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【特集】「型」にとらわれず真の自由を求める「探求」学習…自由学園

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 男女別学の自由学園(東京都東久留米市)は昨年度から中等科で、個人テーマを1年かけて研究する総合学習「探求」を始めた。教師をアドバイザーとして選び、全学年合同で、土曜日のすべての時間を充てるというユニークな取り組みだ。また、「探究」でなく、あえて「探求」とした名称には、生徒に「自分らしさ」を見いだしてほしいというメッセージが込められているという。この自由な「探求」の授業をリポートする。

三つのフレームを取り払った「探求」授業

「『自分らしく生きる、より良い社会を作る』ということを大切にしています」と話す更科幸一校長
「『自分らしく生きる、より良い社会を作る』ということを大切にしています」と話す更科幸一校長

 同校の「探求」授業は、生徒自身がテーマを決め、授業内外で調べ学習やフィールドワークなどを重ね、3学期に発表を行うスタイルだ。ここまでは多くの学校が採用している枠組みだが、特徴的なのは、全学年ということや、毎週土曜日丸1日を充てていること、生徒が教員の中から1人アドバイザーを選び、相談や中間報告を交えて進めていくことだ。

 体育科の山本太郎教諭とともに、中心となって「探求」授業をつくり上げてきた数学科の鈴木裕大教諭は、「自分の学びに没頭できるよう、三つのフレームを取り払いました」と語る。「一つは年齢のフレーム。学年別のプログラムがなく、誰がどんな探求をやってもOKとしました。次は時間のフレームで、土曜を丸ごと充てました。本校は寮がありますから、その気があれば金曜の夜から月曜の朝まで没頭できるし、遠方の取材も可能です。3番目が教員と生徒の関係のフレーム。教員はレクチャーする存在ではなく、生徒とともに探求し、時には生徒に学ぶことを目指しています」

 もう一つ大きな特徴は、総合的な学習では教科名に「探究」を使う学校が多いなか、あえて「探求」という字を使っている点だ。これについて更科幸一校長は「この授業は、決められたことを決められた手順で学び、正解を出すということを目的とせず、生徒が自ら考え方のプロセスを定め、自身の内面と向き合って起案し、実行、検証に移すことを目的としているからです」と語る。「私たちは『自分らしく生きる、より良い社会を作る』ということを大切にしています。この『探求』も個人的な興味から出発し、自分らしさを見いだす足がかりにしてほしい」

鈴木教諭とともに「探求」授業をつくり上げてきた山本教諭
鈴木教諭とともに「探求」授業をつくり上げてきた山本教諭

 更科校長によると、この「探求」授業は、隔年で行ってきた伝統的な学習行事「学業報告会」への疑問から始まったと言う。各学年で一つ教科を決め、教員が主導して2週間かけて探究し、生徒が1人ずつステージで学習成果を発表するもので、「高度な内容で、発表の練習も行うので外部の評価は高かったものの、参加意識が低い生徒も多かった。そこで、2015年から改革を始めました」

 山本、鈴木両教諭はまず、従来の教員主導型に加えて生徒発案のテーマによるグループ研究や個人研究の部を設け、17年度には運営も生徒が参加するスタイルに変えた。「その後も生徒の工夫を取り入れ、取り組みにも熱が入ってきました。生徒から『毎年やりたい』『2週間ではなく通年で』という声も上がり、20年度にはトライアルとして個人探求を時間割に組み込みました」と山本教諭は振り返る。

 1年間をかけて毎週土曜日に実施することとしたのは今年度からだ。鈴木教諭は「今回も試行錯誤の最中で、ダメなら別の方法を試します。生徒の学びを最大化するために、あらゆる方法を試したい」と張り切っていた。

1人でもグループワークでも自由に取り組める

パソコンに向かって「探求計画書」を作成する生徒たち
パソコンに向かって「探求計画書」を作成する生徒たち

 取材に訪れた5月29日の「探求」授業は、自分のテーマの大枠を決め、他の生徒のテーマを知るという内容だった。

 まず、ホームルームの時間に「探求計画書」を作成する。テーマや目的、探求方法、スケジュールなどを記入する4ページの用紙が配られ、担当教員から「自分の興味を基に、社会貢献など一般の人も関心が持てる形に発展できるテーマを」「探求手法の情報を集めるのも重要」などのアドバイスが行われた。

 説明が済み、用紙に記入する段になると、多くの生徒が席を立ち、教室は休み時間のように雑然とした雰囲気になった。数人で何かを話し合う生徒もいれば、一人黙々と記入する生徒もいる。計画書に書かれたテーマは「ペットボトルロケットの飛ばし方」「韓国語」「競馬について」「目と電子機器の関係」などさまざまだ。

 その間に教員たちは、生徒が持ってくる計画書を確認したり、1対1で話し合ったりしてファシリテーターを務める。なかには早くも資料集めにかかる生徒もおり、ある教室では共通のテーマを持つ4、5人が窓際でノートパソコンを開き、WEBサイトを見たり、スライドショーへの書き込みを行ったりしていた。

「問いを深め合う」授業でグループを作り、話し合う生徒たち
「問いを深め合う」授業でグループを作り、話し合う生徒たち

 次いで2時間目は「問いを深め合う」活動に移った。生徒たちは事前に各教員が担当科目や趣味、関心領域などを記入した一覧表を基に、自分のアドバイザーを選ぶ。教員アドバイザーの共通する生徒たちが、学年・男女の別なく集まってグループをつくり、移動した先の教室でそれぞれのテーマを発表し合った。

 5人ほどのグループの話し合いの様子を見てみると、「児童文学の歴史」をテーマに挙げた生徒が他の生徒から「どの辺の本?」と聞かれ、「例えば戦争期の子供絵本」などと答えている。別の生徒は「戦争に使われた道具」「シャーロック・ホームズ」「空想科学」と複数のテーマを挙げ、教員から「効率よく進められるよう、絞り込んでいこうね」とアドバイスを受けていた。

 グループの人数は2~8人と幅があり、教員の姿がないグループも少なくない。また、1人でノートやパソコンで作業する生徒もいた。アドバイザーを選ぶかどうかも自由なのだ。「1人の方が良い生徒もいるので、グループワークは必須ではありません。また高校の授業などで参加できない教員もおり、その場合は別の時間に面談を行います」と、ある教員から説明を受けた。

 最後の3時間目は、調べ学習の手法を体験する時間として、図書館の利用法の説明や、学校の建物のサイズを自分の体の各部を物差しに測るワークショップが行われた。

「『楽しかった!』と思ってほしい」

「生徒と共に探求し、時には生徒に学ぶことを目指しています」と話す鈴木教諭
「生徒と共に探求し、時には生徒に学ぶことを目指しています」と話す鈴木教諭

 同校は校名が表す通り、「真の自由人」を育てることを教育目標としており、生徒が自らの手で毎日昼食を作り、木材から自分の学習用の椅子を作るなど、特色ある教育を行っている。総合学習の内容にも「真の自由」を求める姿勢が色濃く反映されていると感じた。

 この「探求」授業を生徒はどう感じているのだろうか。中2の山田海斗さんは昨年、「校舎の改装案」を探求した。「自分で考えたテーマを調べ、理解する」ことを楽しむ一方、予算や敷地などの問題で苦労し、「制約を踏まえて実現する方法を考える発想」が身に付いたという。今回は学園周辺の風景や歴史をまとめたアルバムを作る予定で、「時間の制限の中で効率的な進め方を考えたい」と意気込んでいた。

 中3の川本ひなたさんは、「中学生の心理を自らの観点で調べたい」と話す。昨年は、「外見が与える印象」をテーマに生徒にアンケートを取り、主観と客観の違いを考察した。グループ間のミーティングも「社会の見方がそれぞれ違うのが面白い。自分がこれまで見なかったことに気付ける」と楽しそうだった。

 中3の高橋 怜音(れお) さんは昨年、児童労働やフェアトレードについて探求した。今年は「漫画と小説の描写の違い」をテーマに考えている。「興味がある問題を深く知ると、その問題にもっと関わる行動をしたくなる」と言う。

 鈴木教諭は「取り組みの姿勢は皆異なります。停滞のように見えても、本人の中ではそうとは限らない。それを対話によって把握しつつ、伴走するのが我々の役目」と教員たちの心構えを話した。更科校長は、「学びから『型』を取り払うべきだという確信は高まっています。形式を整えようとした途端に、学びの本質から外れます」と語った。

 今後もグループの集まりや中間発表を挟みながら個々に「探求」を進め、3月には4日間にわたる発表会を実施する予定だ。「最後に『楽しかった!』と思ってもらいたい。それが、次の学びや実践につながります」と、更科校長は笑顔で語った。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:自由学園男子部・女子部 中等科・高等科)

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2180329 0 自由学園男子部・女子部 中等科・高等科 2021/07/07 05:01:00 2021/07/07 05:01:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210705-OYT8I50024-T.jpg?type=thumbnail

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