長期の合宿行事が培う「ともにいること」の心…大阪星光学院

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 大阪星光学院中学校・高等学校(大阪市)は、男子のミッションスクールとして戦後70年の歴史を歩んできた。その歴史を貫く教育理念は、「ともにいること」を意味するイタリア語の「アシステンツァ」だ。同校を創立した修道会に伝わるこの理念を、生徒たちは中高6年間で50~80日に及ぶ伝統の合宿行事を通して体得するという。神父でもある田沢幸夫校長や担当教諭らに、その学びについて聞いた。

国内3か所の合宿所拠点に中高で最低50泊

合宿施設「南部学舎」近くの海辺で、磯の生物実習をする中3生
合宿施設「南部学舎」近くの海辺で、磯の生物実習をする中3生

 同校の合宿施設の一つ「南部学舎」は、アカウミガメの産卵地として知られる和歌山県みなべ町の「千里の浜」近くに立っている。今年は新型コロナウイルスの影響で日程変更を強いられたが、例年は4月から10月にかけて、中学1年~高校1年の生徒約200人が、時期をずらして5泊6日の「南部特別授業」合宿のために訪れる。

 合宿には担任のほか、各教科の教員たちも付き添う。磯の生物観察、手作りの望遠鏡による星空観測、さらに合宿施設の塔の高さを、三角比を使って計測する数学の授業や、海水を蒸発させ、塩を作る化学の実験などもある。「ゆで卵にふりかけて、市販の食塩と味比べもします」と理科の榎村博仁教諭は話す。「ここでは本や教科書ではなく、自然に触れて学ぶことを大切にしています」

 海辺でのさまざまな発見を通し、生徒たちは好奇心をふくらませ、学びを深めていくという。ときには海辺でスケッチしたり、詩作したり、都会では体験できない、おおらかな授業が自然の中で行われる。

 こうした合宿行事がスタートしたのは開校から間もなくのことだ。1968年、長野県信濃町の黒姫高原に「黒姫星光山荘」、大阪の本校キャンパス内に「聖トマス小崎研修館」が完成し、73年には和歌山の「南部学舎」もオープンして、現在ある三つの合宿施設がそろった。

最初のオリエンテーション合宿で、配膳をする中1生
最初のオリエンテーション合宿で、配膳をする中1生

 新中1生は例年、入学後、本校内の研修館に泊まって隣の校舎に通う、1週間のオリエンテーション合宿に参加する。30人ほどのグループに分かれ、食事の配膳、掃除などを自分たちで行い、共同生活する。この間、1日3時間半の自習で予習・復習を徹底し、学習習慣も身に付ける。

 高校1年の男子生徒は、その初合宿について懐かしそうに振り返った。人見知りだったというが、「晩ご飯やお風呂などで、きっかけを覚えていないくらい自然と会話ができるようになりました。クラスメートと仲が深まり、心から笑い合えるような友だちが増えていきました」

 中1生はその後、夏休み中の8月、シラカバ林に囲まれた長野の「黒姫星光山荘」にリュックを担いで行き、北信五岳の一つ飯縄山(いいづなやま)(標高1917メートル)の登山にチャレンジする。さらに、キャンプファイアを楽しみ、農村生活も体験する。10月になると、和歌山の「南部学舎」での特別授業が待っている。

立山連峰を縦走する中3生たち(富士ノ折立で)
立山連峰を縦走する中3生たち(富士ノ折立で)

 この合宿登山は、中1、中2と少しずつ登る山が高くなり、中3では標高3000メートル級の北アルプス・立山連峰縦走にも挑む。高校1年の別の生徒は「やり通した後の達成感を幾度も味わったことで、思い通りにならなくても、我慢強く取り組む姿勢が身に付きました」という。

 長野には中3まで、和歌山には高1まで全員が毎年出かけて合宿する。そのほか中学生のスキー教室、受験対策としての高校2、3年の勉強合宿なども催され、中高6年間で最低でも約50日、多い生徒では約80日、合宿行事に参加することになるという。

合宿経験から自然と生まれる家族的な雰囲気

 これらの合宿は、いわば自然に抱かれた大きな「家」で、クラスメートや教師たちと寝食をともにしながら、いっしょに学び、汗をかくことだ。神父でもある田沢幸夫校長は「教師と生徒、そして生徒同士が『ともにいること』で互いに思いやり、心を通わせ、人間的なつながりを深める、そして互いに成長していくのです」と語る。

教育理念の「アシステンツァ」について話す田沢幸夫校長
教育理念の「アシステンツァ」について話す田沢幸夫校長

 同校は、この「ともにいること」を意味するイタリア語「アシステンツァ」を教育理念としている。これは、19世紀のイタリアでカトリック修道会「サレジオ会」を創設した聖ヨハネ・ボスコ神父の言葉だという。

 この「サレジオ会」によって1950年に開校した同校は、中高一貫の男子校で、関西では唯一の「サレジアン・スクール」だ。この3年間、京都大学に毎年30~50人を合格させるなど関西屈指の進学校として知られるが、同校の特色は学力にとどまらず、人として豊かな心を育むキリスト教教育の伝統にある。

 田沢校長は「聖ヨハネ・ボスコは、悪いことをしたら罰するという当時の禁圧的教育法に対して、『ともにいること』で支え、良い方向に歩んでいけるように、前もって促す予防教育法というものを説きました。そうした『アシステンツァ』の考えを、星光学院は今も大切にしています」と話す。常に寄り添うことを説く「アシステンツァ」という理念を教育の具体的な形にしたのが、半世紀以上続く同校の合宿行事なのだ。

 互いに寄り添い、ともにいることで、同校には「家族的な雰囲気が自然と生まれている」と、田沢校長は話す。「高校2、3年生になると、昼休みや放課後に黒板の前で、同級生などに勉強を教えたりする姿をよく見ます」。先輩が後輩たちに寄り添うことは伝統となっており、合宿でもほぼ毎回、大学生ら卒業生4、5人がサポート役を引き受け、長野や和歌山に集まってくれるという。

 合宿では一日の終わり、夜の消灯前に神父の話「ボナ・ノッテ(イタリア語の「おやすみなさい」)」が行われる。その祈りのひとときの前、恒例となっているのがOBたちによるトークタイムだ。大学生活の様子や受験のアドバイスのほか、恋愛話も打ち明ける先輩たちに、生徒たちは盛り上がるという。

 卒業生でもある同校渉外広報部長の岡澤潤教諭は一昨年、自身の卒業25年を機に恩師や同級生たちに呼びかけ、和歌山の「南部学舎」への再訪ツアーを企画した。久しぶりに部屋を探検したり、恩師の授業を受けたり、食堂でカレーを食べたりして、懐かしさが込み上げてきたという。

 「周りに何もない自然の中で、情報もさえぎられ、今思うと修行の旅でした。しんどい勉強もありました。でも、友だちと腹を割って話ができた。男同士なので気兼ねなく、のびのびとやれた。あの時があって、今の僕たちはある。我々のふるさとです」

 多感な10代の6年間に、自然の中で2、3か月もの間、友人や教師らと寄り添い、ともに過ごす。互いに学び、鍛えられながら、信頼し合える人とのつながりを深める合宿の日々は、生徒たちが将来を生きていく心の糧となることだろう。

 (文・写真:武中英夫 一部写真提供:大阪星光学院中学校・高等学校)

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1254015 0 大阪星光学院中学校・高等学校 2020/06/02 05:21:00 2020/06/02 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200601-OYT8I50033-T.jpg?type=thumbnail

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