女子校における先輩推し文化…辛酸なめ子<15>

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国民の憧れ、皇后さまも中学時代は

女子校では、自分の思いを伝える疑似恋愛の相手は憧れの先輩(写真はイメージです)
女子校では、自分の思いを伝える疑似恋愛の相手は憧れの先輩(写真はイメージです)

 先日、上野公園でコンサート帰りの皇后さまと遭遇するという幸運に恵まれました。クラリネットの演奏を聴いたあと、晴れやかな表情で東京文化会館から出てこられた皇后さまは、エレガントなグレーのケープのツーピース姿でした。神々しく幽玄なグレーヘアと優美なハーモニーを奏でているようです。皇后さまは随行の人にお辞儀すると、黒光りするセンチュリーに乗り込まれました。5、6センチくらいのヒールの靴をお履きになっているのも素敵(すてき)でした。若輩者の自分がフラットシューズに甘んじている場合ではありません。周りの女性たちが「皇后さま~!」と感極まって叫んだり、「長い間ありがとうございました~!」と大声でお礼を言ったりしていました。思わず私も「美智子さま~」と声を上げてしまいました。皇后さまは永遠の憧れの存在です。女性として、人生の先輩として……。同性にも信奉される皇后さまは、女子校の出身でもあらせられます。今、国民に憧れられる皇后さまですが、聖心女子学院時代は、憧れる先輩がいらしたのです。

 皇后さまが表紙の「女性自身 皇室SPECIAL増刊」(2019年1月25日号)に、その当時のお手紙が掲載されていました。15歳、中学3年生の皇后さま、(当時は正田美智子さま)が3学年上の憧れの先輩に送られたというもの。畏れ多くも部分的に引用させていただきます。

 「何かの詩集で、“労働の(ため)の一日 運動の為の一日 しかしその一日は友情の為にはあまりにも短すぎる”と()う詩を読んだことを記憶して()ります」という知的な書き出しで始まったお手紙に皇后さまの文才と教養が現れています。文字も頭の良さそうな筆跡です。

 「私達が中等科の一年に進級した時から三年間 何て歳月は早く()ってしまうものなのでしょう。“歳月人を待たず”って申しますけれど あまりにも短く思われる三年間だった(だけ)に“レ・ミゼラブル”と歎息したくなります」

 「ああ無情」という意味でしょうか。今も皇后さまのお言葉には、文学的な表現や暗喩が隠されていたりしますが、15歳の時から機知や教養に富んでいたことが察せられます。

 「でもこの三年間(何度もくり返しますが)この手に負えない おハネな私(ども)をいろいろ()導き(くだ)さったことには本当に 三回まわってワンワンと百度云う(ほど)御礼を申し上げなければならないことと思って居ります」

 と、ユーモアと感謝を交えられる15歳の皇后さま。おハネとはおてんば娘を表すようです。でも、後半はシリアスに、島崎藤村の詩を引用して先輩へ思いをつづります。

 「風よ 静かに 彼の岸へ こいしき人? を吹き送れ」

 原文の詩に?を付けて、先輩への本気とも冗談ともつかない気持ちを表現。そして最後の一文は

 「御多々々々々々幸を御祈り致します (私アブノーマルですから“多”を沢山(たくさん)書きました)」と、ありました。先輩と美智子さまの間に、友情以上の感情があったような空気感が伝わってきます。頭が良くて機転がきき、おてんばで美少女な美智子さまのことを先輩もさぞかわいがっていたことでしょう。

 川端康成「乙女の港」や、吉屋信子の小説にも書かれていますが、当時女子校では、上級生と下級生が仲良しになることを「S」(シスターのS)と呼ぶカルチャーが(ひそ)かに息づいていました。

 内田静枝の「女学生手帖」(河出書房新社)にも、大正生まれの弥生美術館館長がフェリス女学院時代の思い出を語る文章が掲載。「二級上の綺麗(きれい)な人」が好きで、彼女がよく放課後ショパンを弾いていたのを聴いていたけれど、もうすでに相手がいて割り込む隙がなかったとか。エス同士、素敵なレターセットに手紙を書いて下駄箱(げたばこ)に入れて文通する風習があったそうです。ピアノとか文通とか美しい情景が浮かびます。

平成の女子校の風習に思いを寄せて

 私が女子校に通っていた時も、先輩に憧れるという文化は健在でした。主に部活の先輩に疑似恋愛し、バレンタインデーにチョコを渡したり、先輩が部活を引退する時は花や手紙を送ったり……というピュアな交流です。私は美智子さまのような教養や機知が漂う手紙は書けませんでした。緊張して何を書いていいのかわからず、結局「体に気を付けてください」「受験勉強がんばってください」とつまらないことを書いてしまっていました。そう思うと、美智子さまは先輩に対して臆することなく、自分の世界観を表現していて、大物の器でいらしたことが拝察されます。

 女子校の中には、モテて周辺の男子校から引く手数多(あまた)の女子校、男性教師が豊富でそれで事足りている女子校などもあり、そこでは先輩に憧れる風習はあまりないようです。それ以外の、男子と縁が薄い女子校では同性との疑似恋愛が発展する傾向が。

 何年か前、女子校出身者を取材したとき、某有名お嬢様学校出身の女性が

 「女子校で6年も過ごすと、『男に走る』『女に走る』『二次元に走る』にだいたいわかれます」と語っていたのが印象的でした。それにさらに「ジャニーズに走る」というパターンがあるかもしれません(私は憧れの先輩とかわいい後輩とジャニーズに思いを分散させていました)。

 最近の女子校ではどんな感じなのでしょう。20代の、日本女子大付属出身の若い女性にエピソードを伺いました。

 「舞台系の部活が強いので、舞台に出ている先輩のファンクラブがあったりしました。宝塚っぽい部活があったので、その男役が人気でした。好きな先輩にプレゼントする子もいましたよ」

 さすがプレゼントもお金がかかっていて、

 「デカいぬいぐるみに先輩が着ていたのと同じ衣装を着せてプレゼントしたり。あとは先輩が欲しいと言ったデカい姿見を家まで持って行った子もいました」

 本物の宝塚のスターを応援しているかのようなプレゼント内容です。ちなみに、かつては下駄箱で文通していましたが……

 「私たちの時代はメールでした。メアドを聞いて、週末に会って遊んだりとか」

 先輩にメアドを聞く……? それはハードル高すぎです。下駄箱で良かったかもしれません。実体のないデジタルデータのやりとりよりも、手紙の方が情緒があって筆跡からも伝わるものが。

 ただ、後世に残ってしまうというのが、黒歴史になる危険も。美智子皇后様のような完成された文章の手紙でしたら、後世の人も感銘を受けるのだと思いますが……。当時の思い出は、自分の中に封印したいです。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

無断転載禁止
516983 0 マナビレンジャー 合格への道 2019/04/01 15:01:00 2019/04/11 17:42:12 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190401-OYT8I50028-T.jpg?type=thumbnail

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