読書力のない子にやたら問題を解かせるのはマイナス…水島醉<3>

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読書は「ランニング」や「筋トレ」に相当する

読書はスポーツでのランニングや筋トレと同じ。国語の基礎体力となる(写真はイメージです)
読書はスポーツでのランニングや筋トレと同じ。国語の基礎体力となる(写真はイメージです)

 前回、京都大学の入試問題で7割、中学入試の模試で満点をとった国語力の高い生徒の例を挙げましたが、小学生の段階で京大の入試問題が解ける必要はありません。もちろん1点でも高いに越したことはありませんが、実際の中学入試においても満点を取らなければならない、ということもありません。

 模試の国語の読解問題で平均的に7~8割以上正答する子供なら、入試対策に関してのみ言えば、それ以上訓練としての読書はあまり必要ではありません。模試で5割程度しか正答できないなら、まだまだ文字・文章を読む力=読書力が足りないので、まずはしっかりと本を読むことに時間を割く必要があります。

 読書は、スポーツなら、「ランニング」や「筋トレ」に相当します。例えばサッカーで、どんなにドリブルが得意で、2、3人がかりのディフェンスもスイスイ抜いていけるほどの高い技術を持っていたとしても、10メートル、20メートル走るとへばってしまうような者なら、試合には役立たないから選手にはなれないでしょう。

 国語においては、読書が基礎体力です。文を読んで理解できなければ、どうにもなりません。これは当たり前の話です。走れなければサッカーの選手にはなれません。計算が正確にできなければ算数は解けません。ごくごく当たり前の話なのです。

「切抜問題」でかえって悪いクセが付く場合

 私は「長文切り抜き問題(元は長い文章の一部分を切り抜いて、それに対して問いを作成した読解問題、以下 切抜問題)」を、国語力を上げるツールとしてはふさわしくない、それどころか、かえって害になることがあると、よくお話しします。読書力という基礎体力の付いている子供になら、使い方によっては良い教材になる場合もあるのですが、まだ読書力の低い、つまりまだ文章がよく読めない子供にとって、「切抜問題」には幾つかの良くない点があります。

 一つは、「切抜問題」は完結していない、長い文章の一部分を用いているので、その全体像が捉えにくい、という点です。読書経験の豊富な子供なら、一部分の切り抜きの文章を読まされたとしても、その前後が想定できますが、読書経験の少ない子供にとって、前後の切り取られた「切抜問題」は、全体像が見えないのです。

 二つ目。文章がまだよく読めない子供は、出題の文章そのものがよく読めないから、その詳細が読み取れない。また、設問の意味さえも十分に分からない。そういう状態のまま問題を解くことになってしまう、という点です。

 例えば「太郎の気持ちを、文中から5字の言葉を書き抜いて答えなさい」という設問の場合、文章の読める子供は「太郎の気持ち」に焦点を当て、問いにふさわしい気持ちの書かれた部分を的確に探すことができます。そして、その後に、「5字」という指示に合うかどうかを見て、正解か不正解かの判断材料とします。

 しかしながら、文章のよく読めない子供は、意味が分からないまま、ひたすら「5字」の言葉を文中から探します。だからそれが「太郎の気持ち」ではなく「花子の気持ち」であっても、あるいは全く「気持ち」とは異質の内容の部分であっても、それを解答として記入して平気なのです。

 また指示語「『それ』の指している内容を答えなさい」という設問の場合、「指示語は少し前を探す」とどこかで教えられているのでしょう、『それ』の3~5行ほど前を一所懸命読んで、何度も何度も読み返して、そうして全く見当はずれな言葉を答えたりします。もうあと数行遡って読めば正答があったりするのに、読めない子は意味で考えずに「ただ探す」という作業をするので、正答のすぐそばまでたどりついても、やっぱり分からないんですね。本当は、指示語だからといって「少し」前とも限らず、「ずっと」前かもしれない。また、その指す内容が指示語より「後」の部分に書かれていることもあります。

 読めないから意味が分からず、意味が分からないから考えずにただひたすら「探す」という作業をする。読書力がまだまだなのに、ルーチンのように「切抜問題」をさせられていると、意味が分からないまま、とにかくそれっぽい言葉を探して書き入れることが国語なんだ、と体で覚えてしまいます。

 これが「切抜問題」を解かせることの、最大の弊害です。勉強に限らず、いったん付いたクセというものは、なかなか直らないものです。こうして付いた悪いクセは、さらに習慣となってより深く体に染み付いていきますから、直すにはよほどの覚悟が必要になります。

効果の高い学習法「10回音読」とは

 国語が不得意な子供であっても、ただ単に読書の経験が足りない、読書量が少ない、という子供であれば、その国語力を上げるのは、実はそんなに難しいことではありません。しかし、読書が十分できない段階から「切抜問題」をたくさんさせられて悪いクセが付いてしまった子供については、これは、もう、たいへんです。マイナスをゼロまで引き戻すためだけに、かなりのエネルギーと時間が必要となります。

 中堅クラスの中学の入試問題なら、問題の文章と設問がきちんと読めさえすれば、7~8割は正解できるレベルです。それが証拠に、そのような問題の文章と設問をこちらが声に出して読んでやれば、国語が不得意な子供でも多くは正しい答えを口で述べることができます。耳で聞いたら理解でき、正しく解ける設問でも、自分の目で読まないといけない状態だと、正解できないんですね。

 ですから私は、偏差値60までの中学校の入試問題なら、読書が好きな子供さんなら、そんなにたいそうな受験勉強をしなくても十分合格できますよ、とお話しするのです。もちろんそれを超えるような学校ですと、問題文の内容が理解できたとしても、正答を見つけるのは困難になりますし、読書以上の対策が必要になります。

 読書は基礎体力です。文章を読む力が十分に備わっていないのにそれ以上のことをさせても、力が付くどころかかえって国語力を落としてしまうのです。

 おうちでできる、国語の得意でない子供にどうしても必要かつ最も効果の高い学習は「10回音読」です。クラスで1番を取るような子供にでも、「10回音読」が有効な場合は多々あります。「10回音読」とは何か。どのように学習するのか。自分の子供には効果があるのか。次回はその詳細と具体的な方法についてお話ししたいと思います。

プロフィル
水島 醉( みずしま・よう
 1990年から「エム・アクセス」講師。「問題を解かせる→解説」という授業は国語力の向上につながらないと考え、「読書・思考・記述」を中心とした国語指導を展開している。「読む・聞く⇔書く・話す」の4ルートを鍛えることによって国語の地力を向上させる「視聴話写」という教材を開発。子供の心の成長と学力との関係を重視し、「マインドフルネス学習法」を提唱、授業に応用している。著書に「国語力のある子どもに育てる3つのルールと3つの方法」(ディスカヴァー携書)、「進学塾不要論」(同)など。

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707397 0 マナビレンジャー 合格への道 2019/07/26 05:21:00 2019/07/26 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190723-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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