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【特集】「アサーション」で自他尊重のコミュニケーション力を養う…甲南女子

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 甲南女子中学校・高等学校(神戸市)は2019年、行動療法の手法を応用した独自の「アサーショントレーニング」を導入した。「自他を尊重する」という考えに基づいたコミュニケーションのトレーニングであり、現在は中学1~3年生で実施している。これによって生徒間のトラブルが生徒自身で解決されたり、上級生、下級生の縦のコミュニケーションが円滑になったり、などの効果が出始めているという。

独自のアサーショントレーニングを開発

アサーショントレーニングを導入した経緯や内容について話す後田教諭
アサーショントレーニングを導入した経緯や内容について話す後田教諭

 同校では2020年の創立100周年に向けて、17年度から現行制度の見直しや教育改革が課題として論じられていたという。入試広報室の後田尚宏教諭は「教育内容を刷新するというよりも、100周年を機に改めて本校の教育の原点に立ち返り、本校がどうあるべきかを深く考えたのです」と語る。

 そうした話し合いの中で、現実の問題として浮き彫りになったものの一つが、生徒間でのSNSの使い方だったという。自分の考えをメッセージでうまく表現できなかったり、相手の意図をくみ取ることができなかったりして、トラブルが多発していたそうだ。自己表現力や対話力を養うにはどうしたらよいか。この問題の解決策を考え合う中で後田教諭が思い出したのが、アサーショントレーニングだったという。「これなら『本校の教育の原点』とまでは言わないまでも、SNSを巡るトラブルの解決策になるのではと思いました」

 「アサーション(assertion)」は、一般には「主張」を意味する英単語だが、行動療法の世界では、相手と対等な立場で自己主張をするためのコミュニケーションスキルを指し、それを身に付けるためのトレーニング方法も開発されてきた。アメリカでは1970年代から一般に注目されてきたとされ、今では日本でも企業や学校などで実践されてきている。

 早速、後田教諭らが同校のスクールカウンセラーに相談したところ、「専門のトレーナーを招くよりも、自分たちで甲南女子ならではのアサーショントレーニングを作ったほうがいいのでは」と提案され、協力してオリジナルのアサーショントレーニングを作ることになった。

入学前の「スプリングセミナー」でアサーショントレーニングを経験する子供たち
入学前の「スプリングセミナー」でアサーショントレーニングを経験する子供たち

 19年度中学入学生からの導入を目指し、アサーショントレーニングを実施している学校の訪問、同校教員への啓発を経て、18年度にアサーション委員会を設置した。委員会では「自他を尊重する」という考え方を原則として確認し、「話をしっかりと聴く」「言いたいことを適切に言う」「落ち着いて受けとめる」という三つの基本姿勢を定めた。これにより、アサーションは「SNSを巡るトラブルの解決策」から、同校が学校の使命として掲げる「人生や社会に対して前向きに取り組む自立した女性(社会で協働できる女性)の育成」という教育の根幹に関わる教育活動へ進展したという。

 アサーションについて後田教諭は、「われわれは道徳的に相手を傷つけてはいけないという側面に着目しがちですが、それは自分を押さえつけることと同義ではありません。まずは自己肯定感を養ってほしい」と注意を促す。「自分はどうありたいのか、自己を理解することが大事です。これは本校の校訓である『清く 正しく 優しく 強く』や、今年のスローガンに掲げる『#私らしく』にも通じるものです」

 また、具体的なスキルとしては一般に、不当な抵抗に遭うごとに自分の要求や拒絶を繰り返して述べる「壊れたレコード」という技法や、相手を評価、非難することなく、自分の立場で感情や希望を伝えるために「私」を主語として話す技法などが知られている。しかし、同校では、そうした技法をただ流用するのではなく、教員たちとスクールカウンセラーが、学校環境や地域性、生徒の特徴などを考え合わせ、同校にふさわしくアレンジしたアサーショントレーニングを作った。

入学前セミナーで中1生がアサーションを体験

スクールカウンセラーや教員の指導で「ロールプレイ」を行う生徒たち
スクールカウンセラーや教員の指導で「ロールプレイ」を行う生徒たち

 最初にアサーショントレーニングが導入されたのは19年度、当時の中1生を対象とする入学前の「スプリングセミナー」だった。

 担当した森未貴教諭によると、このスプリングセミナーは宿泊を通じた仲間づくりを目的としていたが、初対面でうまくなじめなかったり、最初につまずくとなかなか立ち直れなかったりということがあり、新入生にとってハードルが高いのではと考え始められていたという。「そこで、学校を知ることと友達を知ることを目的にしたプログラムに整理し直し、アサーションの要素を取り入れてみました」

 初日の全体講義では、スクールカウンセラーが、「ものの見方はみんなが同じではない」「お互いが理解しあうためにはコミュニケーションが大切」「言葉や態度だけでなく、『気持ち』も考える」などのアサーションの原則を生徒に説明した。

 2日目のオリエンテーリングでは、生徒のグループが巡る校内のチェックポイントでアサーションの工夫をした。従来はそこで教員がクイズを出題して生徒たちが答える形式だったが、反対に生徒たちがグループで質問を考え、教員に投げかける形にしたという。

 「生徒同士で意見やアイデアを出し合って相談する。大人である先生と話す。そうしたトレーニングをしてほしいと考えました。以前はグループがバラバラになりがちだったのに、意外なことにこの時は、最後まで活発にコミュニケーションがとれていたのです。アサーションを取り入れた効果だと思います」と森教諭は振り返る。

 入学後も道徳の時間やロングホームルームなどを使って、さまざまなアサーショントレーニングが続けられている。

 「ロールプレイ」もその一つだ。例えば、友達同士で服を買いに出かけ、互いの好みが違う場合にどうするかといったシチュエーションを考える。その際、「自分の気持ちを抑えて相手に合わせる」「自分の好みを押し付けてしまう」など、普段の自分を振り返り、セリフを考えてやり取りする中で、自分は無理をせず、相手を傷つけない伝え方に気付いていく。

 こうしたトレーニングは毎年1学年ずつ実施学年を増やし、中1から高3までの全学年で、発達段階に合わせて実施していく予定だ。「自分も相手も大切にして気持ちいい人間関係を築くスキルは、これからますます重要になるでしょう。そのスキルを日常で、意識せずに発揮できるようになることが、高校卒業時の到達目標だと考えています」と森教諭は話す。

中学生のコミュニケーションの仕方が変わった

「アサーショントレーニングを経験して生徒たちのコミュニケーションが変わった」と話す松原教諭
「アサーショントレーニングを経験して生徒たちのコミュニケーションが変わった」と話す松原教諭

 3年目を迎えた今年、アサーショントレーニングは中学全体で実施されており、その成果を発揮し始めているという。

 入試広報室主任で国語科教諭の松原稔幸教諭は「以前は何かトラブルが起きた時に『先生なんとかして』と助けを求めに来る生徒が多かったのですが、アサーショントレーニングを経験した生徒は自分たちで問題を解決できるようになったと思います」と語る。「コミュニケーションの仕方も『こんなことがあったので、話を聞いてほしい』というふうに変わってきていますし、自分の言葉で表現する力が高まっていると感じます」

 松尾由起子教頭は「下級生の上級生とのコミュニケーションにも変化が表れています」と言う。「上級生が進行する話し合いで、下級生が『自分はこうしたい』と意見を言えるようになりました。上級生も下級生が発言してくれてうれしかったそうです。こうした縦の関係のコミュニケーションは社会に出てからも大いに役立つと思います」

 (文・写真:石上元 一部写真提供:甲南女子中学校・高等学校)

 甲南女子中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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