぞれ「そう思う」と「どちらかというと、そう思う」を合わせた回答が100%を占めている。また、「探究の学びに意味がある?」と「振り返りには意味がある?」という設問にも、「そう思う」と「どちらかというと、そう思う」を合わせた回答が、ともに98%に及ぶという。

 探究科の授業は今年度、1学期の「視覚」、2学期の「聴覚」に引き続き、3学期は「直感」をテーマに展開しているところだ。

 「これまで探究学習に取り組んできて、プログラムも完成しつつあります。これからは、この探究学習の成果をいかに他の教科と結びつけていくかが求められます。探究科で養ったマインドセットが生徒たちの学習に対する原動力となり、自分の好きなこと、実現したいことに向けて、主体的に自らの進路を切り開いてくれることを願っています」

 (文・写真:石上元 一部写真提供:追手門学院中・高等学校)

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