【特集】「体験」ベースに「自覚」を呼び起こす教育作り…上野学園

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 上野学園中学校・高等学校(東京都台東区)で今年度、都立の高等学校や附属中学校などで多年、教鞭(きょうべん)を執ってきた吉田(わたる)氏が新たに校長に就任した。吉田校長は、同校の伝統を引き継ぎながらも、探究的な学習や国際理解教育、ICTを活用した授業などを積極的に取り入れていく方針だといい、それらの教育を下支えするICT環境の整備にも積極的だ。就任直後に直面したコロナ禍への対応や、これから目指す教育について聞いた。

学校の環境を最大限活用する体験プログラム

「上野学園をさらに活気ある学校にしていきたい」と話す吉田亘校長
「上野学園をさらに活気ある学校にしていきたい」と話す吉田亘校長

 吉田校長は早稲田大学理工学部数学科卒。静岡の県立高校に赴任し、その後40年近く、都立高校や附属中学校で、多様な個性に向き合う教育を実践し、不登校、学力格差といった問題への対応など、さまざまな取り組みをしてきたという。「これまでの経験を生かし、上野学園をさらに活気ある学校にしていきたい」と意気込みを語る。

 吉田校長が重視しているのは、多様な体験の積み重ねだ。「本校の建学の精神は『自覚』です。それは、将来につながる自分の魅力や可能性を知ることですが、そのベースとなるのが体験です。その中で、数多く失敗を経験し、取り組む角度を変えたり、アドバイスを受けたりして、挑戦を繰り返す。そこから自分が見えてくるのです」

 吉田校長は「自覚」という精神を引き継ぎながら、探究的な学習や国際理解教育、ICTを活用した授業などを積極的に取り入れていく方針だという。

上野動物園を訪ねて自分なりの気付きを探す中1生たち
上野動物園を訪ねて自分なりの気付きを探す中1生たち

 特に探究的な学習を行ううえで、同校には「うってつけの環境があります」という。「学校周辺には『上野文化の(もり)』や浅草、アメ横など、日本の古今の文化や産業、商業を実地に見られる生きた教材がたくさんあります。本校ではそれを存分に活用して探究学習を行っています」

 中1、中2の探究学習は、学校周辺での取材活動「フィールドワーク」をベースに行われる。中1の「サイエンスプログラム」では国立科学博物館や上野動物園を訪ねて自分なりの気付きを探し、中2の「ソーシャルプログラム」では上野の街や秋の遠足で訪れる鎌倉などで社会が抱える課題を取材する。さらに、そこから仮説・調査・検証・整理・発表・評価へと続く「探究サイクル」を展開し、考える力の基礎作りを行うという。中3の「卒業研究」では、台東区にまつわる自由なテーマでグループ研究を行い、論文とスライドにまとめて発表する。

 国際理解教育でも「体験」を重視している。中1、中2の「Trip to Asakusa」では、浅草を訪れる外国人への英語インタビューに挑戦する。中2では福島県の「ブリティッシュヒルズ」でオールイングリッシュの環境を体験し、中3のイングリッシュキャンプでは外国人講師によるグループレッスンを受けて英語プレゼンテーションに挑戦する。

浅草を訪れる外国人への英語インタビューに挑戦する
浅草を訪れる外国人への英語インタビューに挑戦する

 「英語の練習という以上に、さまざまな外国人との対話は人間への理解を深めますし、伝わった時の自信やうまく行かなかった悔しさが、努力のきっかけにもなります」

 中学で音楽コース、高校では音楽科を設けている同校ならではの「体験」もある。「ひとり一つの楽器」と言われるプログラムだ。フルートやクラリネット、トランペットなど7種類の楽器から一つ選び、専門の講師に3年間指導を受け、中3でアンサンブル演奏を行う。

 「周りの音の強弱やタイミング、テンポを読み取って合わせるなど、さまざまなコミュニケーションが必要なのが音楽演奏です。一つの楽器に打ち込み、音楽を作り上げる活動は、自信や豊かな人間性を育てます」

 吉田校長は、こうした従来からの体験プログラムを互いに結びつけ、より高度な学びにステップアップすることも構想している。「例えば、現在の探究学習は地元地域を中心に行っていますが、グローバル教育を組み合わせればSDGs(持続可能な開発目標)への考察に発展させることができるでしょう。そのほか、教科授業や行事とのリンクも考え、高度な学びに結びつけたい」

ICTで一人一人個性に応える教育を

「生徒一人一人の個性に合わせた教育のプログラム化」を進めてきた研究開発部長の藤井亮太朗教諭
「生徒一人一人の個性に合わせた教育のプログラム化」を進めてきた研究開発部長の藤井亮太朗教諭

 これらの体験を重視した教育は、生徒1人1台iPad所持をベースとしたICT環境によって効率化されている。

 研究開発部長の藤井亮太朗教諭によると、同校は2014年に探究学習を開始すると同時に、iPadの配布や全館Wi-Fiの整備を進めてきた。現在は学校教育用クラウドサービス「Classi」を中心に情報共有やiPad活用の仕組みを作っており、プレゼンテーションアプリ「Keynote」や授業支援ツール「ロイロノート」などを思考の整理や意見交換、発表資料の作成に活用している。また、これらのツールを活用して情報のまとめ方、伝え方を学ぶ授業「プレゼンテーション」を中3で週1時間行っている。

 このほか、個別の生徒の習熟度に合わせて問題を提示できる「キュビナ」などの学習アプリも導入した。学習や活動の成果はClassiの個人記録に蓄積し、個別の習熟度の把握や対応に役立てているという。

 藤井教諭は、ICT整備の考え方についてこう語る。「導入当初から、『生徒一人一人の個性に合わせた教育のプログラム化』を目標に定めて整備を進めてきました。現在は教員のICTスキルや知見も蓄積されてきたので、今後は各授業で生徒の進度を個別に把握し、フォローできる仕組みを立ち上げたい。近く、いくつかのアイデアを実施に移す計画です」

オンライン学習で得たものを探究学習やグローバル教育に生かす

「オンライン授業の経験で得られたものは多い」と話す教務部主任の尾身和馬教諭
「オンライン授業の経験で得られたものは多い」と話す教務部主任の尾身和馬教諭

 新型コロナウイルスの感染拡大による一斉休校措置に対し、同校はこれまでに構築したICT環境を駆使して自宅学習の体制を整え、6月末までの休校に対応した。この期間も、生徒や学校にとって貴重な体験となったようだ。

 4月中は学校から配信する課題に各自で取り組ませ、自宅学習に慣れさせた。5月の連休明けからは「Zoom」によるライブ授業と「Classi」による授業動画の配信を加え、6時間授業に相当するオンライン学習プログラムを開始した。5月後半以降は生徒と教員の負担を勘案して1日4時間学習とし、放課後1時間をZoomによる質問タイムに充てて学習をフォローした。また、面談や保護者会もZoomで行ったという。

 教務部主任の尾身和馬教諭は、「オンライン授業の経験で得られたものは多い」と話す。「ライブ授業や授業動画の制作は普段の授業の見直しにつながり、各教員が必要なことを効率的に伝える工夫をするようになりました。また、iPadで授業前日に予習を行う反転授業の実施イメージも、オンライン授業を通して固まってきました」

 また、生徒がオンライン学習を前向きに捉える様子には、「さすがデジタルネイティブ」と感想を漏らす。「最初は不安だったようですが、すぐに慣れ、『時間の融通が利き、自分のペースで取り組める』という感想が聞かれました。質問の数が大幅に増えたのも良かったです。普段、発言が少ない生徒も授業後にチャットで質問してきたりして、1対1のやりとりが増えました。こうしたオンラインの利点を通常の授業でどう生かすかも考えたい」

 「全校でオンライン学習に取り組んで得られたことを、探究学習やグローバル教育にも生かしたいですね。さらに、試験や評価方法も含め、生徒の『自覚』を呼び起こす上野学園のICTを確立したい」と吉田校長は話す。「そして、上野の環境を活用し、豊かな体験を通して生徒のやりたいことを引き出し、応える教育を作っていきます。受験生の方たちもどんなことに出会えるか、ワクワクしながら来てください」

 (文・写真:上田大朗 一部写真提供:上野学園中学校・高等学校)

 上野学園中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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1460270 0 上野学園中学校・高等学校 2020/09/08 05:21:00 2020/10/21 15:46:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200907-OYT8I50032-T.jpg?type=thumbnail

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