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【特集】茶道授業を通して静かに自分と向き合う…藤嶺藤沢

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 時宗の僧侶養成機関を前身とする藤嶺学園藤沢中学校・高等学校(神奈川県藤沢市)は、人間教育の一環として中1から高2まで茶道の授業を行っている。作法を通してコミュニケーション能力が育成されるほか、落ち着いた空間で自分と向き合う習慣は心の成長も促すという。学年末に行われた中3と高2の茶会を見学し、教育の狙いや成果について聞いた。

「進学教育だけでいいのか」と反省

「茶道は思いやりの精神を形にしたもの」と話す廣瀬教頭
「茶道は思いやりの精神を形にしたもの」と話す廣瀬教頭

 同校の茶道授業は、2001年度に中高一貫制が導入されたのと同時に始まった。当時から教鞭(きょうべん)を執ってきた廣瀬政幸中学教頭は、背景についてこう説明する。

 「受験競争が激化した80、90年代、本校も進学教育に邁進(まいしん)し、東大合格者を複数出した年もありました。ところが、そうした生徒は受験勉強中心の生活であり、周りの生徒も憧れる気配がない。『これでいいのか』と反省し、中高一貫化を開始した際に、人間教育を教育の柱としました」

 その人間教育の重要な場となっているのが、茶道と剣道の授業だ。「どちらも、礼儀など日本人の美徳を形にした文化。特に茶道は思いやりの精神を形にしたもので、コミュニケーション能力の育成にもなっています」

 中学棟と100周年記念会館に備えた計3室の専用茶室を活用し、茶道の授業は、1クラスを15人前後の2グループに分けて隔週で行っている。指導には大日本茶道学会の指導教授が当たっている。

茶道のカリキュラムを説明する原田教授
茶道のカリキュラムを説明する原田教授

 かつて指導を担当し、現在も関連行事などに顔を出すという原田仙美(はらだせんみ)教授は、「中学では『平点前(ひらてまえ)』という基本動作を一から教え、茶会の所作を一通りこなせるまでにします。高校ではさらに発展し、濃茶(こいちゃ)野点(のだて)を行うほか、茶室の造り、茶道の歴史、禅語、香なども学びます」と同校のカリキュラムを説明する。

 こうした学習の集大成となるのが、学年末に行われる中3の「卒業茶会」と高2の「修了茶会」だ。保護者を客としてもてなし、日頃の成果を見せるとともに感謝の気持ちを伝える。今年度はいずれも、1月から3月にかけての土曜日に、クラス・グループごとに行われた。

中3は役割分担して茶会を進める

 取材に訪れた2月13日は、昼前から3年2組のBグループ13人による「卒業茶会」が行われた。「卒業茶会」は、30畳ほどの大広間に多くの客を招く「大寄せの茶会」という形式で行われる。生徒はリーダー役の「亭主」2人、茶をたてる「点前(てまえ)」2人のほか、菓子の選定や招待状・礼状準備、受付、茶の飲み方の説明などにあたる「半東(はんとう)」などの役割を分担する。現在、中学生を指導する水谷仙祐教授は、「授業では全ての役割を練習しており、皆どの役割もこなせます。今回の分担は公平に、くじで決めました」と話す。

初の試みとして各生徒が自身の親に茶をたてた卒業茶会
初の試みとして各生徒が自身の親に茶をたてた卒業茶会

 例年、生徒は和服に着替え、両親や祖父母などを招くが、今回はコロナ感染予防の観点から招くのは保護者1人とし、着替えも省略して制服で実施された。

 受付係の半東に促されて保護者と廣瀬教頭、担任の押尾聡教諭が、水谷教授があらかじめ決めた客座に着くと、亭主役の生徒が茶室の端に座り、茶会の作法に沿ってこの日のテーマ「三衣一鉢(さんねいっぱつ)」について、「無駄なものをなくすと大事なものが見える」という意味を説明。菓子・茶の種類、茶室に掛けた書などの説明も行った。

 続いて、風炉(ふろ)の前に点前役の生徒が静かに座り、奥の水屋でも準備が始まった。数人の半東がお菓子を配ったあと、抹茶と湯の入った茶(わん)を持った生徒が1人ずつ客の前に歩み出て、慣れた手つきで茶筅(ちゃせん)を使い、茶を供し始めた。

 水谷教授は、「例年は水屋でお茶の用意をしますが、今回は感染防止の観点とともに、ご子弟の成長をご覧いただくため、各生徒が自分の保護者の前で茶をたて、供するようにいたしました」と話す。我が子が茶をたてる姿を、スマートフォンで写真や動画に収める保護者も多かった。

 茶会は20分ほどで滞りなく終了し、亭主から「今日のために練習を積みました。今後も鍛錬を続け、勉強にも励みたい」とあいさつ。担任の押尾教諭は「生徒には、日頃伝えられない感謝の気持ちを込めようと言いました。海外にも知られた茶の文化を身に付けることは、今後の糧になるでしょう」と締めくくった。

 準備では厳しく生徒に指示を出していた水谷教授も、「成長を感じます。皆、無事にやり遂げてくれました」と生徒の頑張りをたたえた。生徒も自身の成長を実感しているようだ。点前を担当した西尾祐人君は、「茶碗のお運びも亭主も、『気を配る』点は同じ。部活や日常生活でも、きちんとあいさつしたり、相手に道を開けたり、気配りが身に付きました」と話した。

 祖母が茶道の先生という間瀬陸斗君は「店などに行ったとき、店員さんのどの動きに思いやりが表れているか観察するようになりました」。間瀬君の母親も「しぐさが優しくなり、小さな子の面倒も見るようになった」と成長を喜んでいた。

高2は家族を相手に1人で茶会を担う

修了茶会は、それぞれの家族ごとの空間を作って行われた
修了茶会は、それぞれの家族ごとの空間を作って行われた

 午後は、高2のB組による「修了茶会」が行われた。例年は2人組で自分たちの保護者を客とし、交替で亭主や点前などを務めるが、中学と同様、感染防止の観点から、自分の家族を2人まで招き、生徒1人でもてなす形とした。

 会場となった二つの茶室では、壁に「春光日々新」「一以貫之」など生徒が自ら禅語を選んで揮毫(きごう)し、装丁した軸が掛かっていた。

 会場内には、びょうぶで仕切ったそれぞれの家族の空間が作られた。生徒が、客座に着いた両親に対し、「本日はお忙しいなか、ありがとうございます。拙いですがお楽しみいただければ幸いです」などと丁寧にあいさつし、茶会が始まった。我が子の改まった様子を一部始終、動画に収める保護者もいる。

 なかには所作の順番を一部忘れてしまう生徒もいたが、高校生指導担当の寺田良仙教授が近寄って優しく促す。「1人で茶会を担うのは大人でも大変ですから」

 親子の茶会は20分ほどで終了した。日常の顔に戻って談笑する生徒と家族に話を聞いた。軟式野球部部長の吉見悠君は「一つ一つの動作を確認しながら自分のものにする過程は、部活の練習と同じ。集中力も付いた」と話す。父親は息子のそんな精神面の変化について「最近は受け答えもしっかりし、私と議論もするようになりました。伝統文化を通して成長する教育を、今後も続けてほしい」と話した。

 茶道部にも所属する渡辺菜央君は、茶会の緊張が一気にほぐれたのか、足を崩してリラックスしながら「最初はお菓子が出るのがうれしいだけでしたが、季節によって出すお菓子が違うと知り、それにふさわしい花は……と興味が広がりました」と茶道の楽しみについて話した。母親は、「学校がじっくり見守って、筋の通った人間に育ててくれました」と感慨深げだった。

 寺田教授は、「所作の会得は小さな成功体験の積み重ねです。そこには気配りや礼儀など、社会で当たり前のことが含まれています。身に付けたことは全て将来役立つはず」と茶道を学ぶ意義を語った。

 廣瀬教頭によると、同校は茶道以外にも、日本やアジアに焦点を当てた人間教育のプログラムを実施している。中3の修学旅行では、時宗の開祖一遍上人が歩いたと伝わる和歌山県の熊野古道を4~5時間かけて歩く。中3の春休みには6泊7日の中国研修が行われる。同年代の生徒たちと交流し、中国の若者たちの生活ぶりを肌で知る。

 こうした体験学習も、「茶道や修養を通して静かに考える習慣が付いているからこそ、効果が期待できる」と廣瀬教頭は話す。「現代の子供は、余りに多くの刺激や楽しみに取り巻かれています。本校では、静かに自分と向き合い、物事にじっくり取り組む時間と空間を大切にしています」

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート)

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1956533 0 藤嶺学園藤沢中学校・高等学校 2021/04/05 05:01:00 2021/05/27 17:28:57 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210402-OYT8I50010-T.jpg?type=thumbnail

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