温かみのある進学校、大部屋寮で人間力を磨く…函館ラ・サール

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 函館ラ・サール中学・高等学校(北海道函館市)は、全国にもまず例がない「50人部屋」の大部屋寮を構えている。全国から集った英才を難関大学や医学部に送り出す男子校として知られるが、その教育は単なる受験秀才ではなく、他者を尊重できる温かみのある人間に育てることに重きを置く。大部屋寮は、生徒たちがその中でもまれ、成長していくための「攪拌(かくはん)装置」だという。同校の教育理念や寮教育について齋藤瑞木(みずき)副校長の話を聞くとともに、中学寮での生活をリポートする。

生徒を簡単に切り捨てず、包み込む指導

「勉強だけでなく人間として大きく育ってほしい」と語る齋藤副校長
「勉強だけでなく人間として大きく育ってほしい」と語る齋藤副校長

 同校は世界中に教育施設を持つカトリック系のラ・サール修道会によって設立された男子校で、1960年に高校、99年に中学校が開校した。ラ・サール修道会は全世界で900以上の学校施設を運営しており、それぞれ「ラ・サール精神」と呼ぶ理念を共有している。

 齋藤瑞木副校長は、「ラ・サール精神」をこう説明する。「開校以来、ラ・サール精神は一貫して、ぶれることなく本校に受け継がれています。その本質は『special care for the poor』です。現代において、貧者は経済的に苦しんでいる人たちだけではありません。困ったり、苦しんだりしている子供も貧者です。そんな子供たちに対して、特別なケアをすることはラ・サール精神の根幹です」

 同校では成績が伸び悩んでいたり、問題を起こしたりした生徒を簡単に切り捨てることはしない。包み込むような指導で生徒をケアしている。

 「中には、成績が上がらない生徒や問題を起こす生徒もいます。他の進学校では『違う学校に行かれたらどうですか』と、肩たたきをする場合も多いと思います。本校では勉強が立ち行かない生徒も押し上げていきます。また、素行が悪い生徒に対して、どんな指導が適切なのかを考えて対処していきます。子供が困っているときや、つまずいたときに、どういうふうに手を差しのべるのかが学校の真価となります。勉強だけでなく、生徒会や部活動なども精いっぱいやったうえで、人間として大きく育てばいいと考えています。北海道という土地柄もあるのかもしれません。勉強だけのギスギスした進学校ではないのです」

 全国から優秀な生徒が集まる同校は高い進学実績を誇る。学力のある生徒をさらに伸ばすために、重視しているのは基礎的な学習、豊富な授業時間、考える姿勢だ。

 「生徒にきちんと授業を受けさせ、基礎的なことをしっかり身に付けるよう指導しています。それにより着実に学力が付き、大学入試に対応できるようになります。有名予備校で夏期講習を受けた生徒が『ラ・サールの授業の方がためになった』と言ってくれたことがあり、とてもうれしかったです。また、中学、高校とも授業時間は豊富です。中学は月曜・水曜日だけ6時間、あとは7時間です。高校は毎日7時間です。土曜日は中高ともに4時間です。この豊富な授業時間を利用して、じっくりと考えさせる授業をしています。今後、大学入試改革では思考力が問われるようになります。本校ではアクティブラーニングを先取りしてきたと考えています」

寮で学ぶ人間関係、問題ある生徒も成長

 全国から多くの生徒が集まる同校は、2019年度は全校生徒の45%、290人が道外からの生徒だ。自宅外生は、ほぼ全員が寮に入る。寮生の割合は中学で65%、高校では56%にもなる。個室はなく、中学では1学年全員が一つの大部屋で寝起きする。寮のある学校でも大部屋を維持している学校はまれだ。この大部屋こそ、同校の核であり、エッセンスと言える。

 「1人部屋、2人部屋にした方が問題は起きないでしょう。それでも、大部屋で生活させているのは人間関係をきちんと学ばせたいからです。小さなカラに閉じこもって、小さな仲間内で付き合うのではなく、いろんな友達、嫌なやつとも付き合う(すべ)を学んでもらいたいのです。勉強だけをやるのだったら他の進学校と同じでしょう。大部屋でもまれ、切磋琢磨(せっさたくま)することで、最終的に社会に出た時のアドバンテージは高くなり、活躍につながります。卒業生が進学した医大の先生から『ラ・サールの卒業生は他の進学校の生徒と違って、エリート然としていなくて人間くさいですね。協調性があり、腰が低いですね』と聞いたことがあります」

 問題を抱えて入学した生徒が、寮で見違えるように成長したことは、齋藤副校長にとって今でも忘れられない思い出だ。

 「小学校で不登校だった子が入学してきたことがあります。3年生からほとんど学校に行っていないので、人間関係をうまく作れないのです。寮でも教室でも、周りから『変わった子だ』と言われていました。でも、生徒たちには彼を受けとめる寛容さがありました。そうして、次第に周囲になじんでいきました。本校を信頼していただいた親御さんも偉いと思います。『息子がどう言ったとしても、何とか頑張らせる』とおっしゃってくださったのです。その子はだんだん落ち着いていって、最終的には国立大の医学部に合格して医師になっています。学校にもよく来てくれます」

寮教諭が生活・学習面をサポート

 「失礼しまーす」。夕方、中学寮を訪ね、1階の事務室に控えていると、ちょうど、授業が終わった頃なのか、生徒たちが次々に入ってきて寮母さんに声をかけていく。部活の練習でグラウンドに出入りする生徒や寮に戻る生徒が、靴箱や寮の荷物用ロッカーの鍵を預けたり、持って行ったりしているのだ。

 校舎と寮を結ぶ通路の脇には八つの電話ボックスが並ぶ。発信機能のない受け専用の電話機で、実家など外部からの連絡用だ。「〇〇君、1番に電話で~す」と寮母さんがインターホン越しに大きな声で生徒に呼びかける。しばらくすると生徒が下りてきて、指定された電話ボックスに入る。外部に連絡を取る時は、同じ1階にある4台の公衆電話を使う。寮には携帯電話、スマートフォン、パソコンなどの電子機器は持ち込めない。今時の中学生のほとんどは、「LINE」などのSNSを使いこなしているのだろうが、寮の生徒たちは中高の6年間、外部への連絡をこの4台に頼っている。

中2の大部屋を案内してくれた寮教諭の伊藤さん(右)
中2の大部屋を案内してくれた寮教諭の伊藤さん(右)

 寮には学校の教員とは別に寮教諭と呼ばれる「お世話役」がいる。寮教諭は全員が教員免許を持っていて、寮生の生活や学習面をサポートする。全学年を担当する教諭が1人、学年ごとの担当教諭が1人の計4人で、寮生約160人の面倒をみている。寮教諭、伊藤孝広さんはいつも朗らかで、笑顔を絶やさない。

 「私たちは親代わり、保護者代わりの存在です」と伊藤さん。親元を離れて集団生活をしていると、生徒同士のトラブルが起きることもある。また、悩みを抱える生徒も必ずいる。寮教諭はトラブルを解決し、丁寧に話を聞くことで、生徒の寮生活を見守る。また、生活面のサポートだけでなく、教員免許を生かして、自習室で勉強する生徒の質問に答えたり、勉強の仕方をアドバイスしたりすることもある。

自分の空間はベッドとロッカーのみ

放課後に寮2階の自習室で勉強する生徒
放課後に寮2階の自習室で勉強する生徒

 2階に上がり、中1の自習室に入った。生徒の名前シールが貼られた机がずらりと並ぶ。教室の中でただ一人、ノートにペンを走らせている生徒がいた。関東出身の宇山留加君(現中2)だ。最初、「両親と離れて暮らすのは大丈夫かな。友達はできるかな」と、寮生活が心配だったというが、今は「あんまり寂しくない。ひとりぼっちでなく、みんなといられるのがいい」と話す。寮には午後7時20分から10時10分までの約3時間、自習室で勉強しなければならない「義務自習時間」がある。宇山君は6時から夕食を取ってまた机に向かう。

ラ・サールでなく「裸猿」と書かれたユーモラスな浴室入り口ののれん
ラ・サールでなく「裸猿」と書かれたユーモラスな浴室入り口ののれん

 3階に上がり、2年生の寝室に入る。目に飛び込んできたのは、1部屋に木製の2段ベッドがずらりと並ぶ光景。カーテンの仕切りもなく、ベッドの中は丸見えだ。これが、函館ラ・サール名物の大部屋、通称「50人部屋」だ。19年度の寮生の人数は、1年生で57人、2年生で53人、3年生で54人。15年ほど前は84人の学年もあったといい、この時はさすがに狭かったようだ。部屋にいた大西伶士君は「朝ちゃんと起きる習慣が付き、5時から勉強しています。ご飯をみんなで一緒に食べるのが楽しい」と話した。寮生活にすっかり慣れた様子だった。

 ベッドとロッカーだけが自分だけの空間で、プライバシーはまったくない毎日。スマホやゲーム機は持ち込めない。不自由かもしれないが、その分、友達と濃密な時間、空間を共にし、コミュニケーション能力を培っていく。同窓会があるとOBは「勉強よりも、寮生活で得たものの方が大きい」と懐かしがるという。大部屋による独自の寮生活、寮教育こそが函館ラ・サールの教育の原点だと改めて感じた。

 (文・写真:林宗治)

 函館ラ・サール中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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1165510 0 函館ラ・サール中学・高等学校 2020/04/15 05:21:00 2020/04/15 10:00:09 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200414-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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