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【特集】学校一丸でコロナの危機をチャンスに変える…横浜創英

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 横浜創英中学・高等学校(横浜市)は今春、都立中学の校長として教育改革に腕を振るった工藤勇一氏を新校長に迎えた。就任直後から厳しいコロナウイルス危機に直面したが、教員、生徒と一丸でチャレンジする中で、自らの教育方針である「自律した人づくり」のチャンスが芽生えてきたという。危機の終息後をも見据えた教育の展望について、工藤校長に聞いた。

世の中を肯定的に前向きに生きていける人を育てたい

 工藤校長は、数学教諭として山形県の中学に務めた後、東京都の中学校に赴任。その後、都教育委員会などを経て、2014年に千代田区立麹町中学校の校長に就任。生徒の自律を重視した教育改革に取り組み「宿題廃止」「定期テスト廃止」「固定担任制廃止」など、さまざまな改革を実行してきた。10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。』などの著書がある。

 ――横浜創英の印象はどうですか。

答えのない問いに向き合う学びとして取り組む「ワールドピースゲーム」

 外から見ていた横浜創英は、全国クラスの部活動や行事が盛んで、教員や生徒も熱心だと感じていました。また以前から、横浜創英の教員たちが、私の前任校である麹町中学での研修や講演に参加するなど、強い関心を寄せてくれていたことも知っていました。

 すでに本校では、「プロジェクト型学習」や「ワールドピースゲーム」といった、答えのない問いに向き合う学びを授業に取り入れていますし、「創学」と呼ぶ独自の総合的な学習プログラムを導入し、体験を通して中高6年間で生徒の潜在的な能力を引き出す授業を行っています。これらの取り組みの良い点を生かしながら、さらに時代にマッチさせることが、これからの私の仕事だと思っています。

 ――どのような教育を目指していますか。

 私自身の基本方針は、これまでと変わらず、まず世の中を自分の力で歩いていける「自律した人」を育てることと、いろいろな人の違いを認め「多様性を受け入れる力」を養うことにあります。言い換えれば、世の中を肯定的に前向きに生きていける人を育てたい。与えられた環境に不満を言うのではなく、当事者になって、自律的に行動できる人を育てることを目指しています。

 そのためには、まずは教員自身がその見本でなければいけません。そこで本校に赴任した4月1日、私は、この教育観を全教員に伝えました。新型コロナ危機への対応という避けることのできない大きな課題を目の前にして、まさに当事者として取り組む姿勢が全職員の中に確実に浸透してきていることを実感しています。

さまざまなオンラインの活用法が見つかる

 ――今、問題のコロナウイルスへの対策はどうしていますか。

オンライン授業への移行のため知恵を絞って話し合う教員たち

 就任後、喫緊の課題は新型コロナウイルスの感染防止対策でしたが、「できないと言わない」という意識を共有できたことが何より大きな一歩になったと思います。子供たちの生命を守ることを最優先しながら、より良い学習環境を整えるため、非常にスピーディーに動けていると思います。

 4月1日の会議では、全員で思いつく限り課題を挙げ、対策を考えて、担当を割り振りました。その席上では、本校のこれまでの努力も理解できました。会議の運びは非常にスムーズでしたし、衛生面、情報面など各分野に専門知識を持ったスタッフがおり、それを共有する(すべ)も持っていたからです。もともとICT(情報通信技術)環境の整備は課題だったのですが、生徒や教員が登校せずに学校を運営するにはオンラインに移行するしかないと結論付け、できることから整備を進めてきました。中学のホームルームをオンラインで開始する一方、高校では2者面談を始めました。さらに、これを横展開して4月中には全校45クラス1651人全員の生徒との面談を終えることができました。

 また、4月中旬には、この自粛期間は長期化すると判断して、保護者には5月7日にオンラインで学校を再開しますとアナウンスし、急きょ、Google社のグループウェア「G Suite」への移行作業に着手しました。ご家庭での端末の設定などの相談に対応するため、相談窓口はゴールデンウィーク中も開設していました。

 時間割もオンライン用に授業1コマを40分に短縮するとともに、午前に4コマ、午後に1コマを設け、6コマ目は合科授業や生徒会活動、部活動など、オンラインの特長を生かした多種多様なコミュニティーを作り、生徒たちが個々の希望で自由に参加できる時間としました。

1コマ40分で行われるオンライン授業

 また、オンライン授業は、生徒たちが自律して学習の習慣を身に付けることにも役立つと考え、教員たちは、その方向に沿って授業を工夫し、互いに情報を共有して、全体のレベルアップを図っています。オンライン学習アプリの「Classroom」で課題を管理し、授業では、それに対する不明点や質問を主にするといったやり方をする教員もいます。

 取り組みの中で生徒や保護者に伝えたかったのは、教員も「新しいチャレンジ」をしているということです。オンライン授業は教員にとって新たな試みですから、思い通りにならないこともありますが、それも率直に生徒と共有しています。「あのピンチをチャンスに変えられたね」と後で言えるように、生徒にも柔軟な発想を提供してもらい、教員はもちろん保護者も、学校に関わるみんなでより良い方法を考えたいと思っています。

 また、今回の経験でオンラインには、いろいろな使い道があることが分かりました。例えば保護者会や3者面談などで時間の都合がつけづらい保護者の方に利用していただくなど、今後も積極的に活用していく予定です。

他者とぶつかる経験の中からリーダーシップが育つ

 ――コロナの流行が終息したら、どのような学校運営をしますか。

「肯定的に前向きに生きていける人を育てたい」と話す工藤校長

 生徒同士の協同的な学習を大事にしたいと考えています。現状では通学できる日を待つしかありませんが、やはり他者とぶつかる経験は重要です。従来、日本の教育現場では、相手を思いやり、お互い仲良くすること、協調することばかりを求めてきました。そのため、生徒たちは無意識に対立を避けています。しかし、最初から思いやりを強要しても何も解決しませんし、グローバル化が進み、異なる価値観を持つ人たちと働くことが当たり前の時代に、その姿勢は通用しないでしょう。

 協同的な学びの中には意見の対立があるのが当然。だから考える。壁があって当たり前。だから乗り越える工夫をする。自分と異なる意見を持つ相手と意見を交わし、共通理解を得るためには言葉の選び方、使い方も重要です。そして、それは経験でしか身に付きません。それが結果的に、多様性を認め、相手を思いやることにつながり、リーダーシップもその中で自然に育つでしょう。

 教員にお願いしているのは、「今何に困っているのか」「それについてどうしたいのか(意思確認)」「私(教員)にはどんな手助けができるのか」という三つの声かけです。これを繰り返すことで、生徒たちは小さな自己決定を繰り返すことになり、自己肯定感も高まります。

 大切なのは一人一人が自分にとって何が必要かを判断し、自らの力で選び取れることです。教育は本来、生徒自身が作るものであり、教員はその支援者になる。これこそ、これからの教育の進むべき道であり、本校は常にその先頭に立ちたいと考えています。入学を希望される方には、ぜひ本校の変化に期待し、ともに力を合わせて歩んでもらいたいと思います。

 (文:山口俊成 写真:中学受験サポート 一部写真提供:横浜創英中学・高等学校)

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