雙葉の秘密の風習(後編)…辛酸なめ子<20>

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バレンタインに発揮される大量生産スキル

イラスト・辛酸なめ子
イラスト・辛酸なめ子

 中高の青春のワンシーンとして、卒業式の時に好きな先輩から第二ボタンをもらう、というセレモニーがあります。女子校ではそんなときめきとは無縁、と思うのは早計かもしれません。前回に引き続き雙葉ご出身の左子さん(YouTuber名、Natsumi Peneloppeさん)、Oさんにお話を伺わせていただきます。

 女子校の風物詩として運動部のかっこいい先輩に憧れるといった風潮はあるのでしょうか?

 「部活ごとにいますね」とOさん。そして左子さんは

 「年に一回球技大会と運動会があって、運動系部活の人が中心になり試合に出たりします。そこでかっこいい先輩がいると人気になったり。あとは、演劇部や音楽部などにもそれぞれ人気の先輩がいますね」とおっしゃいます。

 バレンタインデーとかに先輩にチョコをあげるとかあるのでしょうか? そう伺うと、意外な答えが。

 「バレンタインは友達のイベントです。みんな全員分作ってきて全員と交換みたいな」と、左子さん。数十個大量生産するんですか? 大変そうですが、社会人になった時にそのスキルは生かせるかもしれません。

 「自分で作るのが苦痛な場合、買ったチョコを詰めてる人もいました。参加しない人もいますが。とくに強制ではなく、なんとなくはじまった風習です」と、Oさん。

 数十個にもなると、買うより作った方が安上がりかもしれません。購入したら数万円はかかりそうです。経済力があるなら可能ですが…。

 「大きいケーキを作って(さい)の目に切って配ったりしていました」という左子さんのやり方が現実的で良さそうです。

 「社会人になってからのバレンタインは、どこまでの人に渡すとか結構悩むので大変ですよね。友チョコの方が楽しかったです」と、Oさんは昔を懐かしみました。

 それでは先輩とのメモリアルなイベントは何があるのでしょう。

先輩と後輩をつなぐ運命のアイテムは意外すぎる日用品

 「バレンタインよりも靴ひもですね」

 その想定外の言葉に耳を疑いました。えっ靴ひもですか…?

 「先輩に告白するのは靴ひもでします」

 何かパワーワードを聞いた感が。どういうことか教えてください。

雙葉には好きな先輩から靴ひもをもらう文化がある(写真はイメージです)
雙葉には好きな先輩から靴ひもをもらう文化がある(写真はイメージです)

 「うちの学校のならわしで、好きな先輩の靴ひもをもらう文化があるんです。毎年、学年ごとに色が決まっていて、学年が上がるごとに靴ひもの色も変わります。学年が変わるタイミングで、好きな先輩にいらなくなった靴ひもをもらいにいくんです」という左子さんに、

 「第二ボタン的なイメージです」とOさんは補足します。赤、ピンク、緑、黄色、水色、紫、といった学年カラーに合わせて靴ひもの色も毎年更新するとか。

 第二ボタンは心臓に近いといういわれがありますが、靴ひもはどんな効能があるのでしょう。ヨガの教えではエネルギーは高い方から低い方に流れ、足から出るという説があるので、そういう意味では靴ひもには先輩のエネルギーがチャージされているかもしれません。

 具体的にはどうやってもらいにいくのでしょう。この風習について興味が尽きません。

 「まず、3月頃に先輩の教室に行き、『靴ひもください』と予約しにいきます。そして4月になったら先輩が渡してくださるという流れです」

 左子さんによると、靴ひもをもらいに行く時は本当の告白みたいに緊張するそうです。想像するだけでドキドキしますし、自分が先輩の立場になったらその時期そわそわしそうです。

 「先輩の教室に行って誰々さんいますか、と呼んでもらうんです。緊張感ありますね」

 「誰かについて来てもらうこともあります」と、Oさん。

 風習として確立されているからこそ違和感なく受け入れられる申し込み。ちなみに私よりちょっと年下の雙葉出身の女性に聞いたら、この風習はすでにあったそうで、少なくとも20年以上、たぶんもっと昔から続いている伝統のようです。

 靴ひもはうわばきが一番人気で、それが品切れになると体育シューズの靴ひもになるそうです。人気で全て予約済みになって、わざわざ新しい靴ひもを買って後輩にあげる人もいたとか。

 おふたりとも、それぞれもらったりもらわれたりした体験があるそうです。

 「私は中1のとき、中3の憧れの先輩にもらいました。もらわれる側になると、一回申し込まれると次の年ももらいに来てくれるかドキドキ感がありますね」と、左子さん。

 次の年、別の先輩にもらいに行っている後輩の姿を目撃すると、軽くショックだとか。

 一本ももらわれない先輩も…もちろんいるそうです。

 左子さんは「部活によって先輩後輩の距離感が違います」とおっしゃいます。

 「体育会系や演劇部など上下関係厳しめなところは、先輩に憧れる傾向があって靴ひもの風習も盛んです。科学部や手芸部など、週一しか活動しなくて、アットホームで仲がいい感じの部活は先輩があまり憧れの対象にならないというのがあると思います」とOさん。

 やはり適度な上下関係や緊張感があると、先輩への畏怖の気持ちが高まるのでしょう。そして、至高の存在の先輩のエネルギーがこめられた靴ひもを欲するようになるのです。

 「人によるんですけど、プレゼントや手紙を渡して靴ひもをもらう後輩がいたり、逆に靴ひもと一緒に小さいプレゼントを渡してくれる先輩もいます」

 ちなみに靴ひもの汚れは…。

 「先輩によってはきれいですね」と、Oさん。

 「汚れているほうが使ってる感があって(うれ)しかったり。でも私は洗ってから渡してました」と、左子さんはマニアックなコメント。

 ちなみに靴ひもだけでなく、運動会の伝統の踊りで高3の先輩が両手に付ける花飾りを、後輩がもらいにいく風習もあるそうです。知人の雙葉出身者の方は、先輩にもらった花にバラの香水が吹きかけてあって、そのセンスにますます憧れが高まったと思い出を話していました。花の飾りとかだと女子校っぽくてわかりやすく美しい風習です。靴ひももマニアックで独特で素晴らしい風習ですが…。たぶん清らかで美しい雙葉生からなら、何をもらっても、(たとえ靴の中敷きでも)良い思い出になるような気がします。ちなみにもらった靴ひもはそのあとどうなるのでしょう。

 「私は今も先輩のを持ってます」という左子さんに対し、「家にないので捨てた気がする(笑)」とドライなOさん。保管状況も人それぞれのようです。

 先輩と後輩をつなぐのは、運命の赤い糸ならぬ、運命の靴ひもでした。今の自分には靴ひもをもらいたいくらい尊敬する存在はいるのか…改めて考えさせられる取材でした。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

無断転載禁止
770812 0 マナビレンジャー 合格への道 2019/08/30 14:41:00 2019/08/30 14:41:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190830-OYT8I50001-T.jpg?type=thumbnail

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