【特集】「ロケットガール」が開く理系進学への道…和歌山信愛

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 和歌山信愛中学校・高等学校(和歌山市)で近年、理系への進学者が5~6割と高水準を保っている。今春の国公立大・大学校の合格者でも理系学部・学科が5割を占めた。同校は、この傾向を下支えている要因を、和歌山大と連携しての「ロケットガール養成講座」にあると見ている。今年のロケット製作から打ち上げまでの奮闘ぶりと「理系好き」生徒たちが増えた背景についてリポートする。

苦労の末に最高のフィナーレ

発射日の当日、ロケット打ち上げの準備を進める生徒たち
発射日の当日、ロケット打ち上げの準備を進める生徒たち

 「充填(じゅうてん)を確認して点火に移ります。ファイアー行きます。3、2、1、ゼロ」

 「グウォーン」とうなり声のような発射音が耳をつんざいた。薄曇りの空に向かって全長140センチ、直径約14センチ、重さ7キロの本格的なロケットがぐんぐん上昇していく。やがて、数百メートル上空でパラシュートが開き、遠くの草地に落下し始めた。

 「上がった、よかった」「やった、すごい」。ヘルメット姿の“ロケットガール”たちが喜びを爆発させた。

 ここは和歌山市北西部にある紀淡海峡に臨む工業団地「コスモパーク加太」。3月30日、和歌山信愛の高校生たちによるロケットの打ち上げが行われた。高校1年生が製作した固体・液体燃料を使用するハイブリッドロケット2基は午後5時から午後7時にかけて発射され、2機とも見事、打ち上げに成功した。

 打ち上げに参加した12人の高校生たちは、和歌山大学の秋山演亮(ひろあき)教授の研究室が主宰する「ロケットガール養成講座」の受講生だ。ロケットの「ロ」の字も知らずに受講した生徒たちは、いくつもの壁に突き当たってきたという。1月下旬の受講スタートから2か月強。「どうせ無理やろうな」と諦めかけた末に、最高のフィナーレを味わうことができた。

和歌山大との「共同事業」として発展

(左から)佐藤教諭、手古教諭、秋山教授
(左から)佐藤教諭、手古教諭、秋山教授

 「ロケットガール養成講座」は、元々は秋田大学が06年に開設した課題解決型の教育プログラムだ。女子高生を対象に物理や数学が好きになったきっかけを聞くと、宇宙への興味という答えが多かったとする調査があり、理系学部への進学を増やそうと、当時、同大助手だった秋山教授が中心となって企画した。講座名は、SF小説「ロケットガール」の作者、野尻抱介さんと秋山教授が意気投合して決めたものだ。

 秋山教授は08年度に和歌山大学に移り、09年度に同大で「ロケットガール&ボーイ養成講座」を開設した。関西地区の複数校から応募があり、数回開催したあと、いったん募集を停止したが、和歌山信愛から「毎年やりたい」という強い要望があり、同校の受講生のみを受け入れることになって現在まで講座が続いている。

 「毎年やりたい」と秋山教授に頼み込んだのは、科学部顧問の佐藤佳子教諭だ。「女子校なので、生徒は、根は真面目なんですよ。『宿題をやってきてよ』と言ったらやってくるんです。でも、それだけでは物足りないなと考えました。解答の書いていない問題をやらせたい、それに理系の女子を増やしたいという思いがあってお願いしたんです」と話す。今では「和歌山大と信愛だけでの共同事業みたいなもの」になっているという。

 今年は打ち上げ成功と聞き、佐藤教諭の傍らで「うれしくて、懐かしい」と語るのは、昨年から母校・和歌山信愛で教鞭(きょうべん)を執る手古(てこ)英美(あやみ)教諭だ。13年1~3月に開催された12年度講座を受講した経験がある。「ロケットがめっちゃ好きというわけではなかったのですが、自分で課題を見つけ、途中で失敗しても前に進むという体験はとても貴重でした」と当時を振り返る。

トラブル続出で「間に合わへんでー」

 手古教諭が「失敗しても前に進む」と話したように、講座ではむしろ失敗が織り込み済みになっているという。参加する生徒たちは、何の用意もなく受講するからだ。秋山教授も受講者に任せっきりで、何も教えてくれない。ないないづくしでスタートして、失敗しない訳がない。あるのはロケットを打ち上げたいという思いだけだ。

 その思いを具体的な形にしていくために、導入として講座の最初に生徒たちはロケットの打ち上げ映像を見る。それを基に、自分たちが作り上げるロケットをイラストにし、イメージをチームとして共有する。次に、打ち上げまでのスケジュールを作成・管理し、製作中はスタート、中間、最終に至る各工程の節目節目で研究室に報告し、分からないことがあったら研究室の大学生からアドバイスを受けて前に進んでいく。

 「大学生はこうしなさいと指示はせずに、質問があったら答えるようにしています。そうでないと、生徒たちは自分の役割が分からなくなります」と秋山教授は話す。

 今年、講座に参加した生徒12人は、6人ずつ「推し」「アルビレオ」という2チームに分かれ、3月下旬に活動をスタートさせた。受講中は「壁」の連続だったという。

 「推し」チームのリーダーで、ロケットエンジンを担当する燃焼班の川口もなさん(高2)は、パソコンの設計ソフトを使って機体を設計する際に、混乱に陥ったという。エンジンや他の部品の重さが不明なままだったからだ。「ぐちゃぐちゃでした。でも、大学生のアドバイスで部品の重さから機体の重心の位置が決められ、飛行高度も規定内に収まることが分かり、ほっとしました」。また、機体を製作する際も、エンジン部とパラシュートの仕切り枠をネジで固定しようとしたが、ネジ穴がずれてしまっていて固定するのに苦労したという。

打ち上げに成功したロケットを持つ杉本さん(左)と川口さん
打ち上げに成功したロケットを持つ杉本さん(左)と川口さん

 同じく「推し」チームの杉本佳菜子(かなこ)さん(高2)を悩ませたのは、液体燃料の満タンが分かるように、気化した燃料を放出させるストローの取り付けだった。燃料タンクに通じるチューブに穴を開けてストローを通そうとしたが、何度やってもきちんと入らなかったそうだ。

 「アルビレオ」チームでも機体班の西雛花(ひなか)さん(高2)は、機体に入れる固体の燃料棒が数ミリ分はみ出してしまい、仕切り板を作り直したという。「工具も使い慣れていなくて、大変でした」

 生徒たちは機体の材料となる塩化ビニール製のパイプをホームセンターまで買い出しに行ったり、その機体に穴を開けたり、回路のハンダ付けをしたりと、初めての連続だったせいか、作業は初めのうち、なかなか進まなかった。秋山教授も「そんなんだったら間に合わへんでー」と声をかけていたほどだが、1月、2月と過ぎて、3月に入った頃、がぜん作業がはかどり、加速が付き始めたという。

 「もうちょっと、まごまごするかと思ったけれど、3月になったら、バババーと仕上がっていった。それはすごかった」と秋山教授は振り返る。新型コロナウイルスの影響で3月から休校となり、週に3、4日も研究室に通えたため、十分に時間が取れたこともプラスに働いた。

 もちろんトラブルは容赦なく襲ってきた。両チームとも機体が完成したのは、打ち上げ前日の夜。「アルビレオ」チームでは、ロケットの落下時に使用するパラシュートの開放機構のテストをしたが動作せず、研究室の大学生に大阪から来てもらうなど、てんてこ舞いだったそうだ。ようやく発射準備を終えたのは午後9時で、打ち上げ作業のスタートまで24時間を切っていた。

新しい女子高としての目玉に

「ロケットガール効果で理系進学者が増えたのでは」と語る木村教諭
「ロケットガール効果で理系進学者が増えたのでは」と語る木村教諭

 同校は、ロケットガールたちの活動を他の生徒たちに知ってもらうため、打ち上げ後に発表会を開いてきた。当初は希望者のみを対象に放課後に開催してきたが、数年前から全校集会での報告会とした。秋山教授も登壇し、講座の魅力を語りかけている。

 佐藤教諭は、「ロケットガールたちの活躍で生徒の意識が変わってきた」と実感する。「『私もやってみたい』『私もできるんじゃないか』と多くの生徒が思うようになり、刺激を受けています。科学部の活動も活発になり、理系に興味を持つようになってきました」

 同校の20年度の大学合格実績を見ると、国公立大・大学校の合格者77人のうち、理系学部が約5割の39人を占める。ここ数年の傾向でも5~6割が理系に進学しているという。入試対策室長の木村宣史教諭は「理系への進学実績が上昇してきたのは、ロケットガール養成講座への参加による波及効果ではないか」と感じている。

 大手予備校の「日能研関西」取締役の森永直樹さんは、同校生徒の理系学部進学について「かなりの進学校でも7割くらいでしょうから、女子校では高めだと思います」と話す。文部科学省の19年度の学校基本調査によると、男女合わせた理系学部(理学、工学、農学、医・歯学、薬学)の学生数は学生全体の26%だ。さらに理学・工学系で見ると、学生全体の18%であり、そのうち女子の割合は理学系で28%、工学系で15%に過ぎない。同校の理系合格者の比率が高いことは明らかだ。

 木村教諭はロケットガール養成講座への参加を、進学戦略として取り組んできたことを否定しない。「新しい女子高として特長を打ち出すことを模索していた中で、力を入れてきた英語教育と並ぶ目玉として、『理系女子』を打ち出せないかという雰囲気が学校にありました。10年ほど続けてきたロケットガールの活動がここ4、5年で学校の考えと合致してきたように思います」と語った。

 理系離れが叫ばれるなか、同校の取り組みは今後ますます注目を集めることだろう。

 (文・写真:林宗治 一部写真提供:和歌山信愛中学校・高等学校)

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